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【インドで急増】日系企業が今注目すべき“海外人材活用モデル”GCCとは?

日系企業が今注目すべき“海外人材活用モデル”GCCとは?

今回はですね、インド国内にどんどん増えているGCC(グローバル・ケイパビリティー・センター)について、その戦略的な価値とそこから見えてくる日本企業への示唆について深ぼって解説してみたいと思います。

日本は少子高齢化、国内市場の縮小という慢性的な課題に直面していて、特にIT人材不足はこれからますます深刻になっていきますよね。正直、国内だけで優秀な人を採用したり、ましてやグローバルに事業を展開していくっていうのは、もはや難しくなってきている状況だと思います。 そんな中でインド人材の活用は無視できない経営戦略のひとつになってきています。そこで今回の動画では、今後日本企業がグローバル競争力を取り戻すうえでもっとも重要な戦略のひとつであるGCCの活用と、実際にGCCを設置・運営する上での課題、そして、それを克服するための実践的なマネジメント方法も合わせて解説いたしますので、ぜひ最後までご覧ください。

GCCとは何か?コストセンターから戦略的イノベーションハブへの変貌

インド国内のGCCは2025年現在で1,700社以上あって、約190万人以上ものインド人がGCCで雇用されていると言われています。その中でもベンガルールがあるカルナタカ州には全体の30%以上を占める500社以上、60万人以上ものインド人が雇用されていてですね、多くの企業が優秀でコスト競争力のあるインド人材を求めてインド国内に設立する自社拠点の新しい形態として、今やGCCはグローバル競争力を決定づける戦略的投資対象になってきています。そこでまずは、GCCとはそもそも何なのか?GCCの役割とこれまでの成長の変遷・経緯について見ていきたい思います。

まずGCCの定義と、その役割がどう変わってきているのかを見ていきたいと思います。

GCC(グローバル・ケイパビリティー・センター)っていうのは、「企業が自社で運営する海外拠点」のことで、インドGCCの歴史を振り返ると、最初は1990年代のコールセンターやデータ入力といった定型的なバックオフィス業務のアウトソーシング、いわゆるBPO業務から始まりました。それが2000年代に入ると、外部委託ではなく現地で直接雇用するスタイルも増えていき、近年ではこの役割が上流工程の業務にまで高度化してきています。例えば、R&D(研究開発)とか、AI実装を含む複雑なエンジニアリングやサイバーセキュリティ、そしてイノベーションを担う中枢へと進化しているわけですね。

NASSCOMとZinnovの調査レポートによると、2019年度時点でのインドGCCにおけるデジタル技術浸透率として、AIや機械学習、もしくは、サイバーセキュリティ領域がそれぞれ65%、55%だったところから、2024年度にはそれぞれ86%、88%にまで増えてきていて、この5年ほどでGCCでは特にAI領域とサイバーセキュリティ領域における技術活用が急速に進んでいることがわかります。

インドが「世界一のハブ」として選ばれる決定的理由

なぜインドがGCC拠点として、これほどまでに支配的な地位を占めているのかについても整理しておきたいと思います。

優秀なエンジニアの豊富な人材プール

GCCの設立先としてインドが注目される最大の理由は、「質が高い人材を大量に確保できる」という点に尽きます。インドは毎年約150万人のエンジニアリング学生を輩出していて、世界有数の理工系人材の輩出国になっています。インド国内の欧米系企業に勤務するAI・機械学習エンジニアも多くて、昨今のH-1Bビザの規制強化が、インド国内で優秀なエンジニアをより確保しやすい環境を後押ししている側面もあります。インドでは、1社で数千人規模の開発拠点を運営することは珍しくないんですけど、これだけ豊富な人材プールがあるおかげで、短期間で組織をスケールアップできるだけの柔軟性も担保されているわけですね。

ビジネス英語力とインターパーソナルスキル

2つ目は、ビジネス英語力とインターパーソナルスキルです。

インドは公用語の一つが英語なので、欧米企業にとって言語の壁が低いっていうのはもちろんなんですけど、インド人がある種共通して持っている対人関係能力、つまり、世界中の人と物怖じせず、かつ、分け隔てなく英語でコミュニケーションができるインターパーソナルスキルの高さは、インドが選ばれている理由のひとつにあると思います。

あと、これまでのGCCの歴史を振り返ってみても欧米流のビジネス習慣や働き方に慣れているインド人が多いとか、そもそもの文化的相性が良いという側面もあったのかもしれないですね。この点、日本とインドの日印チームづくりにおける歴史はまだまだこれからというところもあって試行錯誤が必要ですけど、インド人の本性やインドという国が持っている文化についてはこちらの動画でも詳しく解説をしていますので、もしご興味ある方はぜひご覧ください。

整備されたITインフラ

3つ目は、充実したテックインフラです。
バンガロールやハイデラバードといった主要都市には高度なITインフラが整備されていて、州政府もGCC誘致のための特別政策やインセンティブを強化しています。例えば、カルナタカ州のGCCに特化した優遇政策については以下記事でも詳しく解説していますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。

日本企業がGCCに期待する戦略:DX加速とBOTモデルの活用

日本企業によるGCCの活用はまだまだ歴史が浅いんですけど、近年、国内の人材不足という慢性的な課題を背景にGCCを設置しようという動きが加速していて、GCCの設置をまずは10人以内の小さな規模からスタートして、徐々に機能実証をしながら拡大していくといった形で、弊社でもGCC拠点の立ち上げを代行・伴走支援させていただくケースが増えてきました。ある調査では、2028年までに日本企業のGCCは150拠点・35万人規模に増える見通しだとも報じられています。

日本企業がGCCに期待できる成果は大きく3つだと考えています。

  1. DXの加速
  2. グローバル開発力の強化
  3. 人材育成と組織変革

1つはDXの加速で、AI開発や実装など先端デジタル技術の内製化と実装スピードの向上、 2つ目はグローバル開発力の強化で、例えば次世代バッテリーなどの新しい技術・製品の開発、また、世界に通用するプロダクト開発力の底上げですね、 そして、3つ目がなんといっても人材育成と組織変革で、ここが個人的にはもっとも重要かつ時間がかかる部分だと考えています。日本では採用が難しい高度IT人材の確保はもちろんのこと、優秀なインド人社員が社内で活躍することによって組織に新しい風を吹かせることができますし、組織全体のカルチャーをよりグローバルに育てていくこと、そして、社内から次世代のグローバルリーダーを育成することにも繋がっていきます。

GCCの立ち上げにおいて、日本企業で採用が増えているのがBOTモデルです。つまり、Build構築して、Operate運営して、そして、Transfer移管する、というモデルですね。

GCCをゼロから立ち上げるのは、人材採用や拠点の立ち上げ、そして、運営負荷がむちゃくちゃ大きいので、BOTモデルは、まず弊社のような専門業者にGCCの「構築」と「運営」を任せてしまい、一定期間後にノウハウや体制が整ったところで、自社に「移管」して一気に内製化してしまう、という方法です。このBOTモデルを使うことによって、外部の専門家に人材採用や拠点の立ち上げ時のノウハウを得ながら、リスク管理は専門家にお任せしつつも、最終的には自社のケイパビリティとして完全に取り込めるわけです。GCCを「小さく始めて、大きく育てる」という段階的なプロセスを踏む上で、このBOTモデルはむちゃくちゃ有効な手段になってきています。

【事例解説】第一生命HDの戦略的GCC活用

それでは、実際に最近GCCをインドに設立した日本企業の事例を見ていきましょう。

日本の伝統的な大手金融機関である第一生命ホールディングス(HD)は、2025年6月、日本の生命保険会社として初めてインドにGCCを設立しました。プレスリリースによると、彼らがGCCを設立したのは、グローバルでのデジタル変革(DX)を加速させるための高度専門人材の育成拠点として、そして、グループ全体のデジタル組織力強化とその内製化を図ることが目的としていて、同社のインドGCCのポイントとしては3つほどあるかなと考えています。

GCCの立地戦略と導入モデル

まず1つ目は、立地戦略と導入モデルです。

GCCはインド南部のハイデラバードに設立されました。ハイデラバードはテランガナ州にある南インドの都市のひとつで、人件費が高くなってきているバンガロールと比較して、コストが抑えられて、かつ高品質な技術人材プールにアクセスができるという、戦略的なバランスの取れた選択肢なんですよね。 導入モデルとしては、先ほど解説したBOTモデルを採用しています。フランスのIT大手キャップジェミニ社と戦略的パートナーシップ契約を結んで、同社のノウハウを活用しながら、将来的には自社で内製化していく計画を立てているわけですね。第一生命ホールディングスは、このGCCを短期的なコストセンターではなく、将来の競争優位性を確保するための戦略的コアアセットとして位置づけていると述べています。

GCCの機能領域と人材確保

2つ目のポイントは、GCCが担う機能領域と人材確保という観点です。

第一生命のGCCは、単なる事務処理ではなく、AI(人工知能)、データソリューション、サイバーセキュリティ、そして先進的ソフトウェア開発といった、グループの将来の競争優位性に直結するコア機能に集中しています。 彼らがインドを選んだ主な理由として、「IT・デジタル領域で優れた人材を育てるための充実した教育制度がある」点を挙げていますけど、特にハイデラバードは、国内でも一流大学が多く、インド工科大学(IIT)やプネ大学とも提携をして、長期的な人材の囲い込みと人材育成スキームを構築しているようです。こういった地域は、テクノロジーにたけたIT人材が豊富で、かつ、バンガロールと比べてコストを抑えられるという点で、人材確保がしやすいというメリットは大きいですよね。

インドの異文化対応と人材戦略

3つ目のポイントは、独自の異文化対応と人材戦略です。

第一生命のグループCIO兼CDO(いわゆるデジタル部門のトップですね)であるバーナム専務執行役員によると、インドGCC設立にあたってもっとも大きな課題として認識しているのは、「言語の違い」ではなく、むしろ「文化の違い」に注目している、っていうのはとても賢明でありかつ重要なことだと感じます。例えば、工程を細かく決めて予定通りに順を追って処理していく日本のやり方に対して、スピード重視のインドのやり方はお互いにすれ違いを生み出すわけですね。この文化の壁を乗り越えるために、日本のことを理解しているインド人の採用や、インドのことを理解している日本人が橋渡し役を担えるような人事戦略や日印の異文化交流にも力を入れているようです。

これまでご説明をしたこの3つポイントにおいて、第一生命のインドGCC設置事例は、他の伝統的な日本企業にとっても今後むちゃくちゃ重要なベンチマークになるのではないかと考えています。

GCCの落とし穴:人材流出と文化の壁を克服するマネジメント戦略

ここまで、GCCの魅力についてお話してきたんですけど、落とし穴もあるので注意が必要です。ここでは、インドGCCの運営における主な課題と、それを克服するためのマネジメント戦略について見ていきたいと思います。

人材確保と定着の難しさ

まず1つ目は、なんといっても人材確保と定着の難しさです。

インドでは優秀な人材への需要がむちゃくちゃ高くて、前回ご説明をしたEORなどのスキームを活用したリモートワーク前提での獲得競争も激しいので、人材採用と離職率管理が大きな課題になりがちです。現地では、年次昇給率が平均10%ぐらい、転職時には20〜30%の昇給が当たり前の市場なので、人件費もどんどん高くなっていきます。 さらに、高い給与を提示するだけでもダメで、日本への出張機会だったり、最先端プロジェクトへの参画機会だったり、さらにはグローバルでのダイナミックなキャリアパスを示すことが、長期的な定着のためにむちゃくちゃ重要な鍵になります。このあたりの采配は日本とはかなり違うので要注意ですよね。

日印での異文化マネジメントとチームづくり

あともうひとつは、まさに第一生命HDの事例でも言語の違い以上に課題感を持って取り組んでいる、日印での異文化マネジメントとチームづくりです。

GCCの成功は、技術力や組織の規模だけではなく、日本本社の組織的な適応力にかかっていると言っても過言ではありません。日本企業は、現地のGCCに対してもつい日本の文化や厳密な「品質至上主義」を要求してしまいがちなんですけど、ただ、現地で働く優秀なインド人材は、目標を達成するためのスピーディーかつ柔軟な意思決定権や迅速なフィードバックを求めていると同時に、どうすれば自分自身のキャリアをより向上させていくことができるかを常に考えています。

日本のやり方を過度に押し付けてしまうと、GCCが単なる「日本の拡張オフィス」でしかなくなってしまって、せっかく採用した優秀な人材がキャリア成長の機会を求めて結局は転職していってしまう、こういった結果になりかねないので、この点は注意が必要かなーと考えています。日印チームで一緒に働くことのメリットを、技術や経験という文脈だけではなく、文化の点からもお互いがニュートラルに向き合って、日本とインドの文化的強みをお互いが引き出せる関係性やチームづくりができるとむちゃくちゃおもしろい組織がつくれると考えています。

弊社でも日印のすれ違いをなくすための文化知性CQ、つまり、文化的な背景が違う人たちと一緒に仕事をして成果を出せる力を身につけていただけるよう、さまざまな研修やワークショップを企画することで、日本人とインド人のより良いチームづくりに貢献したいと考えています。先日、弊社関連会社INDIGITALでまさにそのワークショップを開催したばかりなんですけど、むちゃくちゃ好評だったのでぜひまた企画をしたいなーと考えています。もしご興味ある方は、開催報告記事をぜひ見てみてください。

日印異文化理解ワークショップを開催

さて、皆さん、いかがでしたでしょうか?今回は、インドGCCの戦略的価値と日本企業の活用事例、そして課題と対策について解説してみました。インドGCCは、日本企業がグローバル競争力を回復させるための重要な戦略的アセットとなり得る存在なので、インド人材の獲得に関心のある企業様はぜひ参考にしていただければと思います。そして、引き続き情報をキャッチアップしていきたいという人はぜひチャンネル登録もお願いをいたします。

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