NEWS LETTER VOL.10 GST年次申告フォーム「GSTR-9」(後編)
- 第一章 ひとは旅をやめない ひとは支配をやめない
- 第二章 GST年次申告フォーム「GSTR-9」について
Chapter.01第一章 ひとは旅をやめない ひとは支配をやめない
今月2020年 9月21日に、インドでは例年約700万人が訪れるというタージ・マハルへの入場が、新型コロナウイルスによるロックダウン以来実に約6か月ぶりに再開されました。約8年前の2012年下旬に筆者が初めて訪れた時は、可愛らしい修学旅行生たちが、廟内見学のために密着行列を作っていたのがとても微笑ましく、おもわずパチリと撮ってしまいましたが、今回はこういう事が起こらないよう、厳格に社会的距離を保つ対策が講じられているということです。
さて、タージ・マハルを代表としたインド北部の有名な歴史的建造物は、イスラム様式であるものも多く、それもそのはず、とくに17世紀後半は、世界のGDPの実に約 4分1を占めていたとされるイスラム王朝ムガル帝国が、インド亜大陸の大半を支配していたことは前回お話しました。
しかしインドの歴史家ハルバンス・ムキアによる推計によれば、その時代の人口の常に85%以上は、ヒンドゥ教をはじめとした異教徒(非イスラム教徒)であったため、タージ・マハルを建立した帝国5代皇帝シャー・ジャハーンの祖父にあたる3代皇帝アクバルは、宗教的融和政策をとり、非イスラム教徒からのみ徴収する人頭税ジズヤーを廃止しました。
ちなみにこの頃の人頭税とは、納税能力に関係なく、「非イスラム教徒かつ健康な自由人の成人男性」から定額の税を徴収するものでした。ちなみに人頭税は富の再分配の概念に反することから、現在は導入している国家はありません。しかしタージ・マハル完成後に即位した6代皇帝アウラングセーブの政策はとてもイスラム色が強く、この人頭税ジズヤーを復活させてしまいます。しかし、そのせいでたびたびヒンドゥ教徒の反乱が各地で起こるようになり、さらに、最も大きな税収源であった地租(地価に対してかかる税)を、個人農民からではなく村ごとの一括課税に変え、課税権・徴税権が地方に移るようになったこともあり、地方勢力が増大していきました。それがやがてムガル帝国の分裂・衰退、さらに英国の植民地支配力の増大へとつながっていったのです。
英国の東インド会社は、タージ・マハルが建立される50年以上前の1600年から、インドの特定地域に設立されるようになりました。英国によるインド植民地支配でまず思い浮かぶのは、「英領インド帝国」ですが、それが存在した期間は1947年のインド独立までのわずか68年間でした。それまでの270年以上もの間、英国東インド会社という名の、自らの軍隊や領土をも有するいわば「史上最強の企業」による、植民地としての直接支配地域群がインドには存在していたのです。それらの地域では重い地税が徴収されました。ベンガル管区(現在のコルカタ地域)ではザミーンダール(領主層・地主層)に土地所有権を与えて納税させ(ザミーンダーリー制)、マドラス・ボンベイ両管区(それぞれ現在のチェンナイ・ムンバイ地域)ではライーヤト(実際の耕作者・自作農)に土地所有権を認めて直接納税させる(ライーヤトワーリー制)など、決して全域で統一された制度ではありませんでしたが、強引な農地解体と近代的土地所有制度の導入によって、英国はその支配力をゆるぎないものとし、かつ着実に税金を吸い上げるシステムをつくりあげていったのでした。
今回は、昔のインドの税制として、人頭税や地租地税に少し触れてみましたが、次回は英国とインドにまつわる関税がらみの世界史上の大事件の数々について触れてみたいと思います。
(次号に続く)
Chapter.02第二章 GST年次申告フォーム「GSTR-9」について
前回概要をご紹介したGSTR-9申告について、今回のニュースレターではフォームの各項目の内容と、実務上で注意すべき点を具体的な事例を基にご紹介します。
GSTR-9 フォームの各項目の内容
GST年次申告として必要な情報は下記の通り6つのパートに分かれています。
■ 1. Part 1 : 企業情報
企業情報として、下記の情報を入力します。
• 対象年度
• GST番号
• 登記上の企業名
• 通称名(もし登記上の企業名とは別に請求書等で使用している場合のみ)
■ 2. Part 2 : 年間取引総額
対象年度の1年間に発生した売上・仕入取引の取引総額(税抜価格)を記入します。入力フォーマットは「未登録業者(Unregistered person)への売上」「登録業者(Registered person)への売上」「特別経済特区(SEZ)への売上」などの項目別に分かれており、各項目別の金額を入力します。
■ 3. Part 3 : 仕入税額控除の金額
ITC(Input Tax Credit : 仕入税額控除)の金額を、Part 2と同じように項目別に記入します。なおPart 3には、仕入先がGSTR-1で申告している金額が自動的に反映・表示されるので、それ以外のITC(例えば、RCM(リバースチャージメカニズム)に基づいて、仕入先の代わりに自社でGSTを納付した場合など)についてのみ自社で手入力をします。
■ 4. Part 4 : 支払税額
対象年度の1年間に支払ったGSTの明細を入力します。IGST、SGST、CGSTのそれぞれにつき、現金で支払った金額とITCで支払った(=GST Outputと相殺した)金額をそれぞれ入力します。延滞税や遅延利息を支払った場合には、その金額も入力します。
■ 5. Part 5 : 過年度修正
4月から9月(GSTR-9の申告を9月以前に行う場合には、GSTR-9の申告日)までの間に過年度のGST申告内容を修正した場合には、当該修正内容。例えば、2020年2月期のGSTR-3は2020年3月20日が締め切りですが、2020年6月になって2020年2月付の請求書が到着した場合には、2020年6月のGSTR-3Bにて当該取引を申告せざるを得ません。このような過年度修正があった場合、このPart 5で当該修正申告を報告します。修正された取引金額とITC金額を記入します。
■ 6. Part 6 : GST還付など
対象年度にGSTの還付請求をしていた場合、また税務当局から申告金額の修正を要求されていた場合などは、その対象となる金額をHSNコードの単位で記入します。
事例
ここからはGSTR-9に関して注意すべき事例と、その予防策をご紹介します。
■ 事例1:GSTR-9のPart 3のITCの金額がGSTR-3Bの申告額と異なるケース
日系企業X社は、毎月GSTR-1とGSTR-3Bの申告をしていますが、毎月のGSTR-3Bの申告時に仕入先の申告内容が反映されているGSTR-2Aの確認を怠っていました。X社が年次申告を実施するためにGSTR-9のPart 3に自動表示されているITCの金額を確認したところ、対象年度に毎月のGSTR-3BでX社が申告していたITCの合計金額と一致していないことが判明しました。X社は仕入先に連絡し、GSTR-1の修正をしてもらいました。
このような状況を避けるためには、毎月のGSTR-3B申告時に、仕入先が正しくGSTR-1を申告しているかどうかをGSTR-2Aで確認する必要があります。
GSTR-2Aの詳細は過去のニュースレター「NEWS LETTER VOL.7 GST照合フォーム「GSTR-2A」(前編)」と「NEWS LETTER VOL.8 GST照合フォーム「GSTR-2A」(後編)」をご参照ください。
■ 事例2:GSTR-9の申告後に過年度の請求書が到着したケース
日系企業Y社は、2020年3月度のGSTR-3B申告を2020年4月に完了し、同時に2020年3月期のGSTR-9の申告も完了しました。ところが、2020年5月になって仕入先から2020年2月付の請求書が到着しました。
CGST法(Central Goods and Services Tax Rules, 2017)の16条(4)において、「前課税年度のITCを取得できるのは、GSTR-9の申告日か9月のGST申告のいずれか早い方」という規定があります。
例えば、2020年2月の請求書に対する支払に紐づくITCを取得したい場合には、2020年9月度のGSTR-3B申告期限(2020年10月20日)または2020年3月期のGSTR-9申告日のいずれか早い方が期限ということになります。
Y社の場合、GSTR-9の申告を4月に完了してしまったために、2020年2月度の請求書が到着した2020年5月の時点ですでに前課税年度のITC取得期限が過ぎてしまっていることとなり、結果的に当該支払に紐づくITCを取得することができませんでした。
上記のような事態を防ぐためには、GSTR-9の年次申告を不必要に急いで完了しようとすることはオススメいたしません。GSTR-9の申告期限は翌年度の12月末(例えば、2020年3月期のGSTR-9申告期限は2020年12月31日)ですので、前課税年度のITC取得が確定する10月20日以降に年次申告の準備を開始しても十分に間に合います。
■ 事例3:GSTR-9の売上申告額が決算書と不一致であったケース
日系企業Z社は、日本の本社へ輸出免税にて製品を輸出していました。月次申告のGSTR-1やGSTR-3Bでは、「輸出免税」や「GST税率0%」などのGSTが課税されない売上取引も含めて全ての売上を申告する必要があります。
GSTR-1で申告すべき項目の詳細は、過去のニュースレター「NEWS LETTER VOL.3 GST申告フォーム「GSTR-1」」を、GSTR-3Bで申告すべき項目の詳細は「NEWS LETTER VOL.6 GST申告フォーム「GSTR-3B(後編)」」をご参照ください
ところがZ社は、GST申告ではGST課税対象の取引のみを申告すれば良いものと誤解し、毎月のGSTR-1およびGSTR-3Bの申告においてGST対象外の取引を申告していませんでした。
Z社は毎月のGSTR-1とGSTR-3B申告額に基づいてGSTR-9の年次申告を行ったため、GSTR-9にも輸出売上は計上されていません。すると、年次申告後しばらくして、税務当局より「法人税申告で提出されている監査済決算書に記載されている売上額とGST申告での売上高が一致していない」という指摘を受け、税務調査を受けることになってしまいました。
Z社の場合、GST納付額には問題ありませんでしたが、GST申告での売上額が監査済決算書の売上額と一致していない場合には税務当局から不要な疑いを抱かれるリスクがあります。
従って、監査済決算書に記載された売上額が漏れなくGSTR-9で申告されていることを確認する必要がありますが、もしGSTR-9と監査済決算書の数字に不一致を発見した場合、1年分の取引を全て遡って確認しなければならず必要以上の手間がかかりますから、毎月のGSTR-1およびGSTR-3B申告時に、月次決算書において会計上認識している売上高と、GST申告において税務上認識している売上額とが一致していることを確認しておくことが大切です。
GST年次申告フォーム“GSTR-9”の注意事項
- 仕入取引については、毎月のGSTR-1とGSTR-3Bの申告時に仕入先の申告内容が反映されているGSTR-2Aを確認することが重要です。月次の申告を適切に行うことにより、年度申告のときに慌てることなく余裕をもって申告をすることができます。
- 売上取引については、毎月のGSTR-1とGSTR-3Bの申告時に月次の決算書の売上高とGST申告での売上高が一致していることを確認することが重要です。月次決算のタイミングで毎月照合をしていれば、年度末の監査済決算書とGST年次申告額が不一致になるという事態になりません。
以上
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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