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週刊インドトピックス

Vol.0090 インド農村部でフードデリバリーサービスを提供するFood Express Online

インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年4月2日付けの報道で、西ベンガル州の農村部フードデリバリー事業を行っている『Food Express Online』を取り上げています。

 

Food Express Online設立からこれまでの道のり

2017年にムンバイから故郷である西ベンガル州の小さな町のChakdahaに戻ってきた Abhra Boses氏は2018年2月に幼馴染のSagar Mallick氏、Rahul Singha Roy氏、Prasun Das氏とともにFood Express Onlineを立ち上げました。Mallick氏によると、人口わずか10万人のこの町では当時オンラインのフードデリバリーサービスは行き届いておらず、実際にChakdahaに住んでいる人々はオンラインで食べ物を注文出来ることすら知らなかったようです。Chakdahaで初めてフードデリバリーサービスを提供したFood Express Onlineは、料理が品質基準を満たし、顧客に時間通りに届けることを徹底し、都市部で展開されているフードデリバリーサービスに劣らないサービスを提供しています。

Food Express Onlineは家族や友人から集めた7万ルピー(約103,000円)を初期投資としてビジネスを始めました。設立当初は顧客が電話をかけて注文するコールセンターモデルでスタートし、ストリートフードのベンダー2社と提携していたようです。フードデリバリーの存在を知らなかったChakdahaの人々にとって最初の1カ月の間に行った17件のデリバリーは驚きそのものだったようです。その後2019年9月に独自のアンドロイドアプリを立ち上げ、現在ではチームも15人まで増え、毎月2,000~2,500食を配達、2020~21会計年度の総収入は500万ルピー(約733万円)に達しています。

 

Food Express Onlineが直面した農村部ならではの課題とは

Food Express Onlineが苦戦したことといえば、初期段階で市場の準備が整っていなかったことでした。現在29歳のMallick氏は、『農村部のニーズは都市部とは全く異なるものだったので大変だった』と述べています。Boses氏とMallick氏の2人は地元でフードデリバリーのニーズを生み出すためにFacebookを使ったデジタルマーケティングを始め、WhatsAppでメッセージを送り、地元でのキャンペーンを行い、2019年初頭までに世間の注目を集めました。そして何よりも大事なことに、地元のレストランとのパートナー提携に成功しました。

 

ビジネスモデルと競合

Food Express Onlineの特徴として、最低注文数の決まりはなく、同分野の他プレイヤーと比較して配送料やパートナーからの手数料が低く設定されています。同社のUSP(※1)の説明でBosesは『地元の食品に焦点を当て、人々が自分が住んでいる町の食品を注文できることが弊社の強みである』と述べています。さらに『同業界の他のアプリとは異なり、業者から提示された価格と同価格を請求している』とのことです。 Food Express Onlineでは、2km以内の顧客からのオーダーには配達料として25ルピー(約37円)を徴収し、レストランのパートナーから5~10%の手数料を徴収しています。 現在では町内の50以上のレストランと提携しているようです。

GoogleとBoston Consulting Groupのレポートによると、インドのオンラインフード業界は2022年までに80億ドルの市場となり、年間平均成長率25~30%で成長すると言われています。インドのフードデリバリー市場は、SwiggyやZomatoといったユニコーン企業がほとんどのシェアを獲得し支配していますが、Mallick氏は、『地方のフードデリバリー・プラットフォームである弊社は、SwiggyやZomatoと競合するものではない』と強気の姿勢を見せています。『弊社の目的は、インドの農村部で都市と同じようなサービスを提供することである。村では市場の準備状況が大きく異なっている。我々のビジョンは、農村部に焦点を当て、都市と村の生活の違いを最小限に抑えることである。』と付け加えています。

 

コロナ禍で急成長、今後の計画は?

創業者はパンデミックの後押しによってデリバリーの注文が大幅に増加し、2020年から21年にかけて毎月成長していたことを明らかにしています。収益の10%を事業拡大のために使っており、現在同社のアプリに5,000人のアクティブユーザーを抱えており、4.6つ星という高評価を得ています。同社は現在、拠点のChakdahaから35km以内にある近隣の5つの町に進出しており、22年度までに2,000万ルピー(約2,930万円)の収益を上げることを目指しています。この拡大について、Bosesは『まず自分たちの地元で成功したモデルを作ってから、他の農村部でも再現したい』と語っています。

インドではあらゆる産業において地域格差がみられます。EdTech(※2)分野に関しては地域格差の縮小をミッションとしたスタートアップも多く、以前に比べ地域格差問題やそれに伴う男女間格差も徐々に減ってはきていますが、今回取り上げたFoodTech(※3)やコロナ禍で重要性が増したMedTech(※4)、またUberやOlaのようなオンラインアプリベースのタクシーサービスもTier1(※5)の都市以外では利用できないケースがほとんどです。バンガロールで生活をしていると、日本よりも便利な点もあり、テクノロジーの発展とそのスピードの速さに驚きますが、旅行などでTier2(※6)あるいはTier3(※7)の土地を訪れると、タクシーを捕まえるのにも苦労したり、食事もオンラインで注文ができないなど、地域間格差を身をもって感じます。日本でも地方創生はひとつの大きなテーマになっていますが、インドでも同様に可能性に満ちた分野だと思います。コロナ禍でオンラインが必要不可欠になった今、Food Express Online社のような、都市部のみならず、地方をターゲットにしたスタートアップが頭角を現してくるでしょう。

 

※1 USP:Unique Selling Propositionの略。ビジネスやサービスの強みや売り。

※2 EdTech:Education(教育)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語。教育現場にテクノロジーを取り入れ、様々なイノベーションを起こす動きやサービスのこと。

※3 FoodTech:Food(食)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語。テクノロジーによって「食」に様々なイノベーションを起こす動きやサービスのこと。

※4 MedTech:Medical(医療)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語。IoTなどのテクノロジーを医療に活用する取り組みやサービスのこと。

※5 Tier1:人口400万人以上の都市。デリー、ムンバイ、コルカタ、バンガロール、チェンナイ、ハイデラバード、アーメダバード、プネの8都市を指す。

※6 Tier2:人口100万人以上~400万人未満の都市

※7 Tier3:人口100万人未満の都市

Source:農村部でフードデリバリー事業を展開するFood Express Online