India Weekly Topics

週刊インドトピックス

Vol.0092 Instagram世代の金融包括を狙うインドネオバンキング・スタートアップ

インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年4月12 日付けの報道で、インドの若年層をターゲットにしたネオバンキング・スタートアップ『Walrusを取り上げています。

 

インド若年層をターゲットにしているネオバンク

状況は変化しつつありますが、日本ではお金に関するトピックはタブーだとされていたり、嫌悪感を示す人も少なくはありません。インドも同じで、大人同士でも、ましてや子供同士でも、お金の話をすることはほとんどなく、その結果、インドの若年層にとってお金の管理について本当の意味で理解する場があまりありません。実際に多くの調査で、インドの若者は、大学を卒業して収入を得るようになる少なくとも24歳になるまで、金銭管理をしていないことが明らかになっています。さらに、インドのほとんどの銀行はテクノロジーを重視しておらず、若い人たちの感覚に合わせることができないという事実もあります。その結果、お金の管理意識が極めて低いにもかかわらず収入はあるという若者が生まれるのです。金銭管理の重要性を認識した親たちは、子供たちにそのような金銭管理能力を高めることができるソリューションを求め始めています。こういった背景から、フィンテックスタートアップはネオバンク(※1)という形でそのスペースをうまく埋めています。ネオバンクが着実に支持を集めているのは、スマートフォンをタップするだけでオンデマンドのサービスを提供することができるテックファーストのアプローチによるものです。またこういったサービスは「Instagram」や「Swiggy」世代の若者の感性に訴えかけるような仕組みになっているのが特徴的です。

 

人気ネオバンク『Walrus』のビジネスモデル

現在人気を集めているネオバンクのひとつがWalrusで、同社は2020年に元IIT(※2)のBhagaban Behera氏がCEOとなり、戦略コンサルタントから起業家に転身したNakul Kelkar氏をCOO(※3)に、元Hewlett Packardの幹部Sriharsha Setty氏をCTO(※4)に迎え設立されました。彼らは「若い世代にお金のことを知ってもらいたい」というビジョンを掲げ活動しています。現在のインド若年層の金銭管理に関する問題に関してBehera氏は『インドの若者は、銀行業務に関して十分なサービスを受けていない。インドには24歳以下の若者が3億人以上いて、インドの人口の約20を占めているが、彼らには仕事がなく、収入も少なく、ローンを組むこともないため、銀行はこの層に焦点を当てていない。』と説明しています。Walrusが提供するプラットフォームには現在20万人のユーザーが登録しており、その取引額は数百万ルピー(1ルピー=約1.46円)にのぼります。携帯電話で銀行にアクセスできるだけでなく、貯蓄や支出を追跡できる支払分析機能により、お金の管理についても学ぶことができます。また、投資商品やローンなどの金融サービスの世界をユーザーに伝えることも目指しているようで、投資やスマートセービングの機能を搭載する予定とのことです。若年層の興味を引くための工夫として『貯蓄や投資などをゲーム化することで、若い世代を強力なファイナンシャル・スマートネスへと導くことを意図している。』とBehera氏は述べています。

現在、Playstoreでのみダウンロード可能なこのアプリは、新規ユーザーの登録にデジタルKYC(※5)の完了が必要です。ユーザーとその親は、ネットバンキング、デビットカード、またはUPI(※6)を使って、Walrusの口座に資金を送金することができます。RBL銀行(※7)やMastercardと提携して銀行サービスを提供しているWalrusは、顧客にデビットカードも発行しており、そのデビットカードをオンラインでの買い物に使うことができるとのことです。

 

Walrusの今後の計画、市場の動向

Walrusは、2022年までにインド国内で1,000万人のアクティブな取引ユーザーを獲得することを目指しています。同社は、ユーザーに発行したWalrusカードによるカード取引を主な収益源としています。将来的には、キュレーションされた商品に対してユーザーベースを基に課金したいと考えています。Walrusはデジタル化されているため、インド国内どこからでもアクセスができます。現在は、インドでのユーザー数の拡大と製品の機能追加に注力していますが、東南アジアの市場の開拓も検討しているようです。子供や若者向けのフィンテックの市場規模はまだ初期段階なので明確な数字はわかりませんが、ResearchAndMarkets.comによると、フィンテック市場全体は2019年の263億ドルから2025年には850億ドルに成長し、年平均成長率は22.7%になると予測されています。

Walrusの主な競合他社には、ゲーミフィケーションを通じて子どもたちにお金の管理を教えるフィンテックアプリBirdfin親が支出と貯蓄を追跡できるインド初のティーンエイジャー向けネオバンク「FamPay、AIによる支出の洞察と貯蓄の追跡が可能なネオバンクFininなどのスタートアップがあります。

 

インドの学生は日本と違ってアルバイトをする、という概念がありません。大学または大学院を卒業するまでは親が子供の金銭的サポートを全面的にするという文化なので、就職するまで金銭管理についての知識、経験がないことはインド人若年層にとっては当たり前なのです。しかし、最近ではブロックチェーンの流行とともに仮想通貨に注目を集める若者が出てきたり、インドユニコーンフィンテックのPaytmのアプリ内でIPO(※8)取引ができるようになったりと、若者の身近なところで大きな変化が見られていることで、若者の金銭管理に対する認識も少しずつ変化しているようです。この点に目を付け、貯蓄や投資に関する知識をゲーム感覚で学ぶことのできる環境を提供しているWalrusは、市場の拡大とともに今後伸びていくことが期待できます。

 

※1 ネオバンク:自らは銀行免許を持たず、既存の銀行と提携してネット上で金融サービスを提供する企業のこと

※2 IIT:Indian Institute of Technologyの略。インド工科大学。

※3 COO:Chief Operating Officerの略。最高執行責任者。

※4 CTO:Chief Technology Officerの略。最高技術責任者。

※5 KYC:Know Your Customerの略。口座開設の際に必要な本人確認のための手続き。

※6 UPI:Unified Payment Systemの略。複数の銀行口座を1つのモバイルアプリケーションで利用できるようにするシステム。

※7 RBL銀行:ムンバイに本社を置くインドの民間銀行。Ratnakar Bank。https://www.rblbank.com/

※8 Initial Public Offeringの略。新規公開株のこと。

 

本記事で取り上げたスタートアップ

Walrus:https://walrus.club/

Birdfin:https://birdfin.app/

FamPay:https://fampay.in/

Finin:https://finin.in/

 

Source:若年層をターゲットにしたネオバンキング・スタートアップ『Walrus』