Vol.0097 インドコロナ第2波で被害大の飲食店、自社配送で経費削減対策
インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年5月4日付けの報道で、コロナウイルス第2波の中、対フードアグリゲーター(※1)の手数料を節約するために自社のデリバリープラットフォームを構築しているレストランをいくつか取り上げています。
第2波の影響、コスト削減のための対策
収束の兆しが見えないコロナウイルスのパンデミックは、インド全国民に悲惨な影響を与えています。健康面だけでなく、多くの人々がビジネスの失敗や生計手段の喪失によって苦しんでいます。特に接客業は深刻な影響を受けており、2020年の第1波の際には数多くのレストランが閉鎖されました。
デリー在住のシェフRadhika Khandelwal氏は、高級レストランを2軒経営していましたが、昨年のコロナウイルス第1波対策によるロックダウンのために1軒を閉鎖せざるを得ませんでした。『昨年11月に状況が好転し始めたときは、回復の兆しが見え、最悪の事態は脱したと思っていた。』と語るKhandelwal氏でしたが、今年3月頃から不意に始まった第2波によって、残りの1軒「Fig and Maple(※2)」も大きな打撃を受けています。新たな規制や夜間の外出禁止令によって、デリバリーのみしか対応できなくなり、売り上げが大幅に落ちているようです。Fig and Mapleの場合、デリバリーの注文額が平均2,000ルピー(約3000円)なのに対し、店舗で食事をする場合は平均4,000ルピー(約6000円)のようです。『店内でアルコール飲料を注文すると、より長く時間を過ごすことになり、結果会計額が2倍になる』とKhandelwal氏は説明しています。
Khandelwal氏は最近、自身のInstagramアカウントで、『フードデリバリーのプラットフォームで注文するのではなく、レストランに直接電話してほしい』と熱烈に訴えかけ、反響が大きかったようです。そして、『今後はより多くのお客様に直接注文してもらうよう働きかける予定だ』と意気込みをあらわにしています。
自社デリバリーを行っているIEHPLとHunger Inc. Hospitality
同じようなことを考えているのは、彼女だけではありません。インドのトップレストラン企業の一つであるImpresario Entertainment and Hospitality Pvt.Ltd(※3:IEHPL)は、昨年6月にプラットフォームを立ち上げ、Social、Smoke House Deli、Salt Water Cafeなどのブランドを自社配送しています。 57のチェーン店を抱えるIEHPLはウェイターとして働いていた現場スタッフを配達員として使い始め、また、最大25%の割引を導入して、顧客を自社のプラットフォームに引き付けています。
ムンバイを拠点とするHunger Inc. Hospitalityも昨年、自社デリバリーサービスを開始しました。『ロックダウンが実施された時点で、状況が変わることはわかっていた。私は2020年4月頭にチームメンバーと話し合い、それまであったフードメニューをゼロにすることを決意した。オンラインベーカリーとインドの中華料理デリバリーのポップアップを導入し、2日後にはプラットフォームとサービスのテストを開始した。』と創業者兼CEOのSameer Seth氏は第1波の際の対策について述べています。
同社は、数カ月ごとにメニューを変更し、シーズンにあった新鮮なものを提供しており、地元の季節限定レストランブランド「The Bombay Canteen」、ゴア料理レストラン「O Pedro」、インドの伝統的なスイーツブランド「Bombay Sweet Shop」の3つのブランドを所有しています。1回目のロックダウンで即座にデリバリーに対応するためのプラットフォームを作っていたため、2回目のロックダウンが実施された際に 慌てることはなかったようですが、ロックダウン前の収益には到底及ばないようです。
フードアグリゲーターの影響力
フードデリバリーは、レストラン市場全体のパイのうち、10〜15%程度しか占めていません。その上、Swiggy(※4)やZomato(※5)などのフードデリバリー企業は、20〜25%の手数料を徴収しており、レストランがプラットフォーム上で広告を出せば、手数料は30%にまで上がる場合もあります。
これらの手数料を節約するために、多くのレストランが自社配達を始めています。これは、スタッフの確保にも役立ちます。しかし、レストランはプロのデリバリーサービスに匹敵するサービスを提供することができるのでしょうか?
長距離配送の場合、レストランは自社配達せずにDunzo(※6)やWeFast(※7)などのマイクロ・デリバリー・プラットフォーム(※8)と提携し、配送料を顧客負担にしている店舗が多いようです。しかし、市場コンサルティング会社 Technopak Advisors (※9)の会長である Arvind Singhal 氏は『自社配送は、大手ブランドのレストランには有効ですが、業界の大半は組織化されておらず、技術的に優れたプラットフォームを持つ余裕がないことがほとんどである』と述べています。
本記事で紹介したすべてのレストランは、自社でデリバリーを提供しながら、ZomatoやSwiggyも利用しています。自社配送は、フードアグリゲーターへの依存度を下げ、独自の顧客基盤を構築するための、もうひとつのチャネルにすぎないのです。
2大フードアグリゲーターをいかに活用していくか
フードアグリゲーターは、レストラン経営者に優れた顧客基盤と注文数をもたらしていますが、コロナ禍の今、アグリゲーターに手数料を支払うことで、店内での飲食がメインのレストランの収益を奪ってしまっています。なぜなら、レストランは顧客の来店を念頭に置いて作られているからです。そのためのスタッフの確保や広い場所を借りて客席を用意したり、バーを設置したりするなどの経費がかかっています。
ZomatoやSwiggyは、様々な種類のレストランと提携しており、顧客はレストランのバラエティーに不満を持つことはないでしょう。また、メガイベント時には魅力的な割引提供を行い、レストランに強いこだわりのない顧客を魅了しています。
現時点では、フードデリバリー市場は、ZomatoとSwiggyがほとんどの分野に対応しており、二極化しています。タクシー配車アプリを運営するUberも、Uber Eatsとしてインドのフードデリバリー市場に参入しようとしましたが、昨年、Zomatoに事業を売却しました。しかし、現在バンガロールのみで運営されているAmazon Foodがフードデリバリーサービスをインド全土に展開すれば、状況は一変する可能性があります。巨大マーケットプレイスのAmazonは、レストランのパートナーから徴収する手数料を下げ、さらに大幅な割引を提供する予定です。この展開は、独自のオンラインプラットフォームを開発できず、パンデミックの中で苦しい思いをしているレストランにとっても有益なものになるでしょう。
フードアグリゲーターに頼らず自社配送することが出来れば、レストランにとってかなりのコスト削減になるでしょう。しかし、ZomatoやSwiggyの存在感はかなり大きく、自社デリバリーを行っている会社はいかにそのことをマーケティングしていくかが重要になってくると思います。私自身Zomatoを頻繁に利用していますが、新しいレストランの料理を試してみて気に入れば、履歴から注文し何度も同じレストランを利用しているケースがよくあります。もし、そのレストランが自社デリバリーを採用していて、かつ直接レストランに注文することで割引などの特典を受けることができるのであれば喜んで利用するでしょう。
ZomatoやSwiggyから注文している新規顧客を魅了し、自社デリバリープラットフォームに引き込むことができるレストランが今後増えてきそうです。
※1 アグリゲーター:関連性のある商品を集め紹介するウェブサイトやプログラムのこと
※2 Fig and Maple:https://www.figandmaple.in/
※3 Impresario Entertainment and Hospitality Pvt.Ltd(IEHPL): https://www.impresario.in/gallery.htm
※4 Swiggy:https://www.swiggy.com/
※5 Zomato:https://www.zomato.com/ncr
※6 Dunzo:https://www.dunzo.com/
※7 WeFast:https://wefast.in/
※8 マイクロ・デリバリー・プラットフォーム:複数の規模の小さなデリバリーを組み合わせてつくられたひとつの大きなプラットフォーム
※9 Technopak Advisors:https://www.technopak.com/
Source:経費削減のため自社配送を採用するレストラン