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インドの会計・税務アップデート

ソフトウェア支払いに対する最高裁判決

ついにソフトウェア用料支払にかかる課税論争が終結

2021年3月2日、インドの最高裁判所は、外国企業のソフトウェアの販売収益は、ロイヤルティとして見做されず、それゆえ源泉徴収税(TDS)の対象ではないため源泉徴収は不要であるとの判断を下しました。最高裁判所は、インド企業Engineering Analysis Centre of Excellence社が米国企業から購入をしていたソフトウェアの購入費用については、適用される租税条約において「ロイヤルティ」として分類されるべきではなく、租税条約の適用を前提として恒久的施設がない場合には、原則、インド源泉税の課税対象とはならないと判示しています。

税務論点にかかる適用法とは?

この問題の論点は、クロスボーダーのソフトウェア取引、直接および代理店(ディストリビューター)を通じた販売するソフトウェア(当該ソフトウェアがハードウェアに組み込まれている場合を含む)に対してエンドユーザーより支払われる金銭が、インド所得税法(Income Tax Act, 1961)、インド著作権法(Copyright Act, 1957)、ならびに、各国の租税条約(DTAA : Double Taxation Avoidance Agreement)の規定において「ロイヤルティ」に該当するかどうかが争われていました。

非居住者である外国企業によるインド国内でのソフトウエア販売収益に関しては、これまで裁判所や税務当局から様々な解釈が出ており、長期間にわたって論争が繰り広げられていました。

今回の最高裁判決はこうした論争に終止符を打つ決定的な判決であると同時に、このような納税者にとって有利な結果は、デジタル化が加速し、クロスボーダーでのソフトウェア販売市場が急速に拡大をしているウィズコロナ時代において、インド経済の成長にも好影響を与え得る大きな意味を持つ判決であったと感じます。

最高裁判決の決め手となった契約条件とは?

今後はインド非居住者へのソフトウェアライセンス料の支払いについては、原則、源泉徴収の必要がないという明確な指針が示されたわけですが、最高裁判所が着目した点としては、ソフトウェアの使用に関する契約条件です。

特に、ディストリビューターによるソフトウェアの再販については、非独占的かつ譲渡不可のライセンスを付与されていた点、さらに、エンドユーザーに対して、本ソフトウェアのサブライセンス、リバースエンジニアリング、修正、複製を禁止した上で本ソフトウェアを使用する権利が付与されていた点に留意しました。

これらの点について最高裁判所は、インド著作権法を参照し、本ソフトウェアを使用する限定的な権利(複製、複製物の発行、商業的利用など)の許諾なしには、同法に基づく著作権を有することはない。従って、ロイヤルティとしての性質は持たないとの判断を下しました。

最高裁は、2021年財政法で修正前のインド所得税法及び租税条約に基づくロイヤルティの定義において、ロイヤルティの対象として認識するためには、ライセンシー(ライセンスを受け取る実施権者)に対するソフトウェアの著作権の許諾が必須であることに着目しました。

今回のエンドユーザー及びディストリビューターによる支払いは、インド著作権法が定める一定の権利の許諾については契約条件に含まれていなかったため、租税条約、およびインド所得税法の修正前のロイヤルティの定義には該当しないとの判断に達したのです。

よって、当該支払いは、納税者が非居住者である場合には、「ロイヤリティ」ではなく「事業所得」として認識され、租税条約を適用する前提において、支払時の源泉所得税は課税されないこととなりました。

日系企業への今後の影響は?

日系企業においても今後、インド居住者のITベンダーとの協業がますます増加すると予想されるため、そうした観点からも今回の最高裁判決は大変意義のあるものであると考えられます。

また、関連する係争中の訴訟においても参照されることが予想されるため、当判決の影響を受ける企業においては、税金の還付手続きを行う対応を検討することをおすすめいたします。