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Vol.25:インドで税務訴訟に発展する前に知っておくべき手続きの流れ

現在、日系企業を含め多くの多国籍企業がインドに進出しており、進出後多くの税務担当者の頭を悩ませているのがインド国内における税務訴訟です。

税務当局からある日突然通知が届き、税務調査では不当な指摘を受け、税務訴訟に発展してしまう事例が頻繁に発生し、毎年度訴訟対応を行う必要があ企業も少なくありません。

また税務訴訟対応は多くの日本人担当者の方が初めて対応するケースもあるため、今回はどのような流れでインドの税務訴訟が進んでいくのか、基本的なポイントについて解説したいと思います。

税務訴訟の流れ

インドでは日本と同様、最初から裁判所に審理を求めるこことはできず、決められた所定のステップを踏んで税務訴訟の手続きを進めていくこととなります。

税務調査の結果として受け取った更正通知(Show Cause Notice)の内容に不服がある納税者は、まずDispute Resolution Panel(以下DRP:紛争解決パネル)またはCommissioner of Income Tax(Appeals)(以下CIT(A):所得税の審議官)のいずれかに不服申立てを行うことができます。

そして、所定の手続きを経て税務高等裁判所(Income Tax Appellate Tribunal(以下ITAT))や高等裁判所(High Court)、最高裁判所(Supreme Court)へと訴訟手続きが進んでいく形となります。

DRPもしくはCIT(A)どちらを選択すべきか

今回ご紹介する主要ポイントであり、かつ、多くの担当者を悩ませているのが、DRPもしくはCIT(A)どちらのルート選択をすべきか、という点になります。

以下の表の通り、DRPの場合、賦課の支払いは必要なくキャッシュアウトは発生しませんが、DRPは税務当局側に傾き、ドラフト更正通知書に従う傾向が見られているため、あまり納税者側の沿った結果が出てこない傾向にあります。

一方で、法定で定められた期限9ヶ月以内にDRPは判定を出さないといけないため、当該税務訴訟のケースが複雑でITATもしくは高等裁判所以上のレベルでの解決が必要であると想定される場合には、DRPを通じて早急に結論を出してもらい、次のステップであるITATレベルへ最短でたどり着くルートとして認識をすることもできます。

一方で、CIT(A)については審議を進めてもらうにあたり、更正通知書に記載される追加納税分及び利息の内、20%分を納税者側が前払いで当局側に収める必要があり、金額が大きい場合、納税者にとっては申請自体に大きなキャッシュアウトが伴う選択でもあります。

ただ、DRPに比べ、CIT(A)は比較的フェアに判断されることが多く、ケースの詳細をしっかりと調査・分析してもらえるルートとも言えます。

そのため、CIT(A)では完了までの法定期限が定められていないため、時間軸としては長期化する傾向にはありますが、その分、CIT(A)レベルで解決できると判断される場合、こちらのルートを用いた方が好ましい場合もあります。

また、実務的な観点から申し上げると、DRPは期限内に必要な申請書類を納税者が一括で提出しなければならず、申請後、後出しで追加書類を出すことが原則できないため、スケジュールがタイトになる場合も少なくありません。

また、担当官との面談も原則一回のみとなり、一発勝負な側面もあります。

一方で、CIT(A)は申請時に一括で書類提出を行う必要がなく、複数回に分けて書類も提出でき、かつ担当官との面談も複数回に渡り発生することから、実務上、最初の段階で一括で書類が用意できず、かつある程度の時間をかけてじっくりと審議をかけてもらいたいような訴訟ケースの場合には、こちらのルートの方が有効と言えるでしょう。

比較表

項目 紛争解決パネル(DRP) 所得税審議官(CIT(A))
税務上の
賦課支払い
ドラフトオーダーのため、税務上の賦課が確定していないため、支払いの必要はない。 税金と利息の要求の少なくとも20%を支払う必要がある。
判定結果への
期待感
DRPは税務当局側に傾き、ドラフト更正通知書に従う傾向がある。 これまでの経験では、DRPと比較して、CIT(A)はケースを詳細に検討し、判断を下している。
所要時間 9ヶ月以内(ITATへのファストトラックルートとなる) • 法的期限は定められていない。
•暫定的な時間軸では、以下の書類を提出した日から1~2年。

そしてDRP及びCIT(A)の次のステップにあたる税務高等裁判所(ITAT)に関しは、CIT(A)やDRPとは異なり高等裁判所や最高裁判所と同様に税務当局から独立した機関となっていることから、納税者にとっては合理的な決定を期待できる環境となっており、実務上ITATでの納税者勝訴の確率はDRP、CIT(A)と比べてより高い傾向にあります。

おわりに

近年、インドではこういった税務訴訟案件は増えている一方で、非対面での訴訟対応すなわち「フェイスレスアセスメント」であったり、所得税ポータルを活用したオンラインでの書類提出が中心となってきており、当局側としても税務訴訟をより効率化して進めようという強い意志が感じられます。

まだまだ発展途上ではありますが、10数年前と比べて格段に進歩しており、今後のさらなる改善が期待されます。

一方で、インドの税務当局は非常にアグレッシブに(時に不当に)納税者への追徴課税を仕掛けてくる傾向にあり、企業としてはいつ訴訟が発生しても構えられるよう証票や文書、契約書等の根拠証憑の管理をしっかり整備したり、移転価格であれば、毎年度のローカルファイル(移転価格文書)の整備を適切に行い、準備を怠らないことが重要となります。

また、最新の凡例に伴い、従来まで支払っていた税率よりも低い源泉徴収税率で支払うことが認められるケースや、ソフトウェアライセンスのようにそもそも源泉徴収が必要なくなるような最新の税務訴訟事例もあるため、必要に応じて、納税者側から当局へ追加訴訟を起こし、これまで支払った税金の還付を求めるようなアグレッシブな姿勢も場合によっては必要となりうるため、常にアップデートされる最新動向や判例をチェックし、税務専門家と密に戦略を立てていくことがインド税務では重要になってくると考えております。