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インドの会計・税務アップデート

共同研究プロジェクトの関連費用支払に関するロイヤルティへの非該当


アーメダバード所得税控訴審(ITAT : Income Tax Appellate Tribunal)は、米国居住者に対する共同研究プロジェクトに関連する費用の支払は、インド・米国租税条約第12条に基づくロイヤルティの性質を持たないとの判断を下しました。

1.納税者の主張と課税関係の背景

グジャラート州当局発行の通達に基づき「みなし大学(deemed university)」の性質を持つ納税者は、タイトガス砂岩の浸透性を研究する共同研究プロジェクトのために、米国企業と2つの契約を締結していました。

2011年度および2012年度に、納税者は共同研究プロジェクト「タイトガス砂岩の貯留層の浸透性特性化とモデリング」に関連する研究を実施するために、米国企業に対して関連費用の精算として一定の支払いを行いました。

一方で、納税者は共同研究プロジェクトのために米国企業に送金する際、以下の根拠に基づいて源泉所得税の控除および納税を実施していませんでした。

税務訴訟の発端は、税務調査において当局担当官が当該支払はロイヤリティの支払にあたるとして、源泉所得税が課税されるべきだと主張したことに始まります。

根拠①:

共同研究プロジェクト(タイトガス砂岩の浸透性の研究)のために米国法人に支払われたものであり、研究プロジェクトの結果は双方が教育・研究活動のためにのみ利用されるものである。

根拠②:

さらに、この研究は納税者が教育目的で利用するものであったため、”Fes for included Services”(FIS)の定義から明確に除外されており、インド-アメリカ租税条約の第12条 “Royalty and Fees for included Services “の条文5(c)の適用範囲外となっている。インド-アメリカ租税条約の第12条(5)(c)によれば、FISには教育機関への支払いは含まれていない。

2.税務当局担当官(AO)の見解

AO(Assessing Officer)は、当該支払は納税者が米国企業の保有する機密情報にアクセスする対価として実施されたものと考えられ、ロイヤリティとしての性格を有し得ると主張しました。

また、AO は契約書に記載されている以下の事実に基づいて、研究成果が知的財産としての性質を有するとして、納税者にそのライセンス付与がされたものと判断しました。

判断理由

  • タイトガス砂岩や貯留層に関する研究を過去に行っていたことから、米国の企業が所有する機密情報であり、それらはインドでは利用できないため、契約書には、秘密保持、譲渡禁止、輸出禁止の条項があったことから、納税者は米国法人から当該情報へのアクセスに際してライセンスを購入しなければならなかったとした。
  • 米国企業は、納税者に対して、商業的に価値があり、かつ、同社業界において主な使用目的としては一般的ではない技術データや情報を開示し、それによって技術的見識へのアクセスを可能にしていた。

以上のことから、AO は、納税者が米国企業に行った送金は、1961 年所得税法第 9 条 1 項(vi)の規定およびインド・アメリカ租税条約第 12 条の規定により、ロイヤリティに他ならないと判断しました。

その結果、所得税法 201 条 1 項に基づいて納税者を源泉所得税の控除・納税義務の「不履行」として扱い、同法基づいて当該見納税額にかかる延滞税を課した形となります。

その後、控訴手続きの過程で、本問題はアーメダバードの所得税控訴審判所(ITAT)へ到達しました。

3.アーメダバードの所得税控訴審判所(ITAT)の決定

アーメダバードITATは主に以下のように指摘・観察しました。

  • 納税者と米国企業との間の契約では、それは共同研究プロジェクトであり、双方が研究プロジェク トの結果に関する権利を持っていた。各当事者は、契約の目的を達成するために必要な範囲内でのみ、機密情報を使用することになっていた。
  • 納税者は、契約書と請求書のコピーを用いて、米国企業への支払いはロイヤルティの性質ではなく、 両者が同等の使用権を持つ共同研究プロジェクト費用の実費精算の性質であることを証明した。
  • コルカタ高裁は以前の判決で、研究の結果は本社や子会社を含む関係者全員の利益になるとしていた。技術データを共同で入手し、費用を分担したという事実そのものが、収入として扱うことができないことを示している。
  • 同様に、契約に基づき、納税者は米国企業にタイトガス砂岩と貯留層に関する研究目的の特定の技術データや情報を開示することができ、米国企業も同様に納税者に開示することができた。納税者は、共同研究の一環として、米国企業が研究活動のために負担した費用を精算することに合意していたが、このような共同研究プロジェクトの結果については双方が同等の権利を有していた。
  • また、納税者がロイヤルティの支払いと引き換えに米国企業の知的財産を使用する権利を契約によって与えられたという事実は、AO や CIT(A)によって証明されていない。

以上のことから、ITATは、納税者が行った送金は、共同研究プロジェクトに関連する費用の精算という性質のものであり、所得税法の規定や印米租税条約の関連条文に基づき、ロイヤルティには該当しないと判断しました。

4.おわりに

今回の判決では、共同研究プロジェクトにおいて、プロセスや結果が関係者双方に平等に提供される場合には、所得税法やインドーアメリカ租税条約上のロイヤルティには該当しないことが再確認されました。

これらを踏まえて、今回のケースと同様の前提に基づく取引を有する納税者にとっては、当該判決に基づく課税関係について積極的に参照できうるものと思われます。