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Vol.53:海外送金に課税されるという20%の税金TCSの実態

2020年10月1日から、年間でINR70万を超えるインド居住者個人による海外送金に対して5%のTCS (Tax Collected at Source)課税が施行されています。そして2023年10月1日より、インド居住者個人による個人海外送金に対するTCSの税率が20%へ引き上げられました(*1)。今回は、このTCSの課税関係と実態について解説したいと思います。海外送金に対するTCS課税に関する詳細はこちらの記事をご覧ください。
え?海外送金に課税?インド居住者が知っておくべき海外送金実務

送金自由化スキーム(LRS)とは?

インド所得税法第206C条1G項では、教育ローンや医療・教育目的の送金を除いて、インド準備銀行の送金自由化スキーム(Liberalised Remittance Scheme – LRS)に基づいた年間70万ルピーを超える海外送金に際して、送金元の銀行(Authorised Dealer)に年間70万ルピーを超える送金額に対して20%のTCSを徴収するよう求めています。

送金自由化スキームとは、インド準備銀行がインド国民が海外に送金するためのスキームで、事前許可なく年間25万ドルまでの海外送金が可能となっています。この規則が導入される前はインド準備銀行の特別な許可がない限りインド国外への送金は禁止されていました。

インド在住の外国人にも適用されるのか?

ここで重要な論点なのは、この送金自由化スキームがインドで永住権を持たない外国人にも適用されるのかどうか、という点です。金融機関によって見解が分かれる可能性はありますが、弊社が某大手インド地場銀行に確認をしたところによると、インド国内在住の外国人がインド国内で個人の銀行口座を開設する場合には、通常のインド人の口座とは異なり外国人用口座(Foreign National Bank Account)が開設されることとなり、外国人口座による海外送金はLRSの対象外であるためこれらの送金に対してTCSは課税されない、との見解でした。同様に、外国人口座に紐づく為替振替(インド国外でのクレジットカード、デビットカード使用等)もLRS対象外となるようです。なお、外国人が本国に帰国をして非居住者となった場合には、非居住者口座(NRO Bank Account)に変更する必要があります。

個人による海外送金のTCS課税の実態

一方で、TCSが課税・徴収がされているケースもちらほらと散見されます。もし万が一TCSが個人口座から徴収・引き落とされている場合、送金元の銀行を通じてすでに納付されたTCSは納税者のForm 26AS(源泉徴収年次ステートメント)に反映されるはずであるため、勤務先の人事部門等を通じて念のため確認されることをおすすめいたします。駐在員の場合は会社が個人所得税を負担するケースが多いため、誤って課税されたTCS納税相当額については会社から返金してもらうよう依頼しなければならないケースも発生いたしますので注意が必要です。個人で所得税を負担している場合は、確定申告時にTCS納税相当額過払いが発生しているはずであるため、確定申告後に税務当局から個人口座宛に還付されることとなります。

当局による海外送金に対するTCS課税の導入とその後の税率引き上げは、過度なルピー流出および租税回避を防止するための措置と考えられます。しかし、基本的にはインドに居住する外国人はTCS課税の対象とはならないという見解が有力であるため、万が一誤って課税されている場合には適切に対応し、過払い分が正しく精算されるように留意いただければと思います。

注記

(*1)インド財務省による本件通達はこちらをご参照ください。

(*2)インド準備銀行によるLRSの説明はこちらをご参照ください。

 

そもそもTCSとは?TDSとの違いについて理解する

インドにはTCS (Tax Collected at Source)と呼ばれる源泉税があります。これは、特定の物品の売り手が顧客から請求代金を受領する際に、一定の割合を源泉所得税として追加徴収(collect)して納税を行う直接税の一種です。納税方法は間接税のGST(Goods and Service Tax:物品・サービス税) と同様に、物品の売り手が買い手から徴収し、税務当局へ申告・納税が行われます。TDSの場合は、サービス等の受領者が、サービスの提供者に代わってサービスとの対価の支払いよりTDSを控除し当局へ納付する形となります。TCSの場合は、サービスの提供者がサービスの受領者に対してTCSを徴収すると同時に当局へ納付する形となります。海外送金をする際は銀行を通して実行されますため、銀行が個人に代わって徴収し納付します。

源泉徴収されたTCSとTDSはどうなるのか?

当該TCSは海外送金を行った個人の税金となりますため、個人所得税の納付として扱われると同時に、徴収者によるTCS四半期申告を通して個人のPANと紐づけがされた源泉税納付証明書となるForm27Dに反映されます。従いまして、TDSの場合と同様、確定申告時にはすでに納付されたTCSが反映され個人所得税額との間で精算されることとなります。TCSにより超過納付が発生した場合は、確定申告後に当局より還付がなされます。

このTCSは上述のとおり源泉所得税として取引銀行によって徴収・納税がされます。つまり、課税されるTCSは個人所得税の一時的な前払税金としての性質を持ち、年度末の確定申告の際に所得税額控除として年間申告納税額に対して相殺・精算されることとなるため、当該TCS課税により実質的な個人の税金負担が増えるものではありません。

インドで定期預金を組んでいる方はよくご存知と思いますが、定期預金の満期時に支払われる受取利息に対しては金融機関により源泉所得税TDSが控除(deduct)され、その控除証明としてForm 16Aが金融機関から発行されます。そして、今回のTCSについても同様に、インド居住者が海外送金を実行する時に源泉所得税TCSが追加徴収(collect)され、その追加徴収証明としてForm 27Dが発行されます。当該Form 16AおよびForm 27Dのデータが最終的にForm 26AS(日本の源泉徴収票のような源泉税の年間ステートメント)に反映され、当該データに基づき、個人の確定申告を実施することで年間申告納税額との相殺・精算をすることができる、という仕組みになっています。

               

執筆者紹介About the writter

引地 朋美 | Tomomi Hikichi
筑波大学生命環境学部卒業。大手日系企業に入社後、営業部にて日々インド人とコミュニケーションを取る職場環境に身を置き、インドをはじめ、中国、タイ等の海外子会社の経営管理業務に約4年半従事。海外子会社経営の難しさ・大変さを目の当たりにした経験から、インドへ進出する多くの日系企業をより直接的に支援したいと考え当社に参画。現在はインド税務・会計のアドバイザリー業務、およびインド市場調査業務を担当している。デリー在住。