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インドの会計・税務アップデート

日系企業に関わる直接税の直近判例


本記事では、2024年におけるインドの直接税に関する税務判例のうち、日系企業に関わるものをご紹介します。

判例1:日本法人からインド現地法人へ支払われた出向者給与の立替精算取引が技術上の役務提供サービスに当たるとしてその課税関係が争われた税務訴訟事例

項目 内容
判例番号 IT APPEAL NO. 1053 (DELHI) OF 2022[ASSESSMENT YEAR 2017-18] APRIL 12,2024
裁判所 デリー税務高等裁判所ITAT (Income Tax Appellate Tribunal)
納税者名 Advics Co.
納税者属性 インド国内法人(日系企業の関連者)
判決日 2024年4月12日
判決結果 納税者側勝訴

【経緯】

  • 日本企業である納税者は、自動車会社のブレーキシステムおよび部品のエンジニアリング・製造・販売事業に従事していた。
  • 対象年度において、同社は3名のインド駐在員を、一時出向契約(TTA: Temporary Transfer Agreement)に基づき、インド国内の関連会社(AE : Associated Enterprise)に出向させていた。これらの出向者への給与はいったん日本で支払われ、その後インド現地法人に対して実費請求していた。
  • 税務当局の担当官は、日本法人がインド現地法人から受領した出向者給与は、日印租税条約第 12 条およびインド所得税法第 9 条(1)(vii)に基づき、技術上の役務提供サービスの対価として課税対象となると判断した。

【税務当局の主張】

・駐在員は管理業務の実施および技術上の役務を提供するためにインド現地法人へ出向していると見なされ、当該支払は技術上の役務提供サービスの性質を持つ。

・駐在員の真の雇用者は、インド現地法人ではなく日本法人であるため、これは役務提供契約であり、給与実費に基づく立替精算(Salary Reimbursement)は技術上の役務提供サービスと見なされ課税対象となる。

【納税者の主張】

・出向契約には具体的な言及はないが、駐在員はインド現地法人の日常的な事業活動を遂行するために、その従業員としてインドに出向していた。

・インド現地法人から日本本社に対する支払は純粋な給与の立替精算であり、インド現地法人への立替精算のための請求書(Debit Note)が発行されている。これは出向者の給料であり、技術上の役務提供サービスには該当しない。

【判決】

・下記の事実関係および法的立場を踏まえると、問題とされている立替精算にかかる請求書は、所得の要素を持たない従業員給与の払い戻し費用と認められえ、日印租税条約に基づく技術上の役務に対する料金としてインドでは課税されない。

・技術上の役務に対する料金は日印租税条約第 12 条4項にて「技術者その他の人員によって提供される役務を含む経営的若しくは技術的性質の役務又はコンサルタントの役務の対価としてのすべての支払金(支払者のその雇用する者に対する支払金及び第十四条に定める独立の人的役務の対価としての個人に対する支払金を除く。)と定義されている。

・駐在員は赴任期間中、インド現地法人の従業員であり、インドまたは日本で支払われた全額から適正な税額を控除した上でインド現地法人から給与が支払われていたことは、証拠によって裏付けられた事実である。

・税務当局は、日本法人がインドでの事業を推進するために、駐在員を通じてインド 現地法人に経営、コンサルタント、技術上の役務を提供したという主張を立証する資料や証拠は何も提出していない。

・出向契約を熟読すると、駐在員はインド現地法人の直接的な管理・監督の下で勤務し、出向期間中、インド現地法人は駐在員の実質的かつ経済的な雇用主であることが推察される。

・出向契約には、日本本社が海外駐在員/出向者を通じてインド現地法人に管理職や技術職などのサービスを提供するという条項はない。

・駐在員とインド現地法人との間で締結された雇用契約では、インド現地法人が駐在員の給与を支払う義務を負い、適切な税金を源泉徴収しなければならないことを明確にしており、インド現地法人は雇用契約書に基づき適切に納税している。

【ポイント】

多くの日系企業では、本社から出向している駐在員の給料をインド現地法人が負担し、かつ、日本本社が立て替えた給与についてはインド現地法人に対して実費精算のための立替請求をしているかと思います。今回のデリー高等裁判所の判例では、この立替請求が課税対象とされないことが示されました。給与の立替請求が技術上の役務に対する料金と認定されてないようにするため、本判例で示されている以下の点に注意する必要があります。

・本社からインド現地法人への請求書はDebit Noteとし、立替精算(Reimbursement)である旨を明記すること

・インド法人はインドの税法に則り適切に納税をすこと

・駐在員がインド法人の管理・監督下で勤務し、インド関連者は駐在員の実質的かつ経済的な雇用主であることを出向契約で明らかにすること

・日本本社が駐在員を通じてインド法人に対する経営、コンサルタント、技術上の役務を提供していると誤解されるような条項を出向契約に盛り込まず、税務当局からそのように誤解されるような証憑を残さないこと

 

判例2:外国法人によるソフトウェアの販売が課税所得に含まれるかどうかが争われた税務訴訟事例

項目 内容
判例番号 W.P.(C) 7753 OF 2024 MAY 27,2024
裁判所 デリー高等裁判所
納税者名 Componentsource Company Ltd.
納税者属性 外国法人
判決日 2024年5月27日
判決結果 納税者側勝訴

【事例】

  • 納税者は、様々なベンダーから調達したソフトウェアを、インドを含む世界各地の顧客へ販売している外国法人である。
  • 納税者に対して様々な主体から源泉税控除済みの支払いが行われていたにも拘らず、納税者が当該収入を申告していないことが税務当局の無申告監視システムにより感知され、税務当局から納税者に対して所得税法第148A条(b)に基づく通知が発行された。

【税務当局の主張】

・納税者は納税申告書(ITR; Income Tax Return)を提出しておらず、エンドユーザーライセンス契約も締結していなかったため、インド国内で所得が発生していると見なされ、納税申告が必要である。

【納税者の主張】

・物理的にパッケージとして包装されたソフトウェア(shrink-wrapped software)の販売に関して受領した金銭はロイヤリティには該当せず、税務申告は必要ない。

【判決】

・所得税法148A条(d)に基づく通知は、ソフトウェアの販売から得た収益がロイヤリティに該当するかどうか、納税者がインド国内に恒久的施設(PE: Permanent Establishment )を有しているかどうかなどの事実を検証することなく機械的に発行されたものであり、従って、税務当局が発行した通知は破棄される。

【ポイント】

ソフトウェアライセンスとロイヤリティにかかる国際課税論点とは?(https://g-japan.in/news/tax-vol-36/)の記事でご紹介した通り、インド非居住者がインド国内でソフトウェアを販売したとしても、一定の条件下においてはロイヤリティには該当しないとされています。

今回、税務当局はシステムに基づいて納税申告を催促する通知を納税者へ発行しましたが、非居住者がインド国内でパッケージのソフトウェア(shrink-wrapped software)を販売した場合には必ずしも納税申告(ITR: Income Tax Return)は必要ではないことが間接的に示されました。

               

執筆者紹介About the writter

田中 啓介 | Keisuke Tanaka
京都工芸繊維大学工芸学部卒業。米国公認会計士。税理士法人において中小企業の税務顧問として会計・税務・社会保険等アドバイザリーに約4年半従事、米国ナスダック上場企業において国際税務やERPシステムを活用した経理部門シェアード・サービス導入プロジェクトを約3年経験後、30歳を機に海外勤務を志し、2012年から南インドのチェンナイに移住。2014年10月に会計士仲間とともに当社を共同設立。これまで200社超の在印日系企業や新規進出企業向けに市場調査から会社設立支援、会計・税務・人事労務・法務にかかるバックオフィスアウトソーシングおよびアドバイザリー業務を提供。また、インド人材のリモート活用にかかる方法論および安心・安全なスキームの導入支援を積極的に行っている。