C-18 : インドの工業団地の選定において気を付けるべきポイント
【日系製造業が進出するインドの工業団地について】
インド国内の工業用および商業用の不動産選定において、インドに進出される日系企業の多くは不動産そのものへの関心というよりは、製造や販売、サービス等オペレーションの観点から進出候補先を評価されるケースがほとんどです。主な評価ポイントとしては以下3つです。
(1)顧客との物理的距離
最終消費者であるインド人のエンドユーザー向けであればあまり影響はないかもしれませんが、製造業のサプライチェーンに組み込まれていたり、B2Bのビジネスモデルのケースでは納入先/提供先である顧客との距離は大きな影響を及ぼします。特に北インドのデリーNCRやグジャラード州アーメダバードでは自動車関連サプライヤー企業や携帯電話関連の電子部品企業、消費財のエアコン関連サプライヤー、西インドのマハラシュトラ州ムンバイでは証券市場があることから金融や証券会社、保険会社の進出が多くなっています。また、南インドのカルナタカ州バンガロールやテランガナ州ハイデラバードではIT産業が集積することからソフトウェア関連やR&D拠点が集まっており、タミルナードゥ州チェンナイでは自動車(四輪・二輪)を中心とした製造業と港湾を活用するための輸出拠点としての製造業の進出も増えています。
(2)原材料等の調達先どの物理的距離
ビジネスモデルとして、インド国内で特定の原材料を調達する必要がある場合にはその調達可能地域の近くに進出することになります。もしくは、すでに調達先として東南アジアのサプライヤーやグループ会社から部品や原材料を調達する場合には、港湾設備と東南アジアとのアクセスが良好なチェンナイに進出を決めるケースも多々あります。また、水や電気の消費量が多い事業においては、水不足や停電などの影響が少ない基礎インフラが整備された地域を選定されることとなります。
(3)人材採用の観点からの地域性や立地
これは一概に言えることではないので難しいところはありますが、一般論としてアーリア系の移民が多い北インド人は比較的はっきりとYesかNoを言い、個人の自己主張がアグレッシブかつ積極的である傾向がありますが、ドラビダ系農耕民族である土着の南インド人はあまりはっきりとした自己主張は避け、世間体を気にしながらチームで土壌を育むスタイルを好み、穏やかな性格の人が比較的多い印象です。日系企業がどのような役割を従業員に期待するかによって、インド人の特性をうまく活かしていく必要があります。また、地域によって最低賃金の規定や工場ワーカーの特徴や需給関係も異なるため、慎重な判断が必要となります。
なお、工業用不動産については主に(1)99年リースの州政府工業団地、(2)99年リース民間工業団地、(3)レンタル工場の3つの選択肢があります。なお、インド国内では環境・森林省(MOEF : Ministry of Environment and Forestry)の管轄下にある中央公害汚染管理委員会(CPCB : Central Pollution Control Board)が全産業の環境汚染リスクの度合いに応じて、グリーン、オレンジ、レッドに色分けして規制レベルを設定しています。詳しくは各州のPCB委員会の規定を確認する必要がありますが、例えば、環境負荷が高いレッドに分類される場合には、工業団地に入居できない場合があるため、御社のビジネスがいずれの色に該当するかを最初に確認しておく必要があります。また、政府系の工業団地では「工業用水の給水」を約束していながら実際には未整備であったり、自分で井戸を掘削したものの追加で水道料金を請求されるなど、規約や政府の規制に対して実態が異なるケースも散見されますので、現地に出向いて確認をしておく必要があります。
(1)99年リースの州政府工業団地
原則、州政府の工業団地内の用地を99年リースによるリース資産として販売し、購入者が規約に則った建物の建設をして操業を行います。様々なロケーションにおける選択肢がありますが、州政府との手続きにおいて進捗プロセスが遅いもしくは不透明な点もあり、実績のある不動産仲介業者を通じて情報収集しておくことが望ましいと思われます。なお、ラジャスタン州のニムラナ(Neemrana)工業団地やギロット(Ghilot)工業団地など、北西インドのいくつかの工業団地については日本貿易振興機構JETROが州政府との覚書に基づき「日系企業専用工業団地」を提供しています。
(2)99年リース民間工業団地
こちらも同じく、原則99年リースによるリース資産として販売されています。州政府の工業団地とは違って、運営開発会社による透明性のあるサポートが受けられるのが特徴です。一方で、選択肢が限定的で価格も比較的に高くなる傾向にあります。ちなみに、南インドのタミル・ナードゥ州チェンナイ近郊には、インド国内でも数少ない日系企業が開発した工業団地が集まっており、選択肢の豊富な民間工業団地もチェンナイの魅力のひとつです。外資系企業の進出が多い工業団地を中心に以下にご紹介いたします。
■ 「マヒンドラ・ワールド・シティ(Mahindra World City)」
インド大手財閥マヒンドラグループとインド政府との共同開発事業。チェンナイ市内より約50キロに位置し、2020年現在はほぼ完売状態。
■ 「スリ・シティ(Sri City)」
インド地場の民間企業による工業団地。チェンナイ市内から北に約80キロの隣接州アンドラプラデシュ州に位置し、すでに20社近くの日系企業を含む多くの外資系企業が進出済。
■ 「ワンハブ・チェンナイ工業団地(OneHub Chennai)」
シンガポール系ディベロッパーであるアセンダス社による開発事業であり、日揮およびみずほ銀行も出資をしている。チェンナイ市内から南に約45キロの好アクセスの立地で、2020年6月現在で日系企業5社が進出済。
■ 「双日マザーソン工業団地(Sojitz-Motherson)」
日系商社の双日およびインド自動車部品大手マザーソン社との共同開発事業。チェンナイ市内からは西に約60キロのエリアに位置。
■ 「マヒンドラ工業団地(Mahindra Industrial Estate)」
インド大手財閥のマヒンドラグループと住友商事との共同開発事業で、チェンナイ市内から北に約40キロと好アクセスかつ各港湾インフラへのアクセスも良い。
(3)レンタル工場
近年、不動産ファンドの台頭により、民間企業によって開発された工業団地を分譲することなく工場建屋を開発会社が建設し、建物ごとに賃貸契約によりテナントとして入居できるレンタル工場の選択肢が増えています。初期投資を抑えることができ、かつ操業までの時間短縮、場合にはよっては企業の希望する工場の仕様に対して柔軟に対応してくれるケースもあり、当地チェンナイでは新しい選択肢として、レンタル工場を活用した日系企業の進出も増えています。一方で、重厚長大産業には向かない、環境負荷の高い企業の入居を断られる場合があるので事前に確認が必要となります。
さて、今回のコロナ禍によるインド国内ロックダウンにより州境が封鎖されたため、工場のロケーションによっては通勤や物資の輸送、輸出入などにおいて、隣接州や港湾への移動ができずに事業に大きな影響を与えたケースも発生しています。インドは「United States of India(インド合州国)」などと言われることもありますが、中央政府だけでなく各州政府が大きな権限を持って政策運営がされていることを理解した上で、進出候補地の立地によりどのような影響が起こり得るかを事前にシミュレーションしておくことも進出先を決定する際に重要であると感じます。
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竹谷 哲
京都府生まれ。大学卒業後に証券会社を経て、不動産開発会社にて10年間、東京でのマンション開発、マレーシア、グアムでのゴルフ場開発等に関わる。その後、仙台支店長を経験後に独立起業し、2007年よりインド・チェンナイ市在住。世界の不動産を見て廻り、エイブルNWニューデリー店の共同代表他、インドにて10年超の不動産業実績があり、日系企業や日本人向けに工業団地や住居などの紹介、また、不動産に関わる各種アドバイスを行う。TS Real Estate Consultancyの代表。
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