C-19 : 日系企業にとってのインド不動産投資に関する考察
【インドの不動産ビジネスと外資参入状況】
「不動産」とは読んで字の如く「動かないローカル産業」の代表で、輸出も輸入もできません。開発には多岐にわたる中央政府・州政府の認可や規制をクリアする必要があり、日本や香港にも外資のデベロッパーの名前を聞かないことからも、外資系企業や外国人にとっては参入が難しい産業領域であることは想像していただけると思います。たとえ、インド企業と一緒に名前を連ねた共同事業であっても、事実上は資金を出すだけ、もしくは、購入するだけといった役割になることも多いのが現状です。1つの船に船長が2人いないのと同じ理屈とも言えるかと思います。
さて、とは言ってもすでに多くの外資がインド不動産市場に参入しています。ゴールドマンサックス社や大手投資ファンドのブラックストーン社、シンガポール系デベロッパーのアセンダス社、その他ドバイやアブダビ等の中東デベロッパーやカナダの年金ファンドなどがインドの不動産市場に進出しています。世界の年金ファンドが資金を投じているわけですから、「不動産は危険」などという一言ではもう済まされない状況とも言えます。現状、インドの不動産市場に参入している日系企業は以下のようなプロジェクトで、やはり資金力がありかつ他国での事業経験豊富な総合商社や財閥系企業が中心です。
■ 住友商事(開発主体)とクリシュナグループとのデリーNCR住宅開発。開発規模は約2,000億円
■ 三菱商事(資金パートナー)とスリラムグループとのチェンナイでの住宅開発。開発規模約30億円
■ 住友不動産(独資)によるムンバイの土地入札。今後商号開発予定で開発規模は約340億円
■ 三井不動産(資金パートナー)とRMZグループとのバンガロール商業開発。開発規模は約500億円
開発中のインド中高層住宅
最近のインド国内デベロッパーは資金力もあり、かつ、開発経験も増してきています。また、すでに多くの外資系企業と共同開発事業を実施しているケースも多々あります。そんな彼らが共同開発パートナーに求めているポイントは以下のようなものです。
(1)低コストの資金調達
インドでは借入金利が高く、銀行ローンでも最低でも8%以上になります。日本や先進国の低金利で調達した資金をつかって、協業パートナーからの資金供給が得られることはインド国内デベロッパーにとっては大きなメリットとなります。
(2)開発物件の売却先
物件が完成後に、当該物件の自社もしくはグループ内事業(例えば、ホテルや外国人向け住宅開発など)における活用を見据えたイグジット戦略の選択肢としての役割も期待されています。
(3)企画力
インド国内の不動産販売は激化しており、消費者の購入意欲をつかむ斬新なアイデアや企画力は常に求められています。供給が急激に増えている中、価格やロケーションだけではない新しい付加価値が期待されています。ある日系デベロッパーがインド企業のCEOと面談をしたところこう言われたと言います。「我々には資金があるからお金は必要ない。土地もある。インドTOPのブランドも維持している。我々以上のアイデアを出して下さい。」と。
(4)建設ノウハウや新技術
上記企画力にも通じるところですが、建設に関するノウハウやインドではまだ一般的ではない技術に対する関心の高さもうかがえます。具体的には断熱性能の向上や工期の短縮、建設材料や人件費の削減手法、より良い住宅を生み出すための新しい技術や知恵、工夫。3Dプリンターやモジュール住宅などです。住宅に関する新しい技術の持ち込みは、インド地場企業にとって大きな魅力に映ります。
クレーンでモジュールを釣り上げて組み立てる住宅の例
(5)販売力および不動産管理
日本企業にはなかなか難しいかもしれませんが、米系の事業用不動産大手のジョーンズラングラサール(JLL)やシービーアールイー(CBRE)などのように販売代理の依頼を受けているケースや、不動産の管理を受託する場合もあります。
【インドの不動産デベロッパーと日系企業が参入時の課題】
ここで、インド国内の大手不動産デベロッパーについて、当地チェンナイのデベロッパーも含めて6社ご紹介したいと思います。
1:DLF(ディー・エル・エフ)
1946年設立のインド最大の不動産デベロッパー。設立から70年以上を誇り、デリー南部のハリヤナ州グルガオンの大家的存在です。オフィスやモールの商業施設から住宅、ゴルフコースまで幅広く手掛けています。従業員は約1,700名。
2:Embassy(エンバシー)
1993年設立のIT産業で有名なインド南部の都市バンガロールに拠点を構えるデベロッパー。広大なITパークをいくつも開発・保有し、世界のIT企業との結びつきも強い。これらITパークをインド第一号の上場不動産ファンドとしてブラックストーン社やゴールドマンサックス社と共同開発しました。従業員は約500名。
3:Hiranandani(ヒラナンダニ)
1989年設立のインドの商都ムンバイのデベロッパー。オフィス、住宅、学校、病院を含む、職住一体型の大型の開発が得意で、売り切りではないサステイナブルな都市開発を目標としています。ドバイでの建築にも関わっているようです。全インドの不動産業者団体の代表を務めています。非上場会社。
4:Lodha Group(ロダ・グループ)
1980年に設立され、上記ヒラナンダニと双璧をなす同じくムンバイのデベロッパー。世界最高層119階建て高さ442mを誇るムンバイの住宅タワー「World One(ワールド・ワン)」の建築主としても有名です。
5:CEEBROS(シーブロス)
チェンナイで日本人に一番人気の高級住宅団地「One74」の開発企業。良好な品質の住宅を提供することで定評。外資との提携は過去に無し。社長の車は”白ベントレー”というのはここだけのお話(笑
チェンナイで人気の高級住宅団地「One74」
6:Appaswamy(アパサミ)
シーブロスと双璧のチェンナイの不動産デベロッパー。チェンナイ市内各地で多くのマンション開発を続けていて、投資ファンドの資金も受け入れています。モルデイブにある最高級ホテル「セントレジス・リゾート」のオーナーでもあります。社長の車は”シルバーのロールスロイス”というのはここだけのお話(笑
モルディブの「セントレジス・リゾート」
日系企業にとってまだあまりインドの不動産投資の実績につながっていない理由は(1)異なる時間軸とスピード感、(2)進捗を積み上げる明確な意思表示、(3)決済権限、の3つが成否を分けるポイントになっていると思われます。インドの不動産会社はほぼオーナー企業で意思決定が早いです。上述のとおり、インド国内の借入金利が高くかつ巨額になるため、意思決定が遅いパートナーは余計に受け入れられにくいことになります。一方で、インフレ経済下において土地を購入し、市場価格が上昇してくるまで寝かしておく、というのもまた彼らの正攻法であり、イグジットの期間を設定しようとする日系企業と時間軸と合わないケースも散見されます。インドの不動産業者と渡り合うには、ある程度の決裁権を持ちながら、その場で提案・交渉が柔軟にできる必要があります。某大手住宅日系企業の担当者が、インドの不動産会社CEOと面談をした際、「貴社が大きな会社であることはよく分かりました。では、当地で我々と何ができて、どのような役割を共に担っていただけるのかを簡潔に話してください。」と言われ、会話が止まってしまいました。またご挨拶に伺いましたなどと言っては次の面談はきっと断られるでしょう。
【不動産事業にかかるインド外資規制について】
2020年現在、インドにおける一定の不動産事業(Real Estate Business)については2017年統合版FDI政策に基づき外資規制が敷かれています。つまり、土地や建物の転売や農場建設、開発譲渡権(TDR : Transferable Development Right)の売買によって利益を得ることは外資には認められていません。一方で、不動産仲介業や一定規模以上のタウンシップ、住宅、商業施設、ホテル、リゾート、教育施設などの開発プロジェクトは、政府のガイドラインに従うことを条件に自動承認ルートで100%まで投資が認められています。
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竹谷 哲
京都府生まれ。大学卒業後に証券会社を経て、不動産開発会社にて10年間、東京でのマンション開発、マレーシア、グアムでのゴルフ場開発等に関わる。その後、仙台支店長を経験後に独立起業し、2007年よりインド・チェンナイ市在住。世界の不動産を見て廻り、エイブルNWニューデリー店の共同代表他、インドにて10年超の不動産業実績があり、日系企業や日本人向けに工業団地や住居などの紹介、また、不動産に関わる各種アドバイスを行う。TS Real Estate Consultancyの代表。
Sholinganallur, Chennai 600-119, Tamil Nadu, India
Landline:+91(India) 44-6625-5559 (Reception Ext 333.)
Mobile:+91(India) 91717-99926.
Web:http://tsrealestatechennai.com/
Email:s.take.jat@gmail.com
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