NEWS LETTER VOL.11 GST監査報告書「GSTR-9C」について(前編)
- 第一章 密輸とか脱税とか、言葉は物騒ですが
- 第二章 GST年次申告フォーム「GSTR-9」について
Chapter.01第一章 密輸とか脱税とか、言葉は物騒ですが
ターメリックという、カレーに使われる黄色いスパイスをご存じだと思います。日本ではウコンの名で親しまれていますが、新型コロナウイル感染拡大後に、人間の免疫力を高めるその効能がヨーロッパを中心に脚光を浴びているのはご存じでしょうか。インドのお隣の国スリランカでは、昨年来のスパイス類輸入禁止政策に加え、今年の特需でターメリックが一気に極度の品薄状態となり、その結果としてインドからの密輸の急増が社会問題となっています。ともあれ2021年の年始は「おせちもいいけどカレーもね」、ぜひスパイスで免疫力を高めましょう。(※この昭和時代のCMをご存知の方が読者にどれぐらいいっしゃるでしょうか、、、笑)
ところで「密輸」と聞いてまず連想するのは、麻薬や銃器などの輸入禁止貨物の輸入や、それに関係して起こる犯罪のことであるかも知れませんが、日本の関税法の罰条では、輸入品の関税を不正に免れる行為(関税の脱犯)もれっきとした「密輸犯」 として懲罰の対象になります。インドの通関法 (Custom Act) においても、貨物輸入時の虚偽申告は、「不正輸入行為」として密輸犯と同列の記載がなされており、懲罰の対象となっています。
現在、日本を含む15の国・地域と自由貿易協定(Free Trade Agreement: FTA)を結んでいるインドは、2020年9月21日より、貨物輸入時の関税決定における原産地証明手続きの管理についての新ルールを施行しました。CAROTAR,2020というこのルールは、原産国を偽ってFTA締結国の特恵関税を受けようとする輸入貨物を取り締まる目的で、真の原産国を適正にかつ厳格に審査するための手続きを定めています。このCAROTAR,2020については、「最新インド税務の注意点 Vol.13 新しい原産地規則「CAROTAR,2020」による手続きの厳格化」 をご参照下さい。
https://g-japan.in/news/tax-vol-013/
さて少しスパイスの話に戻ります。英雄たちを虜にしてきたかの女王クレオパトラがクローブ(丁子)の官能的な香りを漂わせていた紀元前の時代から、インドと古代ローマ・ギリシャはスパイスの交易で結ばれており、15世紀の東ローマ帝国の滅亡後のオスマン帝国は、インドからの航路を独占支配したのち、他国による西方へのスパイス交易に高関税をかけ、莫大な利益を得ました。その直後に始まった大航海時代、そして第二次世界大戦後まで続いた植民地・帝国主義時代もまた、人類の交易地開拓の足跡そのものなのです。
第二次世界大戦前までは、インドを含む英連邦内の特恵関税制度に代表されるような経済ブロックや保護主義が世界の趨勢でしたが、その経済競争が、8000万人ともいわれる犠牲者を出した同大戦の一因になったとの反省から、1948年、関税及び貿易に関する一般協定 (General Agreement on Tariffs and Trade: GATT) にインドを含む53か国が署名し、1995年に世界貿易機関 (World Trade Organization: WTO) が発足するまで、2国間あるいは多国間のFTA締結による関税の削減や撤廃による経済の相互発展を進める役割を果たしてきました。
前述したインドの新ルールCAROATR,2020では、輸入者にとっては当該貨物がその審査の対象となった場合の通関手続きの煩雑化の懸念があり、一方の原産国側の輸出者にとっては、輸入契約価格の利益構造までも輸入者に開示されてしまうなどの懸念があるものの、インド政府はこの新ルールによって、自由貿易下の適正な関税収入の確保および “メイク・イン・インディア” 政策下での国内製造業の保護と発展をさらに推し進めていくでしょう。
(次号に続く)
Chapter.02第二章 GST監査報告書「GSTR-9C」について
さて、前回までご説明をしてきましたGSTR-9(GSTの年次申告フォーム)に引き続き、今回からはGSTの監査報告書である「GSTR-9C」について具体的にご紹介をしていきたいと思います。
1. GSTR-9C とは?
GSTR-9Cは、GSTR-9で申告されている売上額、GST納税額およびITC(Input Tax Credit:仕入税額控除)の金額が、申告者の監査済決算書類の売上額、GST納税額およびGST Receivableの金額と一致していることを証明するフォームです(※各項目の詳細は次回のニュースレターでご案内します)。GSTR-9Cの申告時には監査済決算書類を添付する必要があります。
※GSTR-9の詳細は過去のニュースレターNEWS LETTER VOL.9 GST年次申告フォーム「GSTR-9」(前編)とNEWS LETTER VOL.10 GST年次申告フォーム「GSTR-9」(後編)をご参照ください。
もしGSTR-9と監査済決算書類との間に差異が発生している場合には、差異の理由をGSTR-9Cに記載します。しかしながら、通常はGSTR-9の準備とGST監査は同時並行で進めるため、もしGST監査においてGSTR-9の記載内容と監査済決算書類との間に差異が発見された場合には、GSTR-9を適切に修正したうえで提出します(申告書の提出順序については、後述の通りGSTR-9の提出後にGSTR-9Cを提出する必要がございますが、GST監査そのものについてはGSTR-9の提出前に完了させておくのが一般的です)。従って、実務上はGSTR-9と監査済決算書類との差異をGSTR-9Cで報告することは通常ありません。
2. GSTR-9Cの適用対象
GSTR-9Cは、CGST法(Central Goods and Services Act, 2017)Section 35(5)においてGST監査が義務づけられている申告者が対象となります。具体的には、年間売上額が2,000万ルピー(約2,800万円)を超える企業に適用されます。
但し2017-18年度、2018-19年度と2019-20年度は特例により、年間売上額が2,000万ルピー超5,000万ルピー(約7,000万円)以下の企業についてはGSTR-9Cの提出は任意とされ、年間売上額が5,000万ルピーを超える企業のみ必須とされました。
なおGSTの申告はGST番号毎に行うため、複数の州でGST番号を取得している企業は、GST番号毎にGSTR-9Cの申告をしなければなりません。例えば、カルナータカ州、タミルナドゥ州、アーンドラプラデシュ州、ケララ州の計4拠点で各1,500万ルピー(約2,100万円)ずつの売上を計上している企業は、全体で1,500×4=6,000万ルピー(約8,400万円)の売上となるためGSTR-9Cの対象となり、4つのGST番号毎にそれぞれGSTR-9Cの申告が必要となります。
3. GSTR-9Cの作成者
GSTR-9Cは、申告者の年次会計監査を担当していない勅許会計士(Chartered Accountants)または原価会計士(Cost Accountants)がGST監査を実施したうえで作成し、承認しなければなりません。
4. GSTR-9Cの申告期限
GSTR-9Cの申告期限はGSTR-9と同じく、翌会計年度の12月末です。
従って、2018-19年度のGST申告期限はもともと2019年12月末でした。しかしながら、この申告期限は再三に渡り延長され、2020年10月時点での申告期限は2020年12月末となっています。一方、2019-20年度の申告期限については2020年12月末となりますが、こちらは2020年10月時点では延長の発表はございません。
なお、GSTR-9CはGSTR-9の提出後でなければ提出ができません。従って、GST監査および申告の流れは下記の通りとなります。
- 申告者がGSTR-9のドラフトを作成
- GSTR-9および監査済決算書類の内容に基づき、GST監査人がGST監査を実施
- 申告者が必要に応じてGSTR-9を修正後、GSTR-9を提出
- GST監査人がGSTR-9Cを作成
- 申告者がGSTR-9Cを提出
5. GSTR-9Cの延滞税
GSTR-9Cの延滞税は特に定められていないため、CGST法(Central Goods and Services Act, 2017)Section 25で定める一般罰金(General Penalty)であるRs.25,000のみが課されます。
但し、2017-18年度、2018-19年度、2019-20年度については、売上額が2,000万ルピー以上5,000万ルピー未満の企業がGSTR-9Cの提出が任意とされているため、例外的に延滞税が課税されることはありません。
以上
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