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インドの会計・税務アップデート

取締役の報酬に対するGST課税論争の行方はいかに。

  1. ラジャスタン州当局が出した判断結果
  2. そもそも事前確認当局AARとは?
  3. 取締役への報酬にかかるGST課税関係の論点
  4. カルナタカ州当局が出した判断結果
  5. 日系企業が留意すべきポイント

1. ラジャスタン州当局が出した判断結果

GST課税取引

2020年4月にラジャスタン州の事前確認制度当局(AAR : Authority for Advance Ruling)は、企業が取締役に対して支払った給料はGST課税取引にあたり、事前確認を申請した企業はリバースチャージ(RCM : Reverse Charge Mechanism)によるGST納付義務があるとの判断を下しました(参照:Advance Ruling No. RAJ /AAR/2019-20/33)。

旧税制であるサービス税法上では取締役に対する給与は非課税という認識が当たり前であったにもかかわらず、今回GSTでは課税との判断がなされたことを受けて、インド国内では大きな物議を醸しました。(※この場合のリバースチャージとは、役務提供の対価として金銭を受け取った取締役側ではなく、その支払をした企業側が代わりにGST納税義務がある課税方法のことを指します。)

2. そもそも事前確認当局AARとは?

インドの会計士

ここで簡単に事前確認当局AARについてご説明をしておきます。AARとはインドでの税務訴訟を事前に防ぐための手段のひとつである事前確認制度(Advance Ruling)の管轄当局で、一定の取引から生じる課税関係について事前に確認ができる機会を提供するためのインド国内機関です。

インドでは非常に多くの税務訴訟を抱えており、直接税および間接税合わせて23万件以上もの訴訟件数を抱えているとのデータもあり、その数はおよそ日本の約1,000倍近くにもなります。また、税務訴訟に発展した場合には最終判決が下されるまでに5年も10年もかかることが多く、企業にとっては多大な時間と労力、弁護士費用などのコストがかさみます。そこでAARの制度を使って事前に解決しておこう、という選択肢が用意されているわけです。

申請費用は非居住者であれば20万ルピー、それ以外の一定の居住者は想定されている取引金額により20万〜100万ルピーまでの範囲で申請費用がかかります。AARにより下された判断は申請者と当局の双方に対して法的拘束力があり、高等裁判所への特別公告によりその判断の変更(上告)を求めない限りその判断がくつがえることはありませんが、一方で、その他の納税者に対して直接的に影響を与えるものではありません。

3. 取締役への報酬にかかるGST課税関係の論点

インドのビジネス

さて、本題に戻りましょう。GST(Goods and Service Tax : 物品サービス税)とは、いわゆる日本の消費税に当たりますが、インドで2017年に導入されたばかりの新しい税制であるため、まだ税法や規則に不明確な部分も多く、さらに、通達や判例などが十分に出揃っていないこともあり、その課税関係において今回のような不可解な判断が起こり得ます

まず、大前提として2017年CGST法(the CGST Act, 2017)のSchedule IIIにおいて、被雇用主たる従業員が雇用主に対して提供する労働は、「サービスの提供(Supply of Service)」には当たらないと規定されており、つまり、基本的に給与はGSTの課税対象外、と理解できることになりますが、今回の論争を生んだ背景としては、GST法において取締役(Director)と従業員(Employee)を定義する明確な規定がないこと、また、取締役への報酬が「役務提供の対価」なのか「給料」なのかを区別する明確な規定がないことが挙げられます。

4. カルナタカ州当局が出した判断結果

インドの訴訟

上記ラジャスタン州の判断結果については、私個人的にも到底納得ができるものではなく、社内でもインド人勅許会計士と議論をして当社としての見解を出そうとしていたのですが、なんと翌月の2020年5月4日に、カルナタカ州のAARから今回の論争に対して一定の解を提供してくれる別のケースにおける判断結果が下されました(参照:Advance Ruling No. KAR ADRG 30/2020)。

その内容とは、取締役への報酬のGST課税関係については、

(1)企業との雇用契約に基づき勤務している取締役へ支払われる報酬については、常勤取締役(Whole-Time Director/ Executive Director)への「給与」として認識さえるべきであり、従業員の資格を有する者として上記2017年CGST法 Schedule IIIの大前提が適用される、つまり、GSTは非課税とされるべきである、というものです。

一方で(2)取締役として選任されているものの、企業において従業員と同様に勤務をしている実態がない非常勤取締役/非業務執行取締役(Non-Executive Director)が、何らかの役務提供をしたことにより支払われたとみなされる報酬については、2017年6月28日付の通達であるNo.6 of Notification No.13/2017により定義された「役務提供」の対価に該当し、冒頭でご説明したリバースチャージによるGST課税対象となる、という判断がなされました。

5. 日系企業が留意すべきポイント

日本とインドの取引

日系企業の駐在員がインド法人の取締役に就任しているケースにおいては、一般的に雇用契約書に基づく毎月固定の給与が支払われており、また、経理部門がインド所得税法192B条(Section 192 of the Income Tax Act, 1961, TDS on salary)に基づき給与に対する源泉徴収を実施している限りは問題ないと思われます。

しかしながら、もし非常勤の取締役が何らかの理由でインド法人から報酬を得ている実態がある場合には、今回のカルナタカ州AARの判断に基づき、GSTの課税関係については慎重に評価をし、GSTを納税していない場合には、想定される税務リスクに対してどのような対応策を講じておくべきかを検討しておくをおすすめいたします。

Vol.002 : ついに!念願の配当分配税DDT廃止にともなう日系企業への影響