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インドの会計・税務アップデート

経営支援サービスが技術サービスに対する報酬(FTS)として課税されない!?

デリー所得税上訴裁判所(ITAT)は、一定の事実・背景に基づき提供される組織運営や会計・税務、各種トレーニング、採用などに関する経営支援サービスは、インド・シンガポール租税条約第12条(4)に基づく「技術サービスに対する報酬(FTS : Fee for Technical Service)」として課税されないとの判断を下しました。

1.税務訴訟の背景

  • 納税者はシンガポールで設立された民間企業で、アジア太平洋(AP)地域で異なるホテルブランドで運営されているホテルのフランチャイズ/ライセンスの運営・管理を主な業務としている。
  • FY2011-12において、納税者はインドのグループ会社(以下「インド社」)からマネジメントサポーフィーを理由に収益を得ていた。インド社とのサポートサービス契約に記載されているサービス内容に基づき、納税者は業務サポート、会計・法務サポート、情報技術関連サービスなどを提供していた。
  • AO(査定官)は、税務調査手続きの中で、インド・シンガポール租税条約の規定に基づき、技術サービスの対価として、マネジメントサポートフィーを納税者の課税所得に加算した。

2.納税者シンガポール企業側の主張

納税者たる当該シンガポール企業はこれを不服として、納税者は所得税控訴委員会(以下「CIT(A)」 : Commissioner of Income Tax(Appeals))に上告しました。

納税者側の主な主張は以下の通りです。

  • 地域統括会社である同社は、業務の効率化と一貫性を保つために、AP地域の子会社・関連会社に対して、業務支援、会計・法務支援、情報技術関連サービスなどのサービスを提供する部門を集中的に設置していた。
  • このサービスは、納税者がロイヤルティを受け取っている権利の享受に付随するものでもなければ、補助的なものでもない。したがって、インド・シンガポール租税条約の第12条(4)(a)に基づき、受領したサービスはFTSとして課税されない。
  • さらに、このサポートサービスは、技術的な計画や設計の移転や開発を伴うものではない。したがって、インド・シンガポール租税条約第12条(4)(c)に定めるFTSには該当しない。
  • インド・シンガポール租税条約第 12 条(4)(b)に関しては、FTS を限定的に定義しており、経営、技術、コンサルテ ィングサービスの提供の対価として受け取った支払いのうち、当該サービスが技術的知識、経験、スキル、 ノウハウ、プロセスを提供するものであり、サービスの提供を受ける者がその中に含まれる技術等を活用することを可能にするものとしています。

技術サービスは、サービスを利用する者が、サービスを提供する者に頼ることなく、自らの権利を持って、利用したサービスを活用することができる場合にのみ、技術的な知識や技術などを 「Make available(利用可能な状態にする)」と規定しているインド・米国租税条約の同様の用語から、その定義・見解を推測することができます。

単なるサービスの提供では、サービスを利用する者が、将来、サービスの提供者に頼ることなく、そのサービスに組み込まれた技術的な知識や技能などを自ら利用できるようにならなければ、FTSとは認められず、インド・シンガポール租税条約第12条(4)では、提供されるサービスが「サービスの提供を受ける者がそこに含まれる技術等を活用することを可能にする」場合にのみ、この規定の対象となることが明記されていました。

過去の判例では、インド・シンガポール租税条約との関連で、「Make available」の原則とその意味が納税者の主張を支持しており、納税者がインドのグループ会社に提供した同様のサービスは、FTSの性質を持たないとされていました。

3.所得税控訴委員会CIT(A)の判決

CIT(A)はAOに同調し、マネジメントサポートサービスに対する支払いは、以下の根拠に基づき、ITサービスの支払いを除き、FTSであるとしました。

  1. 組織運営サポートや会計・分析サポート、法律相談、IT、購買、人事、研修、雑学に関する知識セットを利用し、関連するホテルの第三者所有者に提供した。サービスを説明する際には、「アドバイス/助言」という言葉が繰り返し使われており、サービス自体が「サポートサービス」と呼ばれていた。これは、納税者の従業員がサービスを提供している間、インド社の従業員と密接に働き、彼らをサポート/アドバイスしていたことを示している。このように、サービスの「Make available」につながるプロセスには、知識と経験の移転が内在していた。
  2. 納税者には、サービスの提供に関わる利害関係がある。なぜなら、サポートサービスに落ち度がある場合、納税者のブランド価値に悪影響を及ぼすからであり、したがって、納税者の最大の関心は、ホテル業界のトップブランドとなるために、世界的なベストプラクティスに沿った最高のサービスを提供するために、知識ベース、経験、スキルセットの完全な移転を確実に行うことである。
  3. それは単なるサービスではなく、第三者が所有するオペレーションホテルを管理するための能力開発のために、リソースを提供するものであった。

上記に対して当該納税者は不服申し立てを行い(控訴し)、この判決に対する判断はデリー所得税控訴裁判所(ITAT : Income Tax Appellate Tribunal)へ持ち越されました。

4.デリー所得税控訴裁判所ITATの決定

その結果、ITATは最終的に、納税者が得た収益はインド・シンガポール租税条約第12条4項に規定されるFTSには該当しないとし、したがってFTSとしての課税はなされない、という判決を下しました。

  • 「make available」という表現は、サービスを受ける人が永続的な利益を得られる立場にあり、将来的に知識やノウハウを自分で活用できる立場にあることを意味していたに過ぎない。
  • インド社は納税者からマネジメントサービス契約に基づいてサービスを受けていた。納税者は、インド社が経営上の意思決定、予算・会計上の意思決定、リスク管理上の意思決定などに使用する高度な技術サービスを提供していた。
  • ホテルの運営管理や関連分野の知識やノウハウは、同業他社の経営、予算、リスクなどに関する経験を通じて蓄積されたものであり、それは技術的な知識にほかならない。
  • さらに、過去の判例では、非居住者企業が融資の調達や資金の強化などの財務上の意思決定を行う際に行った助言は、技術的またはコンサルタント的なサービスであるとされている。
  • したがって、運営面や財務面を含む経営に関連するアドバイスは、経営管理やコンサルタンティング、技術サービスの提供に相当するものである。さらに、過去の判例で最高裁は、マネジメントサポートには膨大な専門知識、スキル、技術的知識が必要であるとしています。従って、経営・技術・コンサルタントサービスの性質を持つものであることは間違いない。
  • ブランド基準に沿ったホテル運営について、現地のホテル経営者に助言を行い、競争力を高め得る情報や専門知識を提供するものである。また、国際的なホテルビジネスとその経営手法に関する資格を保持し、経営計画とアクションに対するアドバイス、ホテルビジネス全般の動向についての助言、さらに、戦略的な経営計画にもとづく運営予算や資本的予算の策定について助言するなど、受領者が納税者から受け取ったそのようなサービスを再利用したり、複製したりできるような性質のものではない。
  • 会計サポートは、貸借対照表や財務報告書類の作成、予算に関する報告書の作成を随時アドバイスするもので、顧客の要求に基づいて繰り返し提供されるサービスであるため、独立して適用できる「Make available」のサービスとして扱うことはできない。
  • 同様に、トレーニングや人材採用、人材仕様に関連して提供されたサービスでは、技術移転、知識移転、技術やノウハウの移転はない。

5.当該判決による日系企業への影響

日系企業においても、海外グループ会社の経営管理業務にかかる一定の取り決めがなされ、親子会社間やグループ企業間で経営支援サービスが提供されるケースは多いですが、当判例は、当該サービスが技術的な性質を持っているからといって、必ずしも技術やノウハウを「Make available」として扱うことにはならない(=つまり、租税条約に規定されるFTS技術サービスに当たるとは限らない)と言えます。

つまり、同様の取引を行っている日系企業については、当判決が自社が現状提供をしている経営支援サービス取引における課税関係に影響を与えるかどうか(=経営支援サービスにかかる対価支払時の源泉税控除を不要とし得るかどうか)を正確に評価し、アグレッシブな税務ポジションを取ることによるメリットとその課税リスクについて積極的にご検討をされることをおすすめいたします。