知らなきゃ損!?外国税額控除にかかる日本における還付手続きとは?
(1) 日本における課税超過状態
親会社等の日本法人からの技術サービス等にかかる報酬をインド法人に海外送金する際には、日本側で源泉徴収税20.42%(通常は日印租税条約に規定される軽減税率10%を適用)を徴収する必要があります。一方で、当該インド法人が、当該納税証明書(Withholding Tax Certificate)を日本法人から入手し、申請書Form 67と合わせてインドでの法人税確定申告を実施することによって、外国税額控除の適用を受けることができます。つまり、当該事業年度おける日本での源泉徴収分(外国税額)をインドにおける法人税から控除することができます。しかしながら、日本法人に対する売上比率が高いインド法人の場合、日本での源泉徴収税額がインドの法人税額を上回ることがあり、その結果インド側で外国税額控除の適用を受けたとしても相殺しきれずに残ってしまうケースが発生します。インド側では、残った外国税額を繰り越して翌年度の法人税の税額控除に用いることは認められておらず、日本側でもこの部分について直接還付申請を行うことはできない(※国税庁通達参照)ので、インド法人としては課税超過の状態となってしまいます。
※ 参考: 国税庁通達「No.2889 租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求」について
源泉徴収税額の還付請求にかかる当通達は、日本からインドへの海外送金実行時に日印租税条約に規定される源泉税の軽減税率10%を適用していなかった場合にのみ適用されるものであり、当該源泉税が外国税額控除として結果的にインド側で相殺ができない状況となった場合において、「租税条約に関する届出書」とともに還付請求書を日本の所轄税務署に提出することで、軽減税率10%を超過して納税していた部分についてのみ還付請求をすることができるというもので、10%の源泉徴収額そのものにかかる還付を規定するものではありません。
(2) 還付手段と背景
それでは、これを全額当該年度の税金費用として確定しなければならないかというと必ずしもそういうわけではありません。インド法人が外国法人として日本であらためて当該年度(過年度であっても最高5事業年度まで)の確定申告を行うことによって、つまりインドにおける事業活動のうち、当該源泉徴収税にかかる部分の部門別財務諸表を日本円建てで作成し、日本の税務署に法人税申告を行うことによって、日本の法人税法に基づいた確定税額と、それを上回る徴収済の源泉税額の差額の還付を受けることが可能になります。なお、日本源泉所得である人的役務提供事業対価を受ける法人は、日本において法人税の申告納税義務があります。
そもそも、なぜこういったケースが発生しうるのかというと、日印租税条約の第12条において、使用料(ロイヤルティ)及び技術上の役務(サービス)に対する料金については、「これらが生じた国において租税を課すことができる。」 と規定されているためです。つまり、インド国内で発生したロイヤルティやサービスであっても、支払者が日本法人である場合は日本が源泉地国となるという、いわゆる債務者主義が適用され、日本からインドへの海外送金時に通常(1)で述べた10%の源泉税が徴収されることが要因となっているのです。
このような日本の租税条約の規定はインドやパキスタン等一部の国との間にのみ見られ、そのような規定が存在しないその他の国においては、一般的に租税条約第7条(前述の第12条に該当しない場合に適用)にある「一方の締約国の企業の利得に対しては、その企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行わない限り、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。」という規定が適用されるため、他国で発生したサービスについては日本から見ると国外源泉所得と見なされ、その結果日本からの海外送金時の源泉税徴収はそもそも不要となります。したがって、還付にかかる申告実務も通常は発生しないことになるわけです。
(3) 還付までの流れ
それでは、1事業年度中のインド法人の売上全額が日本の親会社への技術提供サービス料であった場合を想定して、還付までの流れを見ていきます。
インドでの確定申告内容を仮に以下の通りとします。
(例)
項目 | 金額 | 特記事項 |
日本からの技術提供サービス売上 | 10百万ルピー | ※日本での源泉徴収額 1百万ルピー ① |
税務上の損金 | △ 8百万ルピー | |
課税所得 | 2百万ルピー |
項目 | 金額 | 特記事項 |
法人税 | 0.4百万ルピー | ② |
外国税額控除 | △ 0.4百万ルピー | ③ |
未払法人税(要納税額) | なし |
この場合、上記の日本での源泉徴収済の金額(外国税額) ①が、法人税額 ②を上回っているため、当外国税額を用いてその法人税額②全額を相殺し、未払法人税額がゼロになった後も、下記のように0.6百万が残ってしまいます。
項目 | 金額 | 特記事項 |
日本での源泉徴収額 | 1百万ルピー | ① |
外国税額控除分 | △ 0.4百万ルピー | ③ |
外国税額残高 | 0.6百万ルピー | 資産項目の外国税額として計上④ |
この残高0.6百万ルピーは、当該年度のインド法人の財務諸表上は、通常、資産項目である「短期借入金および前払金(Short Term Loans and Advances)」の外国税額控除(Foreign Tax Credit)として、いわゆる未収入金のようなかたちで計上されますが、実際は(1)で述べたようにインド側では残った外国税額を繰り越して翌年度の法人税の控除に用いることは認められておらず、日本側でもこの部分について直接還付申請をすることはできません。したがって、インド法人は外国法人として日本の税務署にあらためて当該年度の確定申告を行うことで還付申請ができることになります。
例えば、仮に日本の所得税法に基づいて再計算された課税所得もインド側と同じ2百万ルピー、1ルピー@1.8円、法人税率を25.5%と仮定すると、下記のとおり0.918百万円の確定税額と、それを上回る一律10%で徴収された源泉税額1百万ルピー(=1.8百万円)との差額である0.882百万円の還付を受ける権利を得ることになります。
項目 | 金額 | 特記事項 |
日本で再計算された課税所得 | 3.6百万円 | (2.0百万ルピー) |
法人税額 | 約0.918百万円 | (約0.51 百万ルピー) ⑤ |
項目 | 金額 | 特記事項 |
日本での源泉徴収済額 | 1.8 百万円 | (1.0百万ルピー ) |
法人税額 | 0.918 百万円 | (0.51 百万ルピー) ⑤ |
還付確定額 | 0.882百万円 | (0.49百万ルピー) |
(4) 日本における申告実務
日本における申告実務は、以下の手順で行います。
1. 対象事業年度にかかるインド法人財務諸表等の必要書類一式の収集
2. 減価償却費の日本の法人税法ベースでの再計算
3. 未確定債務等の加算調整処理
4. 臨時的な役員報酬の加算調整処理
5. 徴収済の源泉徴収税にかかる事業部分の日本円建て部門別財務諸表の作成
これらを行った上で、日本の税務署(日本に本社がある場合は、その所在地管轄の税務署が望ましい)に確定申告を行います。なお、同申告書上では、対象年度に課税されるべき地方法人税(法人税の10.3%)の計算も行いますので、実際の還付は、確定額から同地方法人税とそれにかかる延滞税を差し引いた上で実行されます。
税務署による実際の還付は、インド法人が日本に法人銀行口座を持たない場合、確定申告書上の申告管理人(日本本社等)の口座に対して行われ、その後当管理人はインド法人に海外送金を行うことになります。
なお、還付にかかるインド法人の売上としての技術サービス料に、インドから日本に出張して日本国内で作業を行った人的役務への対価が含まれていて、かつ、当該非居住者への給与支払が日本で行われている場合においては、それにかかる源泉徴収税20.42%が別途課税されるため、留意が必要です。
(5) 還付後のインド法人の会計および税務上の処理
還付金の受領後は、インド法人において、(3)で述べた計上済の資産項目である外国税額(Foreign Tax Credit)と還付額を相殺し、相殺されなかった部分については還付金を受領した年度の決算時に税金費用として確定させます。相殺される前者については当該決算における資産項目の調整、相殺されない後者については法人税計算後の税引後損益項目となり、課税所得計算には影響を与えないため、過年度修正申告等の税務上の処理は発生しません。なお、当初外国税額控除に適用していた計算要素(例えば為替レート等)を精査した結果修正等が必要になるケースも実務上では発生し得るため、その場合には過年度の修正申告が必要になるケースも考えられます。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。