株式取引のキャピタルゲインにかかる税務論点
1. インドにおける海外VCによる投資
近年、インドにおける国内外のベンチャーキャピタル(VC)による投資額は年率39%の割合で伸びており、さらに国内スタートアップ企業へなされた全投資額の実に90%は外国投資家によるものだという報告もあり、インドのスタートアップ市場は依然海外から高い注目を浴びています。
VCをはじめとする投資会社や投資ファンドが、所有するインド企業の株式を売却する際に発生するキャピタルゲインについては、支払時に所得税の源泉徴収が行われますが、当該株式が上場か非上場か、株式の保有期間が長期か短期か、売却する株主がインド居住者か非居住者か等によって、キャピタルゲインに対する税率等の課税関係が異なります。特に非居住者による売却の際には、当株式の譲渡を受ける法人あるいは個人が、Form 15Eという申告書を所得税当局に提出し、事前にキャピタルゲインの種類および課税率の確認を担当官と行った上で、当該非居住者への対価支払の際に源泉徴収を行う必要があります。
2. 非上場株式にかかるキャピタルゲインへの課税
VCの主な投資対象となるスタートアップ企業等の非上場株式の取引にかかる長期キャピタルゲイン(保有期間が24か月超の株式を売却することにより発生する利益)に対する税率は、居住者(内国法人等)、非居住者(外国法人等)ともに10%となっており、下表1の項目2に該当します。
一方、非上場株式の取引にかかる短期キャピタルゲイン(保有期間が24か月以内の株式を売却することにより発生する利益)に対する税率は、居住者(内国法人等)は30%、非居住者(外国法人等)は40%となっており、下表1の項目5に該当します。これは、短期売買時には、通常適用されるインド内国法人の法人税率(下表2)中のAny other Domestic Company カテゴリーに対する30%、および外国法人の法人税率(下表3)中のAny other incomeカテゴリーに対する40%がそれぞれ該当するためです。
表1
表2
表3
3. 上場株式にかかるキャピタルゲインへの課税
上場株式の取引にかかる長期キャピタルゲイン(株式購入後12か月を過ぎてからの売却により発生する利益: 非上場株式と基準が異なる)に対する課税率は、居住者(内国法人等)、非居住者(外国法人等)ともに10%となっており、上表1の項目1に該当します。また、これに加えて居住者(内国法人等)に対しては株式の購入時および売却時に、非居住者(外国法人等)に対しては株式の売却時にのみそれぞれ証券取引税(注1 STT: Securities Transaction Tax)が別途課税されます。
上場株式の取引にかかる短期キャピタルゲイン(株式購入後12か月以内の売却により発生するもの)に対する課税率は、居住者(内国法人等)、非居住者(外国法人等)ともに15%となっており、上表1の項目4に該当し、証券取引税(STT)については居住者、非居住者ともに株式の売却時にのみ別途源泉徴収されます。
なお、長期キャピタルゲインのうち、株式購入時に長期売買が前提でなかったため証券取引税(STT)が徴収されていない等の理由で、上表1の項目1および項目2に該当しない取引にかかるものについての課税率は、居住者(内国法人等)、非居住者(外国法人等)ともに15%となっており、上表1の項目3に該当します。
(参考)2023年度予算案における非上場株式にかかる税務の改正点
従来、スタートアップ企業等の非上場会社がインド国内出資者等から増資をする際の発行株価が、株価評価レポートに基づく株式評価額(Fair Value)を超えた場合、その超過相当額が当該非上場会社の課税所得とみなされていました。
この度、インド財務省が2023年2月1日に発表した2023年度インド予算案(2023 Union Budget of India)では、出資者が非居住者(外国法人等)である場合にも、その超過相当額が当該非上場会社の課税所得とみなされることとなりましたが、VCやAIF(オルタナティブ投資ファンド)等からの投資を受けるスタートアップ企業は現時点で対象外とされています。一方で、VCやAIF等の投資ファンドもこの課税対象に含まれる可能性もある状況の中、スタートアップ投資のエコシステムにも影響を与え得る論点であるため今後の税制動向が注目されます(※注2)。
(注1):STTについては細かく規定されていますが、大まかには上場株式の売却の場合はSST 0.025%が、非上場だった株式の売却(初期公開株式公募において未上場だった株式の公募で、その後に証券取引所に上場した株式の売却)の場合、インド証券取引委員会(SEBI)に登録されたLead Merchant Bankerを通じてSST 0.2%が課税されます。
(注2):所得税法Section 56(2)(viib)において、VCやAIF等から出資を受けるスタートアップ企業等はそもそも当該課税論点の対象外であるため、当予算案での改正の範囲は今後の論点となると考えられます。
以上
(参考資料)
https://www.businesstoday.in/magazine/the-buzz/story/angel-tax-for-non-resident-investors-heres-why-indias-start-up-ecosystem-is-worried-370610-2023-02-17
https://www.hellomeets.com/blog/top-venture-capital-firms-india/
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。