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インドの会計・税務アップデート

インドにおける税務調査:文化的洞察と適切な対応戦略

インドでも日本と同様に、税務担当官による税務調査が実施されることがあり、日系企業も対象となります。基本的には日本の税務調査と同じ段取りではありますが、インド特有の注意も必要になります。本記事では、当社のインドにおける豊富な税務調査対応経験に基づき、インドで税務調査を受けた場合の注意点をご紹介します。

税務調査では、証憑類の確認や経理担当者へのヒアリングだけでなく、マネジメントへのヒアリングも行われることがありますので、日本人のマネジメントも税務調査の全体像を理解しておくことは重要です。急な税務調査に直面したときに慌てないよう、備えましょう。 

1.法令上の規定

まず、税務調査の法的な根拠について簡単にご紹介します。

日本では消費税も法人税も国税庁が管轄で、同じ税務署が担当しますが、インドでは所得税(Income Tax)と物品サービス税(GST)とでは別の税務当局が管轄しています。所得税の調査はCBDT(直接税中央委員会)が管轄するCIT(Commissioner of Income Tax)を中心としたIncome Tax Officerが担当し、GSTの税務調査はCBIC(間接税・関税中央委員会)が管轄するGST Commissionerを中心としたGST Officerが担当します。

所得税の税務調査は所得税申告書(Income Tax Return)に基づき行われますが、所得税法(Income Tax Act)143(1)条に基づく予備的な税務調査(preliminary assessment)、同法143(3)条や144条に基づく通常の税務調査(Regular assessment)、課税逃れが発覚した場合に同法147条に基づき行われる特別税務調査(special assessment)があります。143(1)条に基づく予備的調査は税務署内部で行われる調査で、納税者が呼び出されることはありません。納税者が対応を求められるのは「通常の調査」と「特別調査」になります。

なお、所得税の税務調査を受ける場合、調査官に対して、税務調査を受けることになった理由を示す文書のコピーを要求することができます。また、もし調査官からの理由に納得ができない場合には、異議申し立てを行うことができます。

一方、GSTの税務調査はGST法の第60-64条で定められ、所得税法に比べて細かいルールが決まっています。当局は90日以内に回答し、6ヶ月以内に最終命令を出します(但し延長規定があります)。61条~64条はGST当局が主体的に行う税務調査に関する規定ですが、当局から説明を求められた場合には原則として30日以内で回答しなければなりません。非居住者やGST未登録事業者もGSTの税務調査の対象となりますので注意が必要です。

2.税務調査時に困らないために日頃から注意しておきたいこと

急な税務調査を受けた際に困らないよう、日頃から以下の点について注意しておきましょう。

  • 財務諸表の各数字について、裏付けとなる証憑を保管しておきましょう(法令上は電子データによる帳簿・根拠証憑の保管が認められていますが、実務上は可能であれば念のため原本も合わせて保管しておいた方が、税務調査の際にはスムーズです)。
  • 調査を受けた際にすぐ証憑を出せるよう、証憑は日付順やクライアント順に整理しておきましょう。税務調査を受けたとき、書類を出すのに時間がかかっていたら、「何かを隠ぺいしようとしているのではないか?」と、調査官からあらぬ疑いをかけられてしまう可能性もあります。
  • 財務諸表上の数値と所得税申告署・GST申告書上の各数字との間に差異が発生している場合には、その差異の原因についてすぐに説明ができる調整表(Reconciliation)を用意しておきましょう。
  • 当然のことですが、所得税やGSTを始め、各税金の申告期限と納税期限を把握し、期日を遵守しましょう。遅れが頻発すると税務調査を誘発する可能性も否定できませんし、もし遅れてしまった場合には理由の説明を求められます。
  • インドでは法令が頻繁に変更されるので、正しい申告処理・納税ができるよう、常に最新の法令をチェックしましょう。当社のホームページでも日系企業に関連のありそうな最新法令を適宜アップロードしていますので、ぜひご高覧ください。GST法第60条では、納税者が
  • 商品やサービスのGSTの適用税率に疑義がある場合に、当局に書面で確認することができる旨が規定されています。もしGSTの適用税率の判断に迷った場合には、事前に当局へ確認することで税務調査における指摘を受けるリスクを排除しておきましょう。

3.税務調査を受けた場合の注意点

続いて、税務調査を受けた場合の注意点について確認しましょう。

  • 当局から求められた書類を提出する前に、念のため監査済みの財務状況と所得税/GST申告書に記載された内容を再度確認してください。
  • 万一、間違いや不一致を見つけてしまった場合には、隠ぺいをするのではなく、裏付けとなる書類とともに誠実に報告し、必要に応じて修正申告や追加納税の対応を進めましょう。
  • 調査官からの質問に対しては、できれば法令や判例となる根拠を示し、一貫性のある説明を心がけましょう。説明が二転三転すると、調査官からの心証が悪くなるため、税務調査は、可能なかぎりインドの会計や税法に精通した専門家に対応を任せましょう。
  • 税務調査の通知が来た際、専門家とスケジュールを調整し、十分な対応ができる準備期間を考慮して、調査官と税務調査スケジュールを調整しましょう。
  • 非接触型の税務調査ではないかぎり、少なくとも税務調査の初日と最終日には法人の代表者が税務調査に出席できるようスケジュールを組みましょう。

4.税務調査に臨む際の心構え

一見すると理不尽と感じる調査官からの指摘に対しては、毅然とした態度で反論することも時には大切です。何でも泣き寝入りしてしまうと、調査官がある種の図に載ってくる可能性もあり、更なる調査を呼ぶ可能性があります。しかし、だからといって、あまりにも強気な態度で臨んでしまうと、それはそれで税務調査が困難になる可能性もあります。時には、多少の理不尽さを許容しつつも、調査官のメンツを立てて、良好な関係を築くことが必要な場合もあります。

インドでは法令に基づいて論理的に対応するだけではスムーズに調査が進展しないケースも多く、インドの文化的な背景やインド人とのコミュニケーションを理解して対応する必要もあるため、この塩梅は大変難しいと言えます。従って、インドにおける税務調査対応の経験が豊富な専門家にアドバイスを求めることが重要です。

深刻な汚職問題を抱えるインドは、税務申告をできるだけオンライン化することにより、担当者と納税者の接触を最小限に抑え、汚職撲滅に取り組んできました。しかしながら、残念なことに、インドでは未だに税務調査の際に当局の担当者から賄賂を要求される事例が後をたちません。もし当局に言われるがままに現金で賄賂を支払ってしまうと、汚職に加担したことになり、企業が深刻なコンプライアンスリスクを抱えることになります。そのような事態に陥らないよう、当局からこのような要求を受けた場合には、信頼できる税務専門家にアドバイスを求めましょう。

               

執筆者紹介About the writter

田中 啓介 | Keisuke Tanaka
京都工芸繊維大学工芸学部卒業。米国公認会計士。税理士法人において中小企業の税務顧問として会計・税務・社会保険等アドバイザリーに約4年半従事、米国ナスダック上場企業において国際税務やERPシステムを活用した経理部門シェアード・サービス導入プロジェクトを約3年経験後、30歳を機に海外勤務を志し、2012年から南インドのチェンナイに移住。2014年10月に会計士仲間とともに当社を共同設立。これまで200社超の在印日系企業や新規進出企業向けに市場調査から会社設立支援、会計・税務・人事労務・法務にかかるバックオフィスアウトソーシングおよびアドバイザリー業務を提供。また、インド人材のリモート活用にかかる方法論および安心・安全なスキームの導入支援を積極的に行っている。