India Weekly Topics

週刊インドトピックス

vol.0179 水資源の有効活用:幼少期の水不足体験から生まれた使命

プラシャント・シャルマ氏は、ロンドンでのエンジニアとしてのキャリアを捨て、2021年にインドで非営利団体Positive Action for Child and Earth FoundationPACE)を設立しました。この団体は主に、学校や大学、その他の施設でグレーウォーターをリサイクルする活動を行っています。グレーウォーターとは、洗面台や洗濯機、シャワー、浴槽などから排出される排水のことで、ブラックウォーター(トイレからの排水)とは異なり、比較的汚染度が低い水です。インドでは毎日310億リットルのグレーウォーターが生成されており、これを適切に処理することで水資源の有効活用が期待されています。

シャルマ氏は幼少期をムンバイで過ごし、常に水不足に悩まされていました。家庭では一人一日一バケツの水しか使えなかった経験から、水資源の大切さを痛感しました。
移住先のロンドンでの生活を通じて環境保護活動に触れ、インドでも同様の取り組みが必要であると感じ、2015年に帰国後、エンジニアとしての仕事を続けながら、植林や水資源の保護に関する啓発活動を開始しました。2017年には仕事を辞め、環境保護に専念することを決意し、2021年にPACEを正式に設立しました。

 

PACEは、自然のフィルタ素材を使用した人工湿地を利用してグレーウォーターをリサイクルしています。この湿地は粘土、モリンガの搾りかす、活性炭、木くず、砂利などで構成されており、一定期間水が保持されることで重い固形物や有機物、栄養素が沈殿し、細菌や水生植物の根によって自然に分解・吸収される仕組みです。この処理後の水は、植物の灌漑や造園、トイレの洗浄など、飲用以外の用途に再利用されています。
また、PACEは、事前に、排出されるグレーウォーターの量を調査し、その水に細菌や糞便が含まれているかどうかを検査しています。さらに、排水の逆流を防ぐためにデュアルプレート逆止弁などの方法を用いて、グレーウォーターがブラックウォーターと混ざるのを防いでいます。

 

現在、PACEはテランガナ州、アンドラプラデシュ州、ウッタルプラデシュ州、オディシャ州、ウッタラカンド州、デリーを含む6つの州で活動しており、その範囲をさらに広げようとしています。
また、農村地域でのバイオ炭(農業廃棄物由来の炭)の生産と利用に関する教育を通じて、炭素隔離(バイオ炭を生産することで、土壌に炭素を固定化する手法)や水消費の削減、土壌の改善に取り組んでいます
PACE
は、カーボンクレジットを通じてこれらの取り組みをマネタイズし、企業が参加するための機会を提供しています。現在は無料でサービスを提供していますが、持続可能なシステムを作るために有料化も考えています。
シャルマ氏は、気候変動対策にもっと多くの企業や人々が参加することを強く望んでいます。

 

Source:持続可能な水資源管理へ – シャルマ氏の挑戦とPACEの取り組み

 

インドでは、急激な人口増加やインフラの欠如、気候変動など様々な要因から水不足が深刻で、約6億人もの人が安全な水を使うことができていないと言われています。
筆者が住むベンガルールでも以前、気候変動により4カ月以上も雨が降らない時期が続き、郊外では大きな川が枯れたりしました。
水の重要性を実体験として理解するシャルマ氏などの活動で、さらに危機的状況を迎えると予想されるインドの水不足が少しでも好転することを期待したいです。

 

(文責:大森太郎)