Vol.0120 5年で世界的ブランドに成長した「boAt 」の成功のための10の教訓
インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年9月18日付けの報道で、オーディオテックとウェアラブル機器を取り扱っている『boAt Lifestyle』を取り上げています。
世界的有名ブランドとなった『boAt Lifestyle』
Aman Gupta氏とSameer Mehta氏が2016年に立ち上げた、オーディオテックとウェアラブルのインド発のブランドboAt Lifestyleは、設立から5年ですでに利益を上げています。また、IDCの最新のWorldwide Quarterly Device Trackerレポート(4Q20)によると、最近、世界第5位のウェアラブルブランドに浮上したようです。
同ブランドの売上高は、19年度の24億ルピー(約36億円)から20年度には70億ルピー(約105億円)へと約3倍になりました。そして、利益の点でみると、2019年度の9000万ルピー(約1億3500万円)から2020年度には4億8500万ルピー(約7億2800万円)と5倍以上になっています。
同社はさらに事業拡大を続けており、この1年間で従業員数を2倍に増員、ベンガルールに現地R&Dセンターを設立し、スマートウォッチなどの新しいカテゴリーに進出したほか、21年度にはオーディオカテゴリーで20種類以上の新製品を発売しました。
boAt lifestyleの10の教訓
先日行われたYourStoryの「Brands of India」イニシアチブの発表会で、boAt Lifestyleはインド発の世界的なブランドになるためのプレイブック(※1)を紹介しています。
以下、boAt lifestyleが紹介した、重要なポイントです。
- 何をするにもROIを考えよう
- 正しい方法で物事を行えば、お金は後からついてくる
- 同調圧力に屈してはいけない
- 顧客のニーズを理解し、事業拡大のタイミングを見極める
- 差別化を図る方法を見つける
- ブランド構築のために、高価な賭けに頼る必要はない
- 革新を続ける
- 製品と市場の適合性を見極めるには、消費者からのフィードバックが最も有効である
- 製品とブランドの構築に重点を置く
- すべてを知ることはできないという事実を受け入れる
ここからは、先に挙げた10のうち、いくつかを詳しくみてみましょう。
何をするにもROIを考える
バニヤ族の家庭で育ったGupta氏とグジャラート族のMehta氏は、自分たちにはビジネスの血が流れていると信じていました。『私たちは生まれながらにして “dhandha “の血が流れており、ROI(※2)を追求するマーケターである』と笑いながら述べています。
また、公認会計士の資格を持つGupta氏は、お金を使いすぎないようにすることを常に心がけています。そんなGupta氏は、boAtのセールスとマーケティングを担当しています。
『私がすること、使うことはすべて、ROIを考慮している。私とMehtaが起業したときも、コワーキングスペースを利用していた。その後、コワーキングがブームになり、みんながやるようになった』と付け加えます。
彼の信条のひとつは、できる限り節約し、学び、自分でできることは自分でやるということです。いくつか例を挙げてみましょう。
デジタル・エージェンシーから月5万ルピーの支払いを求められたとき、Gupta氏はデジタル・マーケティングを学び、その後2年間、独力でboAtのソーシャルメディア・マーケティングを行いました。
また、有名人のブランディングの例もあります。ほとんどの著名人を彼らが有名になる初期段階で起用し、その著名自身が成長したり、boAt製品を使ってメディアに引用されたりすることで、彼らを通じてboAt製品の認知度を高めていったのです。
『マーケティングは、私たちが投資をやめなかった分野のひとつだが、お金を無駄にしたことはない。かつては売れるたびに、その収益をマーケティングに還元していた。そのため、経費は非常に少なかった。人件費のかかる人材を雇うこともなかった。当時は、B2Cが今ほど盛んではなかったので、収益も非常に少なかった。しかし、質素であるという考え方は、私たちを助けてくれた』とGupta氏は述べています。
同調圧力に屈しない
boAtの創業者たちは、お金を無駄にすることはありませんでしたが、個人的な面ではかなり苦労しました。Gupta氏が語ったように、彼は昨年まで給料を受け取っておらず、父親から借金をしたこともあります。また、ISB(Indian School of Business)のMBAやCAを取得していたこともあり、同世代の人たちはそれ以上の成果を上げ始めていました。
『そんな状況でも、自分がやるべきことをやる。私は売ることが好きだ。自分のやっていることが好きだ。だから、私は自分の好きなことをやりたかったし、成功は後からついてきたのである』と彼は述べています。
製品と市場の適合性を知るために、お客様の声を参考にする
Gupta氏は、①顧客のニーズを理解すること、そして②顧客がプラットフォームで発売される新製品を試す準備ができている状態か、③ブランドを十分に信頼しているかどうかを知るために、顧客のフィードバックを参考にすべきだと考えています。
2019年、boAtは1日に6,000個以上を販売し、毎分4個が売れたと主張しました。その後、同社のウェアラブルブランドの1つが、Flipkartでの発売から1分以内に1万個売れた。それを機に、オーディオからウェアラブルへとギアチェンジしたのです。
ウェアラブル商品の「boAtheads 」に寄せられた反響は、このブランドがインドで人気を博すために実現可能な価格帯で良質なものであることを約束してくれました。『ウェアラブルを購入していただいたことで、私たちはオーディオだけでなく、ウェアラブルの分野にも進出する自信を持つことができた。そこで、パーソナルグルーミング機器を扱う新ブランド「Misfit」を立ち上げた』と説明しています。
差別化を図るための工夫
boAtが設立された当時、インドではすでに国内外合わせて200のブランドがオーディオ機器を販売していました。そのため、オーディオは乱立したコモディティ化(※3)した市場であり、競争も激しいものでした。
差別化を図るために、boAtはまず、若い消費者の行動を理解するためにミレニアル世代を大量に採用しました。『今でも、マーケティングのベテランは絶対に採用しない。私よりも、あるいはほとんどの人よりも、この若い人たちのほうがうまくやれる』とGupta氏は言います。
boAt Lifestyleにとって、ブランドを立ち上げ当初は人々が買ってくれるかどうかが大きな問題でした。しかし、転機となったのは、今日の消費者がヘッドホンやイヤホンを単なる実用品としてではなく、ファッション、アクセサリーとして使用していることに気づいたことでした。
『これが、私たちが見た変化である。そこで、価格や品質の面で差別化を図ることにした。私たちは自分たちのことを “エレクトロニクスファッションのZARA “と呼んでいた。結果、私たちのブランドは若年層にも受け入れられたが、中高年の人たちにも受け入れられた。』
技術革新を続ける
Gupta氏は、スタートアップ企業が一定の成功を収めた後は、研究開発に投資し、業界の変化が非常に速いため、常に気を配る必要があると考えています。
『自分のやっていることには情熱を持っていますが、新しいブランドが出てくることには猜疑心を持っている。自分がしていることを、他人にまねされたくない。だからこそ、競争相手に対する猜疑心が強いことに気づいた。そして、その気持ちが私を目覚めさせる。』
製品とブランドの構築に重点を置く
boAtはマーケットプレイスで生まれ、その後オフラインに移行し、現在は消費者に直接販売しています。『これまでの歩みの中で、私たちは製品やマーケティングに重点を置き、流通・物流には特に力を入れてこなかった。この経験は、マーケットプレイスの方がはるかに優れていることを証明している。だからこそ、私たちは製品とブランドの構築に集中した。』とGupta氏は言います。また、ブランドが人気を得れば、流通経路は問題ではないと考えています。
『現在、私たちのビジネスの10~15%がオフラインである。30億ルピー(約55億円)以上がオフラインでの売り上げで、これは、多くのB2Cブランドが直接販売のみを行っている場合よりも高い数字だ。そのため、ファネル(※4)の底辺にのみ費用をかけ、その顧客を維持する必要がある。つまり、最初は自分たちをどのように位置づけたいかということだけを考えていた。』
すべてを知ることはできないという事実を受け入れる
Aman Gupta氏とSameer Mehta氏のふたりの創業者たちがGodrej Consumer Products社の元役員であるVivek Gambhir氏をCEOに任命したとき、その決断について業界から質問が殺到しました。
『問題は、ほとんどの創業者が自分のエゴに負けて、自分はすべてを知っているという誤解をしてしまうことだ。しかし、時にはすべてを知らないこともある。助けが必要であり、助けを求めることは悪いことではない。』と、Gupta氏は言います。
『私の中には “ハッスル “がありますが、ヴィヴェックはそれに “筋肉 “を加えてくれている。彼は我々の狂気に手段を与えてくれる。彼は、ここから成長するために必要な構造をもたらしてくれているのである。』と付け加えます。
最後にGupta氏は、ブランドが消費者の声に耳を傾けなければ、消費者は他のものを買ってしまうと強調します。今は、インドの消費者が魅力を感じ、以前にはなかった国産ブランドへの敬意を示す時代です。『だから、常に耳を傾け、適応し、変化し続ける。それが生き残るためのマントラ(※5)だ。消費者と価値提案を正しく理解すること。そうすれば、きっとできるはずだ。』
本記事で取り上げたboAt Lifestyle社の10の教えは、どの業界にも、そしてビジネス以外にも通ずるものがあると思います。一見当たり前のように思える内容かもしれませんが、この10の教訓を継続できている企業(人)は少ないと思います。
実際、boAt Lifestyle社の創業者であるAman Gupta氏も昨年までは給料を受け取っていなかったと述べています。外から見ると、大成功を収めて裕福な生活を送っていそうなboAtの創業者がこのように陰で努力を続け、人に助けを乞うことも積極的に行っているという事実は多くの人に影響を与えたのではないでしょうか?
※1 プレイブック:これまでの経験を言語化したもの。特に重要なのは問題に対する最適解。語源はアメリカンフットボールの戦略集。
※2 ROI:Return On Investmentの略。「投資収益率」や「投資利益率」。投資した費用に対してどれだけ利益がでているのかを知るための数値。
※3 コモディティ化:高付加価値の製品の市場価値が低下し、一般的な商品になること。
※4 ファネル:消費者の購入までの意識遷移に当てはめ図式化したもの。
※5 マントラ:サンスクリット語で「文字」「言葉」を意味する。