【知らなきゃ法令順守違反!?】インドの取締役会・株主総会の運営方法を完全解説
インドの取締役会・株主総会の運営方法を完全解説
今回はですね、インドの取締役会と株主総会それぞれの運営方法について解説してみたいと思います。
インドに現地法人を設立すると、基本的に取締役会を年に4回、株主総会を年に1回、必ず開催する必要があります。特に、インド法人の取締役や株主はインド国内だけじゃなく、日本や東南アジアのグループ拠点などのインド国外にいるケースも多いので、そもそもどのようなことに気をつけて取締役を選任する必要があるのか、取締役会や株主総会をどのような方法で開催すべきなのか、開催場所に制限はあるのかなど、意外に知らない落とし穴がいくつかあるので、知らず知らずのうちに法令遵守違反になってしまうリスクが潜んでいます。
今回の動画を見ていただくことで、日本企業がよく陥りがちな組織運営上の失敗例や見落としがちな法令を知ることができるので、インド現地法人の意思決定機関である取締役会や株主総会の正しい運営方法を理解できるようになります。
今回の動画の全体像としては、こんな感じで取締役の選任と取締役会の開催、そして、株主の選任と株主総会の開催、それぞれにおいて気を付けるべきことがあるのでひとつひとつ解説していきます。特に取締役会については日本ではそもそも設置していない企業も多いと思うのでなかなかイメージが湧かないですよね。それではまず、取締役の選任から見ていきましょう。
取締役の選任について気を付けるべきこと
居住要件を満たしているか?
取締役の選任について気をつけるべきこと1つ目は、居住要件を満たしているかどうかです。
インド会社法上最低2名の取締役を選任する必要があるのですけれども、そのうち最低1名は居住取締役でなければならないという規定があります。
居住取締役( Resident Director) というのはですね、会計年度、4月1日から翌年3月31日において182日以上つまりざっくり1年の半分以上インドに滞在している取締役のことを指します。
なので、新しく現地法人を設立するときや取締役を変更するときなどは、現地法人の取締役メンバーの中にこの居住要件を満たす取締役が常に1名いるかどうかを確認しておく必要があります。特に法人設立をする際にはですね、居住要件を満たす取締役がいないケースはけっこう多いので、この場合は社外の信頼できるインド人パートナーだったり、法人設立業務を委託している会計事務所や法律事務所などから居住者の名義を借りて、一時的に取締役に就任してもらったりしてこの居住要件を満たすのが一般的です。
ちなみに新しく設立されたばかりの会社については初年度だけ会計年度がフルフル365日ないことになるので、会社設立日からその年度末までの期間のうち、その半分以上をインドに滞在していれば居住取締役として認められることになっているんですけども、当局の担当官によって今年度ではなくて前年度の居住ステータスを基準に判断してくるケースも散見されるので、その都度柔軟に対応していく必要があります。
インドでは当局の担当者がですね、最新の法律を理解出来ていないことが多発するのでなかなか厄介なんですよね。
取締役はすぐに変更できるか?
取締役の選任について気を付けるべきこと2つ目は、取締役はすぐに変更できるかという論点です。
まず、新しい取締役を選任するためには、個人に紐づいて発行されるDINという取締役識別番号が必要です。もしこのDINをすでに持っている人であれば、臨時株主総会を開催することなく、取締役会の決議だけでその人をすぐに取締役に選任・登記することができます。日本だと株主総会での決議がないと取締役を変更できないと思うので、ここは日本と違うところですよね?ただ、任期は次に開催される年次株主総会まで、という期限付きで選任されることになります。なので、その方が年次株主総会以降も引き続き取締役としてに就任するためには、年次株主総会であらためてこの人を取締役として選任したことを決議・追認する必要があります。
ちなみに、DINっていうのは、取締役になるかた個人に対してインド企業省MCAが個別に割り当てる固有識別番号で、有効期限などはなく、一度DINを取得したら複数の会社の取締役に就任しようが、取締役を退任して他の会社の取締役に就任したりしようが、ずっと同じDINを利用することになります。もし、このDINを持っていない人が取締役として就任するためには、まずDSCというUSBタイプのデジタル署名証明を事前に取った上で、DINを取得する必要があるので取締役として選任・登記が完了するまでに1〜2ヶ月かかる可能性があるので事前にDINを持っているかどうかを確認するようにしましょう。インドあるある3文字単語。インドではむちゃくちゃよく出てきますので、単語の意味がよく分からないっていう人はぜひこちらをご覧ください。
取締役は解雇できるか?
取締役の選任について気を付けるべきこと3つ目は、取締役は解雇できるのかという論点です。
通常、取締役が退任をするためには、本人から辞表(Resignation Letter)を出してもらって、取締役会で退任決議をとることで取締役を退任させることができます。
一方で、本人が辞表を出すことを拒否したりして退任させることができない場合には、除名手続きを実施する必要があります。まず、事前に取締役会にて除名決議を執り行いたい旨の特別通知(Special Notice)を全取締役に対して発行した上で、取締役会で除名決議とその承認を求めるための臨時株主総会の招集に関する決議を取ります。臨時株主総会では、本人に対して弁明の機会を与えた上で、弁明の内容に基づいて最終的に株主が除名決議をとることで取締役の除名を登記・申請することができます。
取締役会の開催について気を付けるべきこと
次に、取締役会の開催について気をつけるべき点について見ていきましょう。
開催要件を満たしているか?
1つ目は、開催要件です。
取締役の開催に関する主な留意点はこの表のとおりで、原則、7日前までに招集通知を出すこと、全取締役の3分の1もしくは2名のいずれか多い方が定足数で、インド国内・国外どこでも対面でもしくはビデオ会議での開催が認められています。また、取締役会は、1年に最低4回開催する必要があって、それぞれの取締役会の開催日の間隔は120日以内と定められています。さらに、取締役は、前回出席した取締役会から12か月以内に必ず一度は取締役会に出席する必要があるので、例えば、2024年4月に取締役会に出席した取締役は、次の年の2025年4月までに必ず取締役会に出席しておく必要があるので、出席者を決める際に注意しておく必要があります。
書面決議は認められているか?
取締役会の開催について気をつけるべき点2つ目は、書面決議は認められているかどうかです。
結論、書面決議(Circular Resolution)自体はインドにおいても認められているんですけど、書面決議を実施したとしても、正式な取締役会としてはカウントされないという点と、そもそも書面決議では承認ができない決議事項があるので注意が必要です。取締役会はさっき年4回開催する必要がある、って言ったんですけど、もし書面決議を取ったとしても年4回のうちの1回としてはカウントしてくれないんですね。なので、現実的な活用方法としてはどうしても緊急で取締役会決議を取らないといけない事案が発生した場合にいったん書面決議を取った上で、次に開催する取締役会の中で、書面決議の内容を確認・追認する、という形を取ります。あと、こういった項目はそもそも書面決議が認められていません。新株の発行とか銀行からの借入とか、年度末決算書類の承認とか、こういった重要な事項については書面決議ではなく、ちゃんと取締役会を開催して決議を取ってくださいね、ということですね。
いつ・誰が・どこにいるか?
取締役会の開催について気をつけるべき点3つ目は、いつ・誰が・どこにいるかという論点です。
先ほどの開催要件のところに記載があったとおり、取締役会の開催場所は基本的に問われないのでインド国内だけじゃなくてその他の国でも開催自体は可能なんですけど、取締役会に出席をする人が、例えばひとりはインドに、もうひとりが日本にいる場合、どちらかが出張で会いに行かない限りは対面による開催ができないですよね。ただ、取締役会は年4回も開催する必要があるので、開催のタイミングでその都度出張しなければならないのは大変です。なので開催方法として、対面だけではなく、ビデオ会議での開催も認められているんですけど、この場合、ビデオ会議で実施した取締役会を録画して、その録画データをちゃんと保管しておかなければならないことになっています。
取締役会を開催すると基本的にこういった書類を作成して保管しておく必要があるんですけど、これに加えて録画データも毎回保管していくとなると少し面倒ですよね。
そこで、取締役メンバーのうち最低2人が同じ場所にいる体制をとっておくと、取締役会の開催をするたびに、いつ・誰が・どこにいるのかを細かく確認・調整しなくても基本的に開催できるようになるので、取締役会の運営が柔軟に対応できて便利です。つまり、例えば取締役3人のうち1人がインドに、残り2人が日本にいる場合、日本にいる取締役2名だけで取締役会の定足数を満たすので、日本で会合による開催ができて、かつ、書類をつくて署名しておけば、ビデオ会議の録画データまで保管しておく必要はなくなるので取締役会の運営が楽になります。
次に、株主総会について見ていきたいと思います。
株主の選任について気を付けるべきことと、株主総会の開催について気をつけるべきことに分けて解説をしたいと思います。それぞれ解説をしていきたいと思います。
株主の選任について気を付けるべきこと
法人株主か個人株主か?
株主の選任について気を付けるべきこと1つ目は法人株主か個人株主か、という論点です。
インドでは比率としては、例えば日本本社が99.9%の株式を保有して、海外のグループ会社が残りの0.1%とか1株だけを持って実質100%子会社を設立するという形です。一方で、グループ会社がないケースや、そもそも個人が株主となるようなケースにおいては、株主総会の開催においてその個人株主が必ず出席しなければならなくなります。つまり、年次株主総会のタイミングでその個人株主の方がインド国内にいるかどうかをその都度確認しなければならなくなりますし、また、日本人駐在員などの個人が株主になるようなケースだとその方が帰任したり退職したりした場合に株式を譲渡しなければならなくなるので少し面倒です。こういった背景から個人が株主になるケースでは、株主総会の運営ハードルが少し高くなってしまう可能性があるので、この点を考慮した上でだれが株主になるべきかを検討することをおすすめします。
名義株主は可能か?
株主の選任について気を付けるべきこと2つ目は名義株主は可能か?という論点です。
結論から言うと可能なんですけど、名義株主(Nominee Shareholder)を選任する場合には名義株主が株主としての一定の権利を放棄することを文書で確認した上で登記するという手続きが必要になります。具体的には、法人設立後30日以内に、通常の株主と名義株主それぞれがMGT-4とMGT-5というフォームを使ってインド現地法人に対して宣誓書を提出した上で、インド現地法人はこの宣誓書を受領後30日以内に、MGT-6というフォームを使ってインド登記局ROCに登記申請をするという流れです。(図解を表示)配当を受け取る権利についても放棄することは可能なので、名義株主をどのように定義するのか、と言う点も考慮した上で手続きを実施するようにしましょう。
個人株主の代理人は認められているか?
株主の選任について気を付けるべきこと3つ目は個人株主の代理人は認められているか?という論点です。
結論から言うと個人株主の代理人(Proxy)を選任することは認められているんですけど、1つ重要な論点としては代理人 (Proxy) は定足数には含まれない、っていうことと、さらに挙手による決議では議決権さえ持てません。例えば、株主が法人株主1社と個人株主1名の合計2者しかいない場合は、個人株主が代理人を選任してもそもそも定足数を満たさないことになるため、個人株主自らが必ず出席する必要があるっていうことになります。逆に言うと、もし万が一個人株主の代理人を選任して株主総会を開催してしまった場合には、法的に株主総会の定足数を満たさないことになってしまうので、そもそも株主総会の開催が正式に認められない可能性もあるので注意が必要、ということになります。
整理をするとこんな感じになります。
つまり代表者(Authorised Representative)と代理人(Proxy)を正しく区別して理解をしておく必要があるんですね。
法人株主であれば社内外を問わず誰でも代表者として選任をすることができるので、例えば、株主である日本法人の代表者として、インド国内の日本人駐在員やインド人従業員であったり、場合によっては社外の信頼できるビジネスパートナーを選任することだってできるわけですね。なので、株主が法人である限りは、取締役会のようにいつ・誰が・どこにいるかということを気にせずに株主総会を開催することができます。一方で、個人株主の場合はもし仮に代理人を選任したとしても、定足数に含まれないので株主が2者しかいない場合は個人株主自らが株主総会に出席せざるを得ないことになります。
株主総会の開催について気を付けるべきこと
次に、株主総会の開催について気をつけるべき点について見ていきましょう。
開催要件を満たしているか?
1つ目は開催要件です。
株主総会には年次株主総会AGMと臨時株主総会EGMの2つがあって、開催に関する主な留意点はこの表のとおりです。21日前までに招集通知を出すこと、非公開会社の場合は2者が定足数で、原則、インド国内の登記住所がある市町村内で、対面での開催のみが認められています。この開催要件についてはいくつか例外規定もあるので後ほど説明しますね。さらに、年次株主総会AGMの場合は(初年度を除いて)会計年度終了から6ヶ月以内、かつ、前回の株主総会から15ヶ月以内に開催をして、監査済決算報告書や監査報告書などの承認決議を執り行わないといけない、という開催期限があるので注意が必要です。
具体的には、インドの会計年度末は原則3月末になっていて、つまりその6ヶ月後である毎年9月末までに年次株主総会を開催する必要があるんですけど、監査済決算報告書などの承認をするためには遅くても8月末ぐらいまでには会計監査を終わらせて、9月上旬に取締役会を開催、21日前までに招集通知をおこなった上で9月末まで株主総会を開催するっていう流れが一般的なスケジュール感になります。
取締役会と同日に株主総会を開催できるか?
株主総会の開催について気を付けるべきこと2つ目は株主総会を即日開催できるか?という論点です。
結論から言うと、短期招集通知(Shorter Notice)でもって招集することで株主総会を即日開催することができます。例えば、もし9月中旬になってもまだ会計監査が終わっていない場合、9月末ギリギリに取締役会と年次株主総会を開催して監査済決算報告書を承認しなければならなくなります。この場合、通常求められる21日前までの招集通知を9月末ギリギリに出していては9月末の開催期限に間に合わなくなってしまいますよね?なので、短期招集通知をもって即日株主総会を開催することができるようになっています。この短期招集については議決権を有する株主の 95%以上が書面で同意した場合にのみ実施ができる点にも注意しておきましょう。
インド国外で開催できるか?
株主総会の開催について気を付けるべきこと3つ目はインド国外で開催できるのか?という論点です。
まず、原則論としては、年次株主総会AGMと臨時株主総会EGMについてはビデオ会議による開催が認められておらず、さらに年次株主総会についてはインド国内の登記住所がある市町村での開催が義務付けられています。ただ、例外規定が2つあります。1つは、完全子会社であれば、臨時株主総会についてのみインド国外でも開催することが認められているということ、そしてもう1つは、コロナ禍に発表された時限立法として年次株主総会と臨時株主総会のビデオ会議による開催が特別に認められている、ということです。この時限立法については2024年9月末までが有効期間だったんですけど、それがさらに1年間延長されたので、2025年9月末までは株主総会のビデオ開催はOKということになっていますが、あくまで時限立法、今後も引き続きずっと継続されるかどうかはわからないので、最新の情報を常に確認しながら株主総会の運営を行なっていくようにご留意ください。
いかがでしたでしょうか?
今回は、インド現地法人の意思決定機関である取締役会や株主総会について注意すべき点について解説をしたしました。ぜひ参考にしていただいて、うっかり落とし穴にハマって法令遵守違反にならないように注意していただければと思います。またご不明点やご意見などあれば、ぜひお気軽にコメントをいただけると嬉しく思います。