インド採用の定着率を高める方法|離職率の構造と具体策
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インドで人が辞めまくる!離職率を乗り越えた採用・定着の秘訣
今回は、インド人材の採用と定着というテーマでお伝えします。
せっかくインドで採用した社員がすぐに辞めてしまう——そのような悩みを抱えている経営者・駐在員の方は少なくないのではないでしょうか。3ヶ月かけて面接して、やっと「この人だ」という人材を採用できた。研修も終わって、チームにも馴染んできて、ようやく戦力になってきたと思った矢先に、「他の会社から良いオファーをもらったので転職します」という連絡が来る。日本であれば大きなショックとなるでしょう。しかしインドでは、これが日常的に起きています。
一方で、優秀なインド人チームを作り上げて、離職率も一桁台に抑えている日系企業がいることも事実です。同じインドで、同じ業種で、なぜここまで差が出るのか。本記事ではその違いを掘り下げます。本記事を通じて、インドの離職率が高い構造的な理由と、今日から使える定着率向上の具体策を解説します。
インドの離職率が高い構造的な理由——データで解説
IT部門・全産業の最新離職率データ
まず正確なデータからお伝えします。インドのIT部門の年間離職率は、2023年で19.3%、2024年は15.1%まで改善しています。全産業の平均でも2025年は16.2%で、過去5年で最低水準になっています。
AIの普及が離職率を低く見せるカラクリ
一見「思ったより低くないか」と感じるかもしれませんが、実はこの数字には背景があります。AIの普及でIT関連のポジション全体の採用自体が絞られている側面が大きいのです。すなわち「辞める人が減った」というよりは「新しい採用が減ったから離職率が少し落ち着いただけ」という面もあります。実際、AI・ML・クラウドのような需要の高い職種や、急成長中のスタートアップ業界では依然として離職率が25〜30%超というケースも多くあります。日本の平均離職率が10〜11%台であることを考えると、インドはやはり高い水準にあります。
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転職がキャリアアップの手段になる理由
なぜこうなるのかというと、インドでは転職こそがキャリアアップの手段になってしまっているからです。同じ会社にいると昇給は年5〜10%程度のことが多い一方で、転職すると30%から40%ほどアップになるケースも珍しくありません(職種・スキルレベルにより差があります)。日本の常識でインドを見ると「なぜこれほど早く辞めるのか」と感じてしまいますが、インド人の側からすると「同じ会社に何年もいる方が損だ」という認識になっているのです。
インドで会社を経営してきた経験から、この感覚のギャップにとにかく苦しみました。「3年かけて育てた人材が急に辞める」ということが当たり前のように起きて、心が折れそうになることもあります。しかしその経験から、最初からある程度は辞めてしまう前提で仕組みを作る必要があると気づきました。辞められては困る人材に対しては、転職したときと同等の昇給率を積極的に提案することが不可欠です。
日本企業が無意識にやっている「離職を加速させる」マネジメント
日系企業が知らず知らずのうちにやっている「人を辞めさせてしまうマネジメント」があります。
① 評価基準の不透明さとキャリアパス不在
ジェトロが実施した2024年の調査で、インドの就業経験者からこのような声が出ています。「キャリアアップの欠如が退職の最大の理由で、入社後4〜5年の社員は次のキャリアパスが分からなくなって辞めていく」というものです。「なぜ自分が昇進できなかったのか、理由を説明してください」と面と向かって聞いてくることもあります。それに対して合理的かつ明快に説明ができなければ、翌日には転職活動を始めていると考えておいた方がよいでしょう。インドでは、OKRや評価シートなどをフォーマット化して「何がどれくらいできたら昇進するのか」「あなたの期待値に対して現状はどうなのか、何を改善してほしいのか」を明文化して示すことが非常に重要です。
② Job Descriptionの曖昧さが早期離職を招く
「とりあえず優秀な人を採って、後から配属を決める」——インドでは入社後に「聞いていた仕事と違う」ということになり、試用期間中に離職するケースも少なくありません。採用時に「1年目にやる仕事」「期待する成果」「次のステップ」といった情報を書面で示して事前に合意しておくと、試用期間中の離職はかなり減ります。
③ マイクロマネジメントと「なぜ」の欠如
日本のホウレンソウ文化をそのまま持ち込むとどうなるか。毎朝9時にSlackで進捗報告、業務終了時刻までに日報を提出——インド人に対してはそもそも「なぜ進捗報告が必要なのか」「なぜ日報が必要なのか」を詳しく説明しないと、納得感のないまま要領をえない報告ばかりになり、さらに日々のモチベーションまで奪ってしまいかねません。
インド人が本当に求めているもの——給与以外の定着要因
明確なキャリアパスが定着率を左右する最大のポイント
「あなたは2年後にこのポジションに昇格してほしいと思っている。そのために必要なスキルはこれだ」というロードマップを明確に示せるかどうかが、定着率を左右する最大のポイントです。2年以内に何らかのキャリアアップをしている感覚が得られなければ辞めてしまうと考えておいた方がよいでしょう。
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Public Recognitionがコストゼロで機能する
インドではPublic Recognition(公の場での称賛)が非常に大きな意味を持ちます。全社ミーティングで名前を呼んで表彰するとか、Slackでみんなの前で「Great job!」と具体的な成果を添えて発信するといった取り組みがコストゼロで始められます。
スキルアップの機会が従業員を引き留める
Wisemonk社が2026年に実施した調査によると、リスキリング支援がある企業では63%の従業員がより長く在職するとのことです。新しい業務にアサインする、これまでやったことのないことにチャレンジしてもらう、海外出張に行ってもらう——こういった機会は、インド人にとって賞与と同等のインパクトを持つ報酬になり得ます。
給与・福利厚生・フレキシブルワークの設計
① 給与は「市場プラス10〜15%」が目安
市場水準の10〜15%上乗せが、定着率を高めるうえで有効な水準とされています。ただし、企業の財務状況や業種により判断は変わります。重要なのは、ベース給与だけでなくパフォーマンスボーナスとの組み合わせです。
インドでは「全員一律で昇給5%」という方針よりも「成果を出した人は15%、そうでない人は3%」といったメリハリのある賃金体系の方が、優秀な人材には響きます。成果主義的なアプローチを導入することで、高い動機付けが可能となります。
② 家族カバーの健康保険が「辞めない理由」になる
インドの民間病院は自己負担では非常に高額になることがあります。「家族の医療費の心配がなくなる」という安心感は、特に既婚者や子を持つスタッフにとって、給与と同じくらい——場合によってはそれ以上に——「辞めない理由」として機能します。充実した家族向け健康保険を整備することは、長期的な定着率向上に大きく貢献する投資といえます。
③ フレキシブルワーク——65%が給与より柔軟性を優先
65%のインド従業員が「給与より柔軟性を優先する」と回答しています(出典:Wisemonk, 2026)。特にIT・ホワイトカラー職を中心に、フレキシブルワークへのニーズが高い状況です。リモートワーク導入だけで離職率が25〜30%低下するというデータも存在します。
デリーやムンバイの通勤事情は深刻で、片道1.5〜2時間が標準的であり、渋滞がひどい日は3時間に及びます。製造業や工場勤務にはそのまま当てはまらない場合がありますが、バックオフィスや管理部門については、あらゆる業種でフレキシブルワーク導入の余地があるはずです。
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定着率改善に成功した事例と今日から始める具体的アクション
① アマダ(AMADA INDIA)の長期人材育成モデル
金属加工機械メーカーのアマダのインド法人では、約6ヶ月のインターンシップ選考制度を導入しています(出典:リクルートワークス研究所 Works No.188)。経営マインドや論理的思考力などの基準で人材育成委員会が議論し、ローテーションを通じて幅広い経験を積ませています。さらに日本へのインターン派遣も実施し、日系企業への理解と帰属意識を高めています。
中小企業がこのすべてをそのまま導入することは難しいかもしれませんが、「最初から長期的な人材育成を前提とした採用・配置」という発想は、あらゆる企業規模で応用可能です。
② 1on1ミーティングを月2回から始める
定着率が高い日系企業に共通するのが、1on1ミーティングを定期的に実施していることです。仕事の課題だけでなく、キャリアの相談やプライベートの変化についても話せる関係構築が重要です。
ある製造業のインド法人で、マネージャーに月2回の1on1を義務化したところ、半年で離職率が目に見えて改善したという事例があります。必要な投資は「マネージャーの時間30分×月2回」だけです。
③ Stay Interviewで「辞める前に聞く」仕組みをつくる
退職面談(Exit Interview)は辞めた後に理由を聞くため、既に手遅れです。これに対し、Stay Interviewは「なぜあなたはこの会社にいるのか」「何があったら辞めようと思うか」を事前に把握する仕組みです。
インドのHR業界では「People leave managers, not companies(人は会社を辞めるのではなく、マネージャーを辞める)」という格言が広く知られています。Stay Interviewはマネージャーと部下の関係を健全に保つための「定期検診」として機能し、離職の予兆を早期に発見することができます。
まとめ
インドにおける採用は「人材を獲得すること」より「人材を留めること」が難しい課題です。しかし、やるべきことは明確です。明確なキャリアパスの提示、Public Recognitionの実施、スキルアップ機会の提供、フレキシブルワークの導入——これらの施策を一つひとつ積み上げていくことで、定着率は確実に改善できます。
インドの採用・定着課題は「構造的な理由を理解し、それに対応した仕組みを作る」ことで解決可能です。本記事で紹介した具体策を今日から導入することで、優秀なインド人チームの構築と長期的な事業成長が実現されるでしょう。