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インドBIS認証2026|スキームX廃止でも安心できない3つの理由

ジェトロが2026年1月に発表した最新の調査データによると、在インド日系企業の一般機械で92.3%、商社・卸売業でも81.6%がすでにBIS強制認証制度によって「事業に影響あり」と回答しています。製造業だけで見ても71.9%で、そのうちの約7割が「深刻」「非常に深刻」と回答している状況です。一方で、「スキームXはいったん廃止になったと聞いたから、機械系の会社はもう大丈夫ではないか」と思われている方も少なくないようです。

本記事では、インド BIS認証(BIS強制認証制度)がなぜここまで深刻な問題となっているのか、廃止されたのに安心してはいけない理由、そして今すぐ取るべき3つの対応ステップについて解説します。

インドBIS強制認証とは——QCOが773品目に拡大した実態

JISマーク・PSEマークに相当するBIS認証の仕組み

まず、BIS強制認証とは何かというところから整理します。

BISとはBureau of Indian Standards(インド標準規格局)のことで、日本でいうとJISマーク、あるいはPSEマークに相当するものです。インド政府が品目ごとに「品質管理令(QCO)」という命令を出し、その対象となった製品はBIS認証を取得しなければインドへの輸入・国内販売ができないという制度です。

2014年比7倍——対象品目はなぜここまで広がったのか

2025年10月時点で対象品目数は773品目にまで広がっています。2014年と比べると7倍以上に膨れ上がっており、インド政府は年々対象品目を増やし続けてきました。具体的には、電気機器・家電・照明・鉄鋼製品・化学品・玩具・自動車部品・建材、さらに直近では工業用のねじやボルト・ナットといった素材・部材にまで対象が広がっています。電動工具・モーター・変圧器・スイッチギアといった電機系製品はほぼすべて対象となっており、鉄鋼関連も基本的に対象です。

日本では認証制度が比較的限定的に運用されることが一般的ですが、インドでは毎年複数の品目が次々と対象に追加されています。「今は関係ない」と思っていた企業が、翌年あるいは2年後には突然対象になるというリスクが常に潜在しています。

実際、弊社クライアント企業では2024年にねじ・ボルト類がQCO対象となり、「今まで使っていた仕入れ先の部品がいきなり使えなくなった」という状況が発生し、現場が大きく混乱しました。対岸の火事と思っていても、突然自社に飛び火する類の問題です。

通関差し止めと数千万円損害——「大丈夫なはず」が招くリスク

BIS認証が必要かどうかを確実に確認するには、経験豊富な専門コンサルタントに依頼しなければ判別が難しいという実務上の課題があります。「大丈夫なはず」という判断のままBIS認証を取得せずにインドへ製品を輸入しようとして、通関時に税関で差し止めになった事例も実際に起きています。船積み後に「認証がないから受け取れません」となった場合、返送か廃棄かという状況に追い込まれ、数百万〜数千万円の損害となる可能性もあります。決して軽視できない問題です。

スキームX廃止でも安心できない——対象品目拡大の構造的背景

インドの対中貿易赤字942億ドルとQCO規制の深い関係

「延期になったから大丈夫」「廃止になったから大丈夫」と考えている方に、ぜひ理解していただきたい背景があります。BIS強制認証制度がこれほど急速に拡大してきたのは、インド政府の明確な政策的意図があるためです。その中心にあるのが、対中貿易赤字の削減です。

インドの対中貿易赤字は2024年に942億ドルに達し、2020年の397億ドルから4年間で約2.4倍に膨れ上がっています。日本円に換算すると、1年間で14兆円以上の赤字が中国との貿易で生じている計算です。インド政府として政治的にも経済的にも放置できない水準です。

インドはこのQCO制度を活用することで、実質的に中国製品のインド市場への流入を抑えようとしているとみられています。中国メーカーがBIS認証を取得することは実質的に困難な状況があるようで、ある種の非関税障壁として機能しているとも指摘されています。(※この点については、インド政府は公式には差別的扱いを否定しており、見解が分かれる部分があります)

いずれにしても、対中赤字が拡大し続けている以上、インド政府がQCO対象品目を増やす動機がなくなることはありません。2025年後半に一部のQCOが延期・取り消しとなったのは、印中関係が一時的に改善したという政治的背景もあるようですが、それは一時的な変化であり、長期的なトレンドとしては対象品目が増え続けると見ておくほうが賢明です。

USTR外国貿易障壁報告書がインドBIS規制を名指し批判

2026年4月、アメリカのUSTR(米国通商代表部)が発表した「外国貿易障壁報告書」の中で、インドのBIS規制が「輸出障壁」と名指しで批判されています。アメリカが正式に問題視しているという事実は、この規制が実態として強く機能していることを示しています。日本企業にとっても同様の問題が生じており、日本政府が今後インドとの通商協議でこの問題を取り上げる可能性はありますが、短期的に解消する見通しは立っていません。

BIS認証取得まで1年〜1年半——時間との闘いを理解する

担当者割り当てから工場監査まで——プロセスと所要期間の内訳

理解していただきたいのが、BIS認証の取得にどれほどの時間がかかるかという問題です。専門コンサルタントによると、1年から1年半は見ておく必要があるとのことです。内訳を整理すると以下のとおりです。

  • BIS当局の担当者が決まるまで:3〜6ヶ月
  • 工場監査の日程調整:1ヶ月
  • 日本国内での工場監査の実務:3〜6ヶ月
  • 監査報告書の作成:数ヶ月

これらを合計すると、最短でも1年から1年半近くかかります。日本では行政の認証・審査に明確な期限が設けられることが一般的ですが、インドのBIS認証は担当者の割り当てだけで3〜6ヶ月かかるというのが実情であり、この感覚の違いが日本企業には理解しにくいところです。

スキームX即時廃止(S.O. 239(E))の意味と再規制リスク

急に期限が設定されて今から対応を始めたとしても、実務上間に合わない可能性が高いということです。スキームXとは機械・設備向けのBIS規制で、2026年1月14日付けの官報(S.O. 239(E))により、その根拠となっていた2024年の告示(S.O. 3649(E)、OTR Order 2024)が「即時廃止」されました。2026年9月1日という施行期限は現時点でいったん消滅しており、スキームX固有の申請義務は一旦ストップしている状況です。しかし、これまでの経緯を見ると、政府が再び同様の規制を出してくる可能性は十分にあります。

今回の即時廃止を受けて「しばらく様子を見よう」という企業は少なくないと思いますが、突然半年後からBIS認証が必要となった場合、実務上間に合わないという事態が十分に起こり得ます。

中小製造業の工場監査対応——社内リソース確保の現実

さらに厄介なのが「工場監査」という工程です。BIS認証を取得するためには、インドのBIS審査員が実際に日本の製造工場を訪問して確認するプロセスがあります。BIS審査員をインドから招聘するための調整、日本側の製造部門・品質管理部門との調整、英語での対応準備など、これだけでも相当な社内リソースが必要となります。特に中小の製造業では、この工場監査対応のためだけに専任担当者を置けるかどうかが問われるほどの作業量です。万が一の事態を想定して「早めに動き始める」ことが重要な理由はここにあります。

今すぐやるべき3つのステップ——BIS対応の実務アクション

では、具体的に今何をすべきか、3つのステップで解説します。

ステップ①:HSコードでQCO対象状況を今すぐ確認する

まず最初にやるべきことは、自社が扱っている製品・部品のHSコードを洗い出して、現在QCO対象となっている製品がないかどうかを再確認することです。これが出発点です。ただし、HSコードの解釈によって対象となるかどうかが変わるグレーゾーンの品目も多いため、確認は必ずインドのBIS専門コンサルタントに依頼されることをお勧めします。

ステップ②:対象品目が確定したら即時申請を開始する

対象品目が確認できたら、将来インドへの輸入可能性がある品目については一刻も早く申請を開始する必要があります。スキームXについては2026年1月の官報で根拠令が廃止されており、機械・設備向けのBIS強制認証の取得義務はいったん消えています。ただし、スキームI・スキームII対象の個別品目は引き続き有効であり、新たな規制告示がいつ出てもおかしくない状況です。製造・機械系の企業は「スキームXは一段落した」と安心するのではなく、常に新しい告示をウォッチし続ける体制を構築しておく必要があります。

ステップ③:ナショナルスタッフとBIS当局との関係構築

自社のインド人従業員とBIS当局との関係構築を始めることをお勧めします。これはすでにインドに現地法人がある企業向けの話となりますが、BIS当局の担当官との直接的な関係を築けている企業は実務上有利であるという実情があります。QCOの解釈が不明確なケース——すなわち自社製品・部品がBIS強制認証の対象となるかどうかの判断——については、当局に直接確認できるパイプラインを持っておくことで、書面では得られないグレーゾーンの判断が得られるケースが少なくありません。「担当官個人との関係性が先、書面による手続きは後」というのは、インドでものごとをうまく進めていく上での基本的な考え方です。

日本商工会のBIS専門部会など同業他社との情報共有も非常に重要です。BIS当局との関係構築と並行して、情報収集ができる体制を構築してください。

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