インド居住者からの物品購入時における源泉徴収税の適用(194Q条)に関して
2021年財政法及びCentral Board of Direct Taxesより、2021年7月1日より、1961年インド所得税法の第194Q条を新たに導入することとなりました。
本法を踏まえて今後、購入者がインド居住者である売り手に物品の購入のために金額を支払う場合、一定の条件を満たす購入者(※)は500万ルピーを超える金額に対して0.1%の税金を控除/源泉徴収する必要があり、インド居住者である売り手へ支払いの時点で、TDSを控除し、通常の源泉徴収税同様、期限までに納税する必要があります。
※「一定の条件を満たす購入者」とは、商品購入が行われた会計年度の直前の会計年度において、事業からの総売上高または総収入、または売上高が1億インドルピー(約1億5,000万円)を超える者と定義されています。
194Q条に基づくTDS(源泉徴収税)適用のトリガーとなる合計額の計算は、500万ルピーという適用基準が前年度に関するものであることから、2021年4月1日から計算されることになります。
したがって、購入者が上記条件を満たし、かつ、売り手に対して2021年6月30日までに500万ルピー以上の支払いをすでに行っている場合、2021年7月1日以降の2021年度における当該売り手への全ての支払いに対して、194Qに基づくTDSの規定が適用されることになります。また、適用基準の計算にはGSTは原則含めないものとされています。
ガイドラインに基づくシナリオ別の対応方法
シナリオ①:購入の返品時
販売者から返品されて購入代金の返金が発生した場合、返品に伴うTDSは、同じ販売者に対する次回の購入時に調整することができます。
一方で、返品された商品が販売者によって商品をもって交換された場合には、このような税金の調整は必要ありません。
シナリオ②:インド非居住者が居住者から購入する場合(例:日本の本社がインドのベンダーから購入)
インド非居住者が売主(インド居住者)から物品を購入する場合、当該非居住者がインドにおけるPE(恒久的施設)に該当しない場合には、194Q条の規定は適用されません。
そのため、国際取引には適用されず、原則インド国内での取引のみに194Q条が適用される形となります。
シナリオ:③前払金への適用
また、194Q条の規定は、購入者が売り手に支払う前払金にも同様に適用されることとなります。
シナリオ④:会社設立年の購入者に対する適用
購入者は、商品の購入が行われる会計年度の直前の会計年度において、自らが行う事業からの総売上高、総収入、または売上高が1億ルピーを超えている場合に当該規定が適用されることとなります。つまり、設立年度にはこの条件が満たされていないため、194Qの規定は設立年度には適用されません。
194Q条(買い手が行う源泉徴収)と206C(1H)条(TCS)の相互作用と適用性について
以前の記事でも紹介しましたが、インドにはTCS (Tax Collected at Source)と呼ばれる源泉税があります。
これは、特定の物品の売り手が顧客から請求代金を受領する際に、一定の割合を源泉所得税として追加徴収して納税を行う直接税の一種となり、これを規定しているのが206C(1H)条となります。
ある取引が194Q条と206C(1H)条の両方に該当する場合、税金は194Q条に基づいて控除される必要があります。
つまり、購入者がその取引について税金を控除した場合、TCSの適用範囲外となります。したがって、売り手は、同じ取引について、206C(1H)項に基づいてTCS税金を徴収する必要はありません。
しかし、何らかの理由で、購入者が取引について194Q項に基づいてTDSを控除する前に、売り手が206C(1H)項に基づいて税金を徴収した場合、その当該取引は買い手によって再び税金を控除されることはありません。
これは、194Q条と206C(1H)条では、控除と徴収の税率が同じであることから、このような優遇措置が設けられています。
194Q条と206C(1H)条の相互関係フローチャート
おわりに
以上を踏まえて、今後はインド国内取引において、194Q条に基づくTDSの控除と206C(1H)条に基づくTCSの徴収等、税務コンプライアンス要件が追加されたため、当該規定に抵触するかどうか、確認を進め、適切な対応を行っていくことが求められる形となります。
本件に関する詳細のガイドライン(原文)は以下をご確認ください。
インド所得税法第194Q条ガイドライン:https://www.incometaxindia.gov.in/communications/circular/circular_13_2021.pdf