Vol.010 : TCSって何?インド特有の税制TCSの概要
1. インド特有の税制TCSについて
インドの経理担当者以外にはあまり馴染みのない話かもしれませんが、インドにはTCS (Tax Collected at Source)と呼ばれる源泉税があります。これは、特定の物品の売り手が顧客から請求代金を受領する際に、一定の割合を源泉所得税として追加徴収(collect)して納税を行う直接税の一種です。納税方法は間接税のGST(Goods and Service Tax:物品・サービス税) と同様に、物品の売り手が買い手から徴収し、税務当局へ申告・納税が行われます。
(※TCSおよびTDSの仕組みをわかりやすくご説明するために便宜上税額の計算を簡略化しており、実際の税額計算とは異なる点についてご留意ください)
TCSに似た源泉税としてTDS(Tax Deducted at Source)があります。こちらも直接税の一種で、一定のサービス受益者が、ベンダー等への支払の際に一定の割合を源泉所得税として控除(deduct)し売り手に代わって納税を行う仕組みです。あまり違いがないように思えますが、TDSは源泉徴収義務者が買い手(=役務提供対価の支払側)であるのに対し、TCSの場合、源泉徴収義務者が売り手(=商品代金の受取側)である点において異なっています。会計上の実務においては、TCSは物品の売り手が顧客から受領したTCSを負債計上した上で、翌月7日までに顧客の代わりに納税し、一方で、顧客側では売り手に支払った当該TCSの金額を資産計上(前払法人税等)し、期末に未払法人税と相殺することが可能です。
2. 2020年10月以降スタートするTCS税制改正
さて、今回のテーマであるTCSについては、2020年度インド予算案の発表により大きな変更が生じています。つまり、TCSは従来まで酒類やスクラップ、木材、タバコの葉(ボンベイコクタン等)、100万ルピー超の自動車など特定の物品販売にのみ限定されて課税されていましたが、同予算案を反映した2020年財政法(The Finance Act, 2020)第95条では、1961年所得税法第206C条の改正について規定されており、2020年10月1日以降に新たにTCSの徴収対象となる取引範囲の拡大とその税率が明記されました。(※なお、海外送金に対してもTCSが課税されることが発表されております。詳しくは以下リンク先の記事をご覧ください。)
TDSおよびTCS比較表
特に注目すべき点としては、1961年所得税法第206C条1H項において新たに規定された「物品の売買取引にかかるTCS(TCS on Sale of Goods)」が挙げられます。同条項では、前会計年度の年間売上高が1億ルピー(約1億4,000万円)を超える事業体を対象に、当該会計年度の売上高のうち買い手との取引金額が500 万ルピー(約700万円)を超える部分の0.1%が TCS として新たに源泉課税されるとしています。同条項は、2020年10月1日以降に適用が開始され、適用開始日以前の取引への遡及適用はありませんが、PAN (Permanent Account Number:納税者番号)やAadhaar(インド版マイナンバーカード)が未取得の場合には、TCSの適用税率が1%へ増加する点、また、適用開始前の取引であったとしても支払が10月1日以降に行われるものについてもTCSの課税となるため注意が必要です。なお、同条項はインド国外との輸出入にかかる取引については対象外としています。
3. 税務当局からのアップデートが期待される不明瞭なポイント
今回の法改正において新たに導入された「物品の売買取引にかかるTCS」ですが、会計処理において不明瞭な点がいくつか残っています。例えば、税率が適用される500万ルピーを超える金額の算出については、前期において売り上げた売掛金回収分を含めるのか、GSTを含めるのか等、実務上の取り扱いについて正式発表が待たれており、今後も注視していく必要があります。