Vol.0122 インド自動車市場におけるSUV人気の高まりと世界的傾向
インド自動車市場で高まるSUV人気
タイムズ・オブ・インディア紙の10月15日付の記事によると、インドで9月および7-9月期に販売された乗用車の半数以上がSUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル:スポーツ用多目的車)であり、ハッチバック車とセダンの累積台数を上回る販売台数を記録したとの、公式発表がありました。
これはインドの自動車産業史上でも類を見ない事であり、自動車市場の中で価格帯やブランドを問わず広範囲に充実したラインナップを誇るようになったSUVにインドの消費者から熱い視線が集まっていることの表れであると言えます。
SUV人気を後押しするものとは?
2021年9月のインドのSUVの販売台数は87,720台で、ハッチバックとセダンからなる乗用車部門の販売台数64,235台を大きく上回っていました。
業界のロビー団体であるSIAMのデータによると、この傾向は2021-22年の第2四半期にも同様に見られ、SUVの販売台数は367,457台、乗用車の販売台数は3,43,939台であったとのことです。
この状況の要因として、ここ数年、SUVの価格が下落していること(GST税率の低い小型車でもSUVを採用する企業が増えている)と、道路・高速道路網の整備が進んでいることが、地上高が高く、比較的先進的で堅牢なデザインを持つSUVの需要を押し上げていると考えられます。
日産マグナイトやルノー・カイガーなどのミニSUVの価格は60万ルピー以下であり、100万ルピー以下のカテゴリーにはMaruti Brezza、Kia Sonet、Hyundai Venue、Tata Nexonなどの強力なモデルがあります。
100万ルピー以上では、Hyundai Creta、Kia Seltos、Mahindra Thar、MG Hectorなどの人気モデルがあり、その人気はとどまるところを知りません。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、ランドローバー、ランボルギーニやポルシェなどの高級オフロード車の需要も同様に旺盛で、その多くは1,000万ルピーを超える価格で、在庫が不足しているほどです。
小型で低出力のSUVは、四輪駆動、水場を走破する能力、高トルク、トラクションコントロールといった「厳しい悪路でもどこにでも行ける」機能には欠けており、一部の自動車マニア層の評価は低いものの、一般のユーザーはその点はあまり気にしていません。
自動車調査会社JATOのRavi Bhatia氏は、「最も重要なのは、全体をいかにパッケージングするかということです。SUVは、スタイル、視認性、パワー、キャビンの広さなどの面で、最高のコストパフォーマンスを発揮します。道路上での指揮とコントロールを可能にしてくれます」と述べています。
SUV人気の世界的傾向
スズキのインドにおける乗用車生産販売子会社であるMaruti Suzuki社のShashank Srivastava取締役(マーケティング&セールス)は「この傾向はインドだけにとどまらず、多かれ少なかれ世界的な変化です。この傾向は世界全体に及んでおり、事実、中国や米国、中南米や欧州の国々などの市場を見ると、販売台数全体に占めるSUVの割合は45〜50%程度になっています。これに対しインドは後発ながらも、急速に普及してきています」と述べています。
彼はさらに、SUVの価格が下がったことで、SUVがハッチバックやセダンから顧客を奪うようになった状況にあるとし、「現状、SUVはプレミアムハッチバックやプレミアムセダンと価格帯が大きく重なっています。これまでSUVの購入を検討していなかったユーザーも、価格やオプションの面で手が届くようになったため、SUVを検討するようになりました」と述べています。
トレンドに順応するメーカー各社の思惑
自動車メーカー各社はこのトレンドを読み取っており、そのため、新発売のほとんどがSUVカテゴリーとなっています。最近発売されたSUVには、MahindraのTharやXUV700、Skoda Kushaq、VW Taigun、MG Astor、Hyundai Alcazarなどがあり、Audi eTronシリーズやMercedes GLS Maybachなどの高級車もあります。
最近では、Anand Mahindra社が新発売したXUV700が、わずか2回の販売で1,000億ルピーに相当する5万件の予約を獲得したことを、ソーシャルメディアで紹介していました。
Tata Motors社のPunch、Audi社の新世代Q5、Q3、Q7、Citroen社のローカライズ版C3、Tesla社の高級電気自動車Model3、Volvo社のXC40 Rechargeなど、近日発売となる予定のモデルも同様に充実しています。
Mercedes-Benz India社のMD兼CEOであるMartin Schwenk氏によると、自社のSUVにかつてないほどの需要があり、納車待ちリストはさらに長くなっているとのことです。特にGLSモデルの納車待ちは6ヶ月にも及び、高級SUVへの嗜好が高まっていることを裏付けていると言えます。
インドのSUVカテゴリーの販売においてリーダー的存在となっているHyundai社は、SUVは、安全性、快適性、技術、性能など、さまざまな機能を備えた車を求める顧客の欲求を満たすものだとし、細分化されたロックダウンや在宅ワークの傾向が広まる中、顧客はレジャー旅行や社会生活からの逃避で生活の単調さを抜け出したいとも考えており、SUVを所有することへの欲求も高まっていると述べています。
SUV人気の傾向は日本でも見られますが、やはりインドでもそれは当てはまりそうです。世界的な巣ごもり傾向の中、外出する楽しみが表現されたSUVに熱い視線が集まるのは必然と言えるかもしれません。市場の移り変わりを表す事例として大変興味深いものであると言えます。