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Vol.55:Ind AS(インド版IFRS)におけるリースの会計処理

2016年1月に国際会計基準審議会(IASB)より国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」が公表されました。IFRS16号の大きな特徴は、オペレーティングリースも含むすべてのリースについて資産及び負債を計上するというオンバランス処理を行うことです。その後、米国を始め多くの国の会計基準でIFRS16号に準拠したリース会計基準が導入されています。日本でも企業会計基準委員会が2023年5月に「リースに関する会計基準(案)」を公表し、借手のすべてのリースを原則オンバランスする方針が示されました(https://www.asb-j.jp/jp/project/exposure_draft/y2023/2023-0502.html)。

多くの国でIFRS第16号に準拠したリースの会計処理が導入されていますが、インドではリースはどのように処理されるのでしょうか?

本記事では、「Indian GAAP(インド会計基準)」と「Ind AS(インド版IFRS)」におけるリースの会計処理についてご紹介します。前回はIndian GAAPのリース会計処理についてご紹介いたしましたが、今回はInd ASのリース会計処理をご紹介したいと思います。なお、Indian GAAPとInd ASの概要やその違いについては「D-20.インド会計基準とIndAS(インド版IFRS)の動向および主な会計基準差異」の記事(https://g-japan.in/faq/indian-d-20/)をご参照ください。

オペレーティングリースとファイナンスリースの定義

リースにはオペレーティングリースとファイナンスリースの2種類があります。ファイナンスリースは借手が固定資産を実質的に割賦購入する取引であるのに対し、オペレーティングリースは固定資産の賃貸に留まるという違いがあります。Ind ASの定義もIndian GAAPと同じで、Ind AS 116に以下の規定があります。以下のいずれか1つに該当する場合はファイナンスリースとなります。一方、以下のいずれにも該当しない場合はオペレーティングリースとなります。

  1. リース期間終了時に資産の所有権が借手に移転する。
  2. 借手は、オプションを行使可能となる日の公正価値よりも十分に低いと見込まれる価格で資産を購入する権利を有しており、リース開始日において当該オプションが行使されることが合理的に確実であること。
  3. 所有権が移転しない場合でも、リース期間が資産の経済的耐用年数の大部分にわたっていること。
  4. リース開始日において、最低リース料総額の現在価値がリース資産の公正価値の少なくとも実質的に全額に相当すること。
  5. リース資産が、大きな変更を加えることなく借手のみが使用できるような特殊な性質のものであること。

 

借手の会計処理(オペレーティングリースとファイナンスリース共通)

Ind ASでは、たとえオペレーティングリースでも借手はリース契約をオンバランス処理(貸借対照表に資産と負債を計上すること)しなければならず、結果的にファイナンスリースと共通の処理となります。

【リース負債の測定と当初認識】

借手は、リース開始日に、リース期間にわたって支払われる未払リース料総額の現在価値を、リースの計算利子率(implicit rate)で割り引いた金額でリース負債を認識します。

【使用権資産の測定と当初認識】

借手は、リース開始日に使用権資産(ROU : Right-of-use asset)を認識します。使用権資産は以下の通り計算されます。

使用権資産=リース負債 + リース開始日以前に払ったリース料 + 資産除去債務 – リースインセンティブ + 初期直接コスト(弁護士費用、書類作成費用など)

<具体的なケース事例>

  • 公正価値Rs.910,000、耐用年数7年の機械設備を10年間リースする。
  • 貸手へ支払うリース料は毎年Rs.120,000とする。
  • 利子率は10%、借手の初期直接コストはRs.12,652とする。
年度 支払リース料 利率10%の現在価値係数※ 現在価値
120,000 0.91 109,091
120,000 0.83 99,174
120,000 0.75 90,158
120,000 0.68 81,962
120,000 0.62 74,511
120,000 0.56 67,737
120,000 0.51 61,579
120,000 0.47 55,981
120,000 0.42 50,892
10 120,000 0.39 46,265
    リース負債合計額 737,348

 

※現在価値係数とは、ある金利(複利)のもとでの、将来の一定時点の1ルピーの現在の価値(金額)を表します。

上記のケースの場合、リース負債として計上すべき金額はRs.737,348となります。

また、使用権資産は、リース負債 + 初期直接コスト=Rs.737,348 + Rs.12,652= Rs.750,000となります。

【リース開始時の仕訳】

借方 貸方
使用権資産 ROU Rs.750,000 リース負債 Lease liability Rs.737,348
  預金 Bank Rs. 12,652

【リース期間中の処理】

リース開始日に認識したリース負債は、リース料支払時に利息法(実効金利法)で随時取り崩します。具体的には、前期末のリース負債残高に利率を掛けた金額を財務費用(Finance Charge)として計上し、実際支払額と財務費用との差額がリース負債の取り崩し額となります。

使用権資産はリース期間に渡って定額法で償却します。

上記の例の場合、毎年の償却額はRs.750,000/10年=Rs.75,000となります。

【リース期間中の仕訳】

<1年目期末>

1年目の利息(財務費用 Finance Charge)は、リース負債残高×利率すなわちRs.737,348*10%=Rs.73,735

リース負債取崩額はRs.120,000-Rs.73,735=Rs.46,265

借方 貸方
財務費用 Finance Charge Rs.73,735 預金 Bank Rs.120,000
リース負債 Lease liability Rs.46,265  
減価償却 Depreciation Rs.75,000 減価償却累計額 AD※  Rs.75,000

※A.D. Accumulated Depreciation

1年目期末のリース負債の残高:Rs.737,348 – Rs.46,265 =Rs.691,083

1年目期末の使用権資産の残高:Rs.750,000 – Rs.75,000 =Rs.675,000

<2年目期末>

2年目の利息(財務費用 Finance Charge)は、リース負債残高×利率すなわちRs. 691,083*10%=Rs.69,108

リース負債取崩額はRs.120,000-Rs.69,108=Rs.50,892

借方 貸方
財務費用 Finance Charge Rs.69,108 預金 Bank Rs.120,000
リース負債 Lease liability Rs.50,892  
減価償却 Depreciation Rs. 75,000 使用権資産 ROU  Rs. 75,000

1年目期末のリース負債の残高:Rs. 691,083 – Rs.50,892 =Rs.640,191

1年目期末の使用権資産の残高:Rs. 675,000 – Rs.75,000 =Rs.600,000

3年目以降の仕訳も同様になります。リース開始から終了までのリース負債の残高推移は以下の通りです。

年度 期首残高

A

財務費用

B=A×10%

取崩額

C=120,000-B

期末残高

D=A-C

1 737,348 73,735 46,265 691,083
2 691,083 69,108 50,892 640,191
3 640,191 64,019 55,981 584,210
4 584,210 58,421 61,579 522,631
5 522,631 52,263 67,737 454,894
6 454,894 45,489 74,511 380,384
7 380,384 38,038 81,962 298,422
8 298,422 29,842 90,158 208,264
9 208,264 20,826 99,174 109,091
10 109,091 10,909 109,091 0

 

貸手の会計処理(オペレーティングリース) 

貸手の会計処理はオペレーティングリースとファイナンスリースで異なります。まずはオペレーティングリースの処理からご説明します。オペレーティングリースでは資産が貸手に残るため、資産の減価償却費を計上し、リース料を定額法で計上します。但し、原資産の使用から得られると予想される便益のパターンをよりよく表す他の体系的かつ合理的な基準がある場合には、定額法ではない当該基準で計上します。

<具体的なケース事例>

  • 公正価値Rs.910,000、耐用年数7年の機械設備を10年間リースする。
  • 借手から受け取るリース料は毎年Rs.120,000とする。
  • 利子率は10%とする。

借手の仕訳で取り上げた上記の例の場合、貸手の仕訳は以下の通りとなります。

【リース開始時の仕訳】

特になし

【リース期間中の仕訳】

借方 貸方
預金 Bank Rs.120,000 リース収入 Lease rent income Rs.120,000
減価償却 Depreciation Rs.130,000 減価償却累計額 AD Rs.130,000

 

※減価償却額:Rs.910,000/7年=Rs.130,000/年

貸手の会計処理(ファイナンスリース)

リース開始日において、貸手は、ファイナンスリースにおける資産を貸借対照表に認識し、リース投資純額と同額にて債権として表示しなければなりません。ファイナンスリースの場合の仕訳は以下の通りとなります。

<具体的なケース事>

  • 公正価値Rs.910,000、耐用年数7年の機械設備を10年間リースする。
  • 借手から受け取るリース料は毎年Rs.120,000とする。
  • 利子率は10%とする。
年度 支払リース料 利率10%の現在価値係数※ 現在価値
120,000 0.91 109,091
120,000 0.83 99,174
120,000 0.75 90,158
120,000 0.68 81,962
120,000 0.62 74,511
120,000 0.56 67,737
120,000 0.51 61,579
120,000 0.47 55,981
120,000 0.42 50,892
10 120,000 0.39 46,265
    リース債権合計額 737,348

【リース対象資産購入時の仕訳】

借方 貸方
固定資産 Fixed Asset Rs.800,000 預金 Bank Rs.800,000

 【リース開始時の仕訳】

借方 貸方
リース債権 Lease Receivable Rs.737,348 固定資産 Fixed Asset Rs.800,000
損失 Rs.62,652  

【リース期間中の仕訳】

借手がリース負債と取り崩すのと同様に、貸手は下記の表に従ってリース債権を取り崩します。リース料の受取額とリース債権の取崩額との差分は財務収益(Finance Income)として認識します。

年度 期首残高

A

財務収益

B=A×10%

取崩額

C=120,000-B

期末残高

D=A-C

1 737,348 73,735 46,265 691,083
2 691,083 69,108 50,892 640,191
3 640,191 64,019 55,981 584,210
4 584,210 58,421 61,579 522,631
5 522,631 52,263 67,737 454,894
6 454,894 45,489 74,511 380,384
7 380,384 38,038 81,962 298,422
8 298,422 29,842 90,158 208,264
9 208,264 20,826 99,174 109,091
10 109,091 10,909 109,091 0

 

<1年目期末>

借方 貸方
預金 Bank Rs.120,000 リース債権Lease Receivable Rs.46,265
  財務収益 Finance Income Rs.73,735

 

<2年目期末>

借方 貸方
預金 Bank Rs.120,000 リース債権Lease Receivable Rs.50,892
  財務収益 Finance Income Rs.69,108

 

3年目以降も同様となります。

 

IFRSInd AS(インド版IFRS)とのリース会計処理の差異

Ind ASではファイナンスリースとオペレーティングリースを分ける基準として、Indian GAAPと共通の5つの基準を設けていることを上述しました。IFRSでは、「原資産の所有に伴うリスクと経済価値のほとんどすべてが、リースを通じて貸手から移転する場合、貸手はこれをファイナンスリースとして会計処理する。それ以外のリースについては、オペレーティングリースとして会計処理する」とのみ規定され、具体的な基準を設けていません。この点を除き、Ind ASのリース会計処理はIFRSと基本的の同じ会計処理を行うこととなります。

               

執筆者紹介About the writter

田中 啓介 | Keisuke Tanaka
京都工芸繊維大学工芸学部卒業。米国公認会計士。税理士法人において中小企業の税務顧問として会計・税務・社会保険等アドバイザリーに約4年半従事、米国ナスダック上場企業において国際税務やERPシステムを活用した経理部門シェアード・サービス導入プロジェクトを約3年経験後、30歳を機に海外勤務を志し、2012年から南インドのチェンナイに移住。2014年10月に会計士仲間とともに当社を共同設立。これまで200社超の在印日系企業や新規進出企業向けに市場調査から会社設立支援、会計・税務・人事労務・法務にかかるバックオフィスアウトソーシングおよびアドバイザリー業務を提供。また、インド人材のリモート活用にかかる方法論および安心・安全なスキームの導入支援を積極的に行っている。