【2024年最新】日本企業に関わる税務訴訟事例の紹介
本記事では、2024年に判決が下された会計税務の重要判例をご紹介します。
判例1 Form 10CCBの添付書類の強制性に関する税務訴訟事例
項目 | 内容 |
判例番号 | W.P. (C) NOS. 8972 & 8980 OF 2019 |
裁判所 | デリー高等裁判所(High court of Delhi) |
納税者名 | Shree Bhavani Power Projects (P) Ltd |
納税者属性 | 非居住の外国法人 |
判決日 | 2024年8月14日 |
判決結果 | 納税者勝訴 |
【経緯】
- 納税者は、所得税法(Income Tax Act)第80-IA条(4)(iv)(a)に基づく所得控除(※)の適用を受ける前提で所得申告書を提出し、税務当局の担当官はこれを承認した。ところが、税務当局は、担当官の承認が誤りであったとし、1962 年所得税規則第 12 条(2)に規定されている電子的な監査報告書の提出を怠ったとして、2013-14 年および 2014-15 年度の評価年度(Assessment Year)について、納税者に対して所得税法第 148 条に基づく通知を発行した。
- 納税者は、税務当局による税務調査完了前の2016年2月12日に事後的に監査報告書を提出した。
※第80-IA条はインド国内企業がインド国内においてインフラストラクチャーの生産、運用、保守に従事し、かつ中央電力規制員会(Central Electricity Regulatory Commission)および通信規制当局(Telecom Regulatory Authority)に登録している企業に対し、事業を開始した年から 20 年間のうち連続 10 年間の当該事業から生じる利益の100%の金額を所得控除として認めるものです。
【税務当局の主張】
・通達18BBB に基づく所定のForm 10CCB の提出時に正式に署名された監査報告書が申告書と共に添付されておらず、控除を請求するための条件が満たされていなかったため、所得税法第80-IA条(4)(iv)(a)に基づく控除を認めた担当官の行為は誤りであり、税務当局の利益を害するものであった。
【納税者の主張】
・グジャラート高等裁判所の判決([1993] 201 ITR 325 (Gujarat))では、本訴で争点となっている所得税法第80-IA条(7)の文言と類似した所得税法第80J条(6A)について議論されたが、その判決に基づけば、監査報告書の申告書への添付は強制的なものではなく、単なる参考資料であると判断が下されていた。
・再調査(Reassessment)は、課税対象となる所得の申告に誤りがあったという評価に基づかなければならない。Form 10CCBの提出が遅れたというだけでは、この基本的な条件は明らかに満たされない。
【判決】
・過去の判例において最高裁判所は、Form 10CCBによる監査報告書の提出を明確に解釈する一方で、監査報告書が申告書とともに提出されず、査定が完了する前のタイミングで事後的に提出された場合であっても、控除を請求する権利があるとする様々な高等裁判所の一貫した立場を承認している。
・たとえForm 10CCBが所得申告書とともに提出されなかったとしても、それが税務調査の手続き中に提出され、その最終決定が下される前に提出されたのであれば、それは十分な適法性を有すると考えられる。
【ポイント】
所得税申告書に監査報告書を添付するよう求めている所得税法の条項について、税務当局は強制であると主張しましたが、裁判所は任意であり、税務当局の調査が完了するまでに提出すれば良いと判決を下しました。この論点については過去にも同様の判決が多数下されていたことが、今回の判決から分かります。
しかしながら、今後も税務当局から同じ論点で指摘を受ける可能性はあり、当局への対応に労力を割かざるを得なくなる可能性があるため、いずれにしても手続きおよび添付書類には漏れがないよう実施しておくことが重要です。
判例2 過剰在庫に関するGST調査に関する税務訴訟事例
項目 | 内容 |
判例番号 | WRIT TAX NO. 1278 OF 2024 |
裁判所 | アラーハーバード高等裁判所(High court of Allahabad) |
納税者名 | Vijay Trading Company |
納税者属性 | インド国内法人 |
判決日 | 2024年8月20日 |
判決結果 | 納税者勝訴 |
【経緯】
- 納税者は、ハードウェア製品の製造・販売に従事している。
- 納税者は、税務当局による調査完了前の2016年2月12日に手動で監査報告書を提出した。2022年5月11日、GST法第67条に基づく税務調査が納税者の事業所において実施された。
- 目測に基づいて在庫が評価された結果、過剰在庫が発見されたため、GST法第130条に基づく処分手続きが納税者に対して実施された。
【納税者の主張】
・税務調査時点では商品の供給が完了しておらず、GSTの納税義務は発生していないため、GST 法第 130 条に基づく手続きは不適切である。
【判決】
・仮に商品が記録されている商品より過剰であったと仮定しても、納税義務は供給時点で発生し、それ以前のいかなる時点でも発生しないという単純な理由から、申立人に対するケースは130条1項(ii)には該当しない。
【ポイント】
・CGST法130条1項(ii)の条文は以下の通りです。
第130条 物品または運搬物の没収および罰金の賦課
以下に該当する商品または運搬物はすべて没収の対象となり、その者は第122条の罰則を受ける。
(ii) 本法に基づき納税義務を負う商品の税務処理を行わない場合。
CGST法130条1項(ii)では、納税者が納税義務を負う商品を適切に申告しなかった場合には罰則が発生する旨が規定されており、税務当局は当該規定に基づいて納税者に対して処分を下しました。
しかしながら本ケースにおいては、課税期間において対象商品は供給されておらず、納税者の社内に在庫として積みあがっている状況でした。そもそもGSTの納税義務は商品の供給時点で発生することから、供給前の段階で在庫の申告金額に誤りがあっても税務当局が指摘をする当該罰則の対象とはならないことが示されました。
判例3 広告費用の損金算入可否に関する税務訴訟事例
項目 | 内容 |
判例番号 | ITA No.315 (VIZ.) OF 2023 |
裁判所 | ヴィシャーカパトナム税務高等裁判所 Vishakapatnam ITAT (Income Tax Appellate Tribunal) |
納税者名 | Chalasani Hospitals (P.) Ltd. |
納税者属性 | インド国内法人 |
判決日 | 2024年8月12日 |
判決結果 | 税務当局側勝訴 |
【経緯】
- アーンドラ・プラデーシュ州の州都ヴィシャーカパトナムで歯科医院を経営する医療機関である納税者は集患を目的とする広告宣伝費を税務上の損金に算入した。税務当局は、この支出はインド医学評議会(Indian Medical Council)の倫理規則に規定された非倫理的行為に分類されるとして、損金算入を否認した。
【納税者の主張】
・税務当局が作成した差し戻し報告書(Remand Report)において、税務当局は当該広告宣伝費の損金算入可否について議論していなかった。当該広告宣伝費は実際に事業遂行のために発生したものであるため、所得税法第37条(1)により損金算入を認められるべきである。
【税務当局の主張】
・納税者は、支出の性質を正しく立証しておらず、インド医学評議会の倫理規則に違反しているという税務当局の主張に対して反論を提出していない。
【判決】
・インド医学評議会の倫理規則では、医療機関や組織が直接的または間接的に患者を勧誘することを禁止している。納税者の支出は広告と解釈されるため、納税者は倫理規則に違反している。
【ポイント】
経費の損金算入が認められるかどうかの判断は、所得税法第30条から第36条に基づいて注意深く分析する必要があります。ビジネスに関連しない個人的な支出は否認されます。
今回の判例で注目すべき点は、たとえ純粋にビジネスを推進するために発生した支出であっても、当該支出が他の法令やガイドライン等で禁止されている場合には、損金算入が否認される可能性があるということです。
経費支出の際には、当該支出が業界のガイドライン等で禁止されていないかどうかにも注意する必要があります。
執筆者紹介About the writter
京都工芸繊維大学工芸学部卒業。米国公認会計士。税理士法人において中小企業の税務顧問として会計・税務・社会保険等アドバイザリーに約4年半従事、米国ナスダック上場企業において国際税務やERPシステムを活用した経理部門シェアード・サービス導入プロジェクトを約3年経験後、30歳を機に海外勤務を志し、2012年から南インドのチェンナイに移住。2014年10月に会計士仲間とともに当社を共同設立。これまで200社超の在印日系企業や新規進出企業向けに市場調査から会社設立支援、会計・税務・人事労務・法務にかかるバックオフィスアウトソーシングおよびアドバイザリー業務を提供。また、インド人材のリモート活用にかかる方法論および安心・安全なスキームの導入支援を積極的に行っている。