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最新インド税務の注意点

Vol. 009 : インド現地法人の日本人取締役が留意すべき法律上・税務上のポイント

(文責:佐藤賢紀/AsiaWise法律事務所所属、田中啓介/Global Japan AAP Consulting Private Limited)

 

Ⅰ. はじめに

 インド進出中の日系企業の現地法人では、ほとんどの場合において1名以上の日本人取締役が任命されており、なかには、日本人のみで取締役を構成している企業もあります。しかし、新型コロナウイルスの影響から、国際便の欠航や感染が拡大するインドでの安全面に配慮し、日本人駐在員を帰国させた日系企業が少なくありません。

そこで本稿では、まず、インドの法律上の観点から、日本人マネジメントが日本に帰国する場合の注意点についてご説明致します。さらに後半では、税務上の観点から、現地法人の取締役の報酬や従業員給与の実務上の取り扱いや、日本人取締役が帰国した場合の注意点について解説致します。

 

Ⅱ. 法務面からのポイント

 

1. 居住取締役の要件について

(1) インドの会社法上、公開会社(Public Company)及び非公開会社(Private Company)のいずれにおいても、「1名以上の取締役がインドに居住していること」が義務付けられています(以下、当該取締役を「居住取締役」といいます)。居住性の判断基準としては、当該会計年度(4月1日~翌年の3月31日)において、182日以上インド国内に滞在していることが必要であるとされています。

なお、この義務に違反した場合には、会社法上、5~50万ルピーの罰金が課されると規定されています。

(2) この点、昨年度(2019年4月1日~2020年3月31日の期間)に関しては、新型コロナウイルスの影響を考慮し、インド政府から居住性違反の措置を問わない旨の通知が出されました(下記URLの1.ⅷをご参照下さい)。

http://www.mca.gov.in/Ministry/pdf/Circular_25032020.pdf 

これは、2020年3月より国際便が制限されることになった結果、インドに入国できない取締役がいたことを考慮して発出されたものと思われます。

他方で、これまでのところ、今年度(2020年4月1日~2021年3月31日)の取扱いに関しては、インド政府から同旨の通知は出されていません。ただ、現在も国際便が大きく制限された状況が続いているため、今後、昨年度と同様の緩和措置がなされる可能性も十分ありえます。

 

2. Managing Director(MD)の設置及び居住性について

(1) 日系企業の現地法人では、Managing Director(以下、「MD」といいます。)を設置している会社が多く見られます。インドの会社法上、MDの設置は、公開会社では必須、非公開会社では任意とされています。

(2) MDが居住要件を満たす必要があるかに関しては、解釈に争いがあるところです。

MDについては、2013年会社法上、選任に際し別表記載の要件を満たす必要がある旨の規定があり、別表には、選任前12ヶ月間インド国内に居住していることが要件として規定されています。ただし2015 年の同法改正において、会社法本文の規定が非公開会社には適用されない旨の改正がなされているため、非公開会社のMDが上記の居住要件を満たす必要はなくなったとの解釈が可能になりました。

もっとも、同改正には別表に関する言及がないため、非公開会社のMDも依然として居住要件を満たす必要がある、とする議論が残りました。そうした解釈の背景には、MDの職責上、会社の最高責任者としてインド現地において会社を管理監督すべきとする考えがあります。さらに、MDの居住性に関しては、法の趣旨として、選任時のみならず在職期間中も要件を満たす必要があると解釈する、という考えもあります。このような議論を前提にすると、保守的に考えれば、MDは在職期間中もインド国内に年間182日以上滞在することが望ましいといえます。

(3) 他方で、以上のように見解が分かれているところということもあり、非公開会社のMDに居住性が認められないことが直ちに問題となる可能性が高いとはいえないため、現状を踏まえてMDがインドを離れるという判断をすることにも合理性があると考えられます。

その場合には、後述のように、MDや取締役としての職責を全うできるよう、会社の業務の管理監督ができる体制を整えておくことが重要です。

 

3. 日本人マネジメントが不在の場合の対応策

span style=”color: #575656;”>日本人駐在員が現地法人の取締役等を務めている日系企業において、同人が日本に帰国した場合、現地法人の管理をどのように行うかが課題となっています。以下では、弊所に寄せられた相談等を元に、想定されるいくつかの対応策についてご紹介致します。

(1) ビデオ会議を利用した取締役会の開催

2013年会社法上、ビデオ会議システムを通じて取締役会を実施することが認められています。同法上、従前は、財務諸表の承認や取締役会への報告の承認、組織再編に関する事項等については、ビデオ会議システムを利用した取締役会の実施が認められていませんでした。しかしインド政府は、現状を考慮し、2020年6月23日付で、同年9月30日までの間、上述のような対象外とされていた事項も含むすべての事項について、ビデオ会議システムを通じた取締役会の実施を認める旨の改正を行いました。

http://www.mca.gov.in/Ministry/pdf/Rule1_25062020.pdf

日本人マネジメントが日本に帰国している場合には、これを利用して、ビデオ会議システム等を通じた取締役会を実施しておくことをお勧めします。

(2) 追加取締役の選任

また、取締役が日本人のみで構成されているインド現地法人において、現地に取締役が一人もいなくなるという場合には、暫定的にローカルスタッフを追加取締役(Additional Director)として選任するという対応も考えられます。

この追加取締役は、株主総会によらず、取締役会のみで選任することができ、他の取締役と同様の権限を持つものとされています。ただし、その任期は次回の通常株主総会までとされていますので、選任に際しては、通常株主総会の実施時期に注意する必要があります。

(3) 内部通報窓口の活用

インド現地法人では、従前から、外部業者からのキックバックや経費の水増し請求、親族等の会社との利益相反取引など、従業員による不正事件が多く見られてきました。今後、日本人の管理職やマネジメントが不在となれば、不正事件がさらに増えることも予測されます。

これを抑止するための一つの方法としては、内部通報窓口の活用が考えられます。近年、世界的に見ても、内部通報窓口への通報が不正事件発覚の端緒となることが増えてきています。既にグループ全体で通報窓口を設置している会社や、インド現地法人専用の通報窓口を準備している会社もありますが、インドにおいて、これを有効に活用できている会社は少ないように思われます。社員への周知、通報者の安全確保、通報内容の秘密管理を徹底することなどにより、内部通報窓口をより活用していくことをお勧めします。

(4) 外部業者による職場環境のチェック

さらに、工場やオフィスにおけるSOP(Standard Operation Procedure)の遵守状況やセキュリティ上の安全確認について、定期的に外部の調査会社等の確認・報告を受けるという方法もあります。もちろん、数多の外部業者が存在するため、従業員との癒着や虚偽の報告等が無いよう、信頼できる業者を選定することが重要です。

その他にも、監視カメラや社内システムを通じた従業員の管理監督も考えられます。その際には、従業員個人のプライバシーへの配慮や、取得した個人に関するデータをインド国内・国外のいずれで管理するかといった点にも注意が必要です。

 

 

Ⅲ. 税務面からのポイント

 

1. 新型コロナウイルスの影響に基づくOECDガイドラインについて

2020年4月3日、OECDは、今回のコロナ禍に端を発する混乱を避けるため「OECD Secretarial Analysis of tax treaties and the impact of the COVID-19 crisis」を公表し、「新型コロナウイルスによる例外的かつ一時的な変更にともない、居住性やPE(恒久的施設)の観点からの税務上の影響があってはならない」とする見解を示しています。つまり、新型コロナウイルスの影響により日本へ一時帰国し、その後インドへの渡航ができない状況下であっても、税務上の居住ステータスには影響を与えないものとみなされる可能性があります。ただ、2020年8月末現在において、インド及び日本国政府は、当該ガイドラインに則った現在進行課税年度における正式かつ明確なガイダンスを未だ公表しておらず、議論の余地が残されている点には留意が必要です。

 

2. インド現地法人における源泉所得税について

日本人駐在員は、現地法人との雇用関係に基づく雇用ビザを取得してインドに赴任しているケースが一般的です。したがって、当該雇用関係が継続している限りにおいて、当該駐在員が一時帰国をしていたとしても、インド現地法人の業務をリモートで遂行しているものと理解されると思われます。つまり、当該業務の対価として得る給与に関しては、その給与の支払場所を問わず、インド国内を源泉とする所得として認識される可能性が高く、インド現地法人は引き続き当該駐在員のインド国内源泉所得に対する源泉所得税の納税義務を負うこととなります。

なお、一定の税務リスクを認識の上で、当該一時帰国中については現地法人で支払われている給与のみをインドにおける課税所得と整理をする(つまり、日本からリモートでインド現地法人の業務を遂行しているのはインドで支払われている給与に相当する部分のみであると整理をする)ことは理屈上可能ではありますが、一方で、当該駐在員が取得をしている雇用ビザの取得条件たる最低給与基準(年間1,625,000インドルピー)については引き続き満たす必要があり、ビザの更新時に必要となる個人の確定申告書類において当該金額を超えていることを証明する必要があるため、この点については留意が必要です。

 

3. インドと日本で支払われる給与における二重課税について

日本に一時帰国中の駐在員については、インド現地法人だけでなく日本本社からも給与を得ているケースが一般的です。この場合、当該駐在員が日本で勤務をし、かつ、日本本社により支払われる給与については、日本国税法に基づく「非居住者等に対する国内源泉所得の支払」として日本本社が20.42%の源泉徴収義務を負います。

さらに、一時帰国が長期化し、日本での滞在期間が183日を超える場合には、日印租税条約第15条に規定される短期滞在者免除(※)の適用ができなくなるため、インド現地法人により支払われている給与についても日本で課税対象となります。したがって、日本においてもインドと日本で支払われている給与総額に対して課税されることとなり、日本で確定申告をすることにより追加納税をする必要があるものと考えられます。そして当該理解に基づき発生するインドと日本の二カ国間における二重課税については、規定上は日印租税条約をもとに外国税額控除(FTC : Foreign Tax Credit)を適用することで回避可能と理解することができます。

他方で、当該外国税額控除については、各国の「税務上の居住者」に与えられる権利であることから、新型コロナウイルスの影響によりインドと日本の両国においていずれも「非居住者」となる可能性がある納税者については、上述のOECDガイドラインの見解を踏まえ、かつ、両国の税務当局からの居住性に対する正式見解を待つ必要があります。

 

短期滞在者免除の概要

以下3つの条件をすべて満たす場合に、日本での納税義務が免除されます。(日印租税条約のもと、両国において適用される規定であるため日本とインドを適宜読み替えることが可能)

1、日本の課税期間における滞在日数が合計183日を超えないこと

2、報酬がインド現地法人により負担されるものであること

3、報酬が、インド現地法人の日本国内に有するPEにより負担されないこと

 

4. 駐在員の所属変更にともなう税務論点について

なお、2020年8月末時点において、個人所得税における当該二重課税を排除するための最も明確な方法としては、日本人駐在員の所属を日本本社に変更する、という選択肢が考えられます。この場合、駐在員が正式に本帰任をするケースと手続き上は類似するものの、当該駐在員が日本本社の所属でありながらインド現地法人の業務を引き続きリモートで遂行するという点において大きく異なります。したがって、日本本社の従業員たる当該(元)駐在員が提供する役務については、日本国税務における寄附金課税の観点から、日本本社がインド現地法人に対してその対価を請求することを検討する必要があり、また、その請求対価の妥当性において移転価格税制における独立企業間価格の検討が必要となります。この場合、当該役務提供にかかる諸々の事項の明確化およびその税務対策としての文書化という意味において、日本本社とインド現地法人との間で業務委託契約などを締結することが望ましいといえます。

 

Vol.004 : 一時帰国中のインド駐在員の日本滞在長期化がもたらす驚愕の税務インパクトとは?