Vol.016 :過去の配当分配税に租税条約が適用される!?
配当分配税に租税条約が適用される?
2020年10月11日、「配当分配税(DDT:Dividend Distribution Tax)」の適用税率を巡って争われていた外国法人子会社の税務裁判において、インド子会社から外国法人株主へ支払われる配当金には、二国間租税条約上の配当にかかる所得税率が適用されるとした判決が、デリー税務裁判所(ITAT: Income Tax Appellate Tribunal)で下されました。
ドイツ企業に対するデリー税務裁判所の判決
今回の訴訟案件はドイツ法人のインド子会社が過年度の配当分配税支払いに租税条約を適用した還付金を巡って争ったケースです。
配当分配税が2020年4月1日から廃止となったのは記憶に新しいかと思いますが、過去に子会社が非居住者の株主へ支払った配当分配税について、租税条約が適用されるかどうか明確に示された判例はこれまでになかったという点で、今回の判決は画期的であり、同様の係争案件を抱える外国企業にとっては歓迎すべきニュースであると言えます。
配当分配税にかかるこれまでの課題
今年度のインド予算案において廃止されるまで、配当分配税は大きな税負担として外国企業のインド子会社にとって悩みの種となっていました。
そもそも各国における配当所得への課税扱いは、一般的に株主側への源泉課税とされており、外国子会社が進出している国から本国の親会社等に配当を支払う場合は各国間の租税条約に基づいて源泉課税が行われます。
一方インドでは、配当金支払いにかかるインド子会社側への課税として扱われており、支払われる配当金のうち実効税率20%超の配当分配税を、税引後利益からさらに納税することが要求されていました。
また、配当分配税は子会社の法人税申告において外国税額控除の対象とならないと考えられていたことから、インドに進出した外国企業の税負担を重くする要因となっていました。(ちなみに、日本では外国子会社配当益金不算入制度により、一定要件のもと、受取配当の95%相当額を益金不算入とすることが可能)。
デリー税務裁判所の判決による今後の影響
今回の判決では、配当分配税は事実上、非居住者の配当所得に対する所得税であり、租税条約が適用されるという点が明確に示されました。
また、過去にデリー高裁で下された同様の判例を引用したうえで、1996年に発効されたインド-ドイツ租税条約は、配当分配税が導入された1997年に先んじて締結されたことから、国内法の改正条項が租税条約の改正なしに優先して遡及的に適用されないとの見方も示されています。上記の判決は、配当分配税導入後(1997年以降)の租税条約にかかる適用可否については不明点が残るものの、外国企業の親会社の配当所得への課税として配当分配税に租税条約上の軽減税率が適用される初めての判例となりました。
同様の訴訟案件のみならず、日印租税条約の原契約が発効されたのも1989年であり、これまで配当所得を受け取った日本企業に対しても影響を与える可能性があるため、今後は日本企業を含む各国の外国企業の動きが注目されます。