2021年インド予算案によりさらに強化された「デジタル課税」
2016年からインドでは、Equalization Levy(以下、”平衡税”という)というデジタル・ビジネスへの税制度を導入しており、外国企業が稼得するインドでのオンライン広告収益やe-コマース事業の取引仲介収益に対して課税を行っています。
しかしながら平衡税には、法人所得税との二重課税が指摘されるなど課税関係について不明瞭な点も多く、更なる解釈の明確化が望まれていました。2021年2月に発表されたインド政府予算案ではそうした不明瞭な点に関する指針が示されたため、今回は平衡税に関する法改正の要点について詳しく解説したいと思います。
前回の平衡税に関する記事:インドが推進するデジタル課税論争の行方はいかに?
インド所得税法の改正点
2021年2月の政府予算案では、平衡税の根拠法令となる2016年財政法とインド所得税法の改正により変更が行われています。
主要な改正点は以下の通りです。
- 法人所得税との二重課税の解消
- ロイヤリティ・FTS(技術上の役務提供に係る報酬)の平衡税適用除外
- e-コマース取引の適用範囲の拡大
- 取引対価に係る定義の明確化
まず、法人所得税との二重課税の解消は、最も明確化が望まれていたポイントかと思います。
従前では平衡税の開始が2020年4月1日以降の課税取引とする一方で、法人税との控除可能期間は2021年4月1日以降の課税取引とされていたため、二重課税が生じるのではという懸念が上がっていました。
しかしこれを税額控除可能とする対象期間を1年前倒しで2020年4月1日以降の課税取引に遡及的に適用することで解決されています。
加えて、租税条約上のロイヤリティやFTS(Fee for Technical Service : 技術上の役務提供に係る報酬)に関しても、平衡税の適用除外と明記されたことで法人所得税との課税関係がクリアになりました。
e-コマース取引の適用範囲
また、e-コマース取引の適用範囲の拡大も、主要な改正点の一つです。経済協力開発機構(OECD)では、デジタル課税の国際的なルールの議論においてなかなか進展が見られない中、インドが主導権を取るべく積極的に動いた、とも言えますが、一方で、米国企業を中心とした外資系IT企業に対する強硬姿勢を強めた(報復関税をも誘発しそうな事態)とも言えるインパクトの大きな改正点であると言えます。
具体的な改正点としては、まずオンライン上で以下5つのいずれか1つの活動が行われた場合に、オンライン上での物品販売や役務提供(online sale of goods and online provisions of services)と見なされる点が定義されました。
- 販売申込の承諾 :acceptance of offer for sale
- 発注 :placing of purchase order;
- 受注承認 :acceptance of the purchase order;
- 対価の支払い :payment of consideration; or
- 物品・サービスの提供 :supply of goods or provision of services, partly or wholly
つまり、e-コマースにおける取引内容が上記5つのいずれか1つに当てはまる場合、オンライン上の物品販売や役務提供として平衡税が適用されることとなり、課税対象が広範囲に及びます。
また、平衡税の不納付にかかるペナルティも明示されています。平衡税を納付しなかった場合には不納付期間中に当該税額を上限として毎日1,000ルピーに及ぶ罰金の支払い義務が発生し、これらの支払いがさらに遅れる場合は、遅滞利息として罰金の年利12%が加算されます。
課税対象となる取引の対価について
e-コマース事業上の取引に関する定義が拡大した一方、課税対象となる取引の「対価」についても明確に定義されたことで解釈の範囲がさらに拡大しています。
具体的には、2016年財政法165A条に新たな変更が加わっており、平衡税が課せられるオンライン上の取引対価の定義において、販売された物品の所有者やサービスの提供者がe-コマース事業者であるかに関わらないとしています。
つまり、平衡税の課税標準が、e-コマース事業者の収益である取引に係る仲介手数料だけでなく、プラットフォーム上の売買取引金額全体に拡大されるのではという懸念があります。
今回の改正により法人所得税との二重課税や、ロイヤリティ・FTSの適用除外といった点が明確となったのは納税者にとって大きな進展ではありましたが、一方で、平衡税の課税対象となるe-コマース取引内容や取引対価の定義が拡大したことにより、e-コマース事業者が仲介する売買取引には幅広く平衡税が課税される可能性が浮上してきました。
日系企業においてもインド子会社やインド内国会社に対してオンライン上で物品販売やサービス提供を行う場合には、平衡税の課税可能性があることを念頭に置きつつ取引スキームの検討および事業運営を実施していく必要があると言えます。
(根拠法令):インド所得税法第10条(50)項、2016年財政法163,164,165A, 191条