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Vol.34 : 2022年下半期におけるインド準備銀行や税務当局による各種通達

(文責:Dhanasekaran, 吉盛真一郎/Global Japan AAP Consulting Private Limited)

今回は、2022年下半期(2022年7〜12月)において発表された各種当局からの通達の中から、主なトピックをいくつか取り上げてご紹介差し上げたいと思います。
まずはじめに、ロシアのウクライナ侵攻にともない、米国や西側諸国による制裁として大きな話題となったロシアとの国際決済システムSWIFTについて、インドとロシア間における国際決済の動きについて取り上げた上で、各税務論点としてその他の主な通達をご紹介したいと思います。

1. インドのボストロ口座開設促進と貿易拡大政策

現在、国際決済における事実上の標準システムである SWIFT(The Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication: 国際銀行間通信協会)は200以上の国と地域に存在する11,000を超える金融機関によって利用され、金融取引に関する情報を安全かつ標準化された方法で伝達することによって迅速な国際決済を可能にしています。

2022年2月に開始されたロシアのウクライナ侵攻に伴い、米国をはじめ西側諸国は、経済制裁の一環として2022年3月よりこのSWIFTネットワークからロシアの金融機関を段階的に除外していきました。この措置によりロシアは、輸出による外貨獲得の機会および輸入時の支払手段を大幅に逸失しました。

2022年7月11日付インド準備銀行(RBI)の通達 (RBI/2022-2023/90 A.P. (DIR Series) Circular No.10) により、海外輸出入取引において、承認取引銀行(Authorized Dealer Bank)によるインドルピー建てボストロ口座(Vostro Account)の開設を条件とした、インドルピー建ての請求・決済が承認されました。ロシアへの非難・制裁に同調せずに配慮を示し続けてきたインド政府のこの決定により、同年11月までにロシアのSber銀行とVTB銀行が自行のインド支店にインドルピー建てのボストロ口座を開設し、その他ロシアの7行がインドの銀行内に同口座を開設し、SWIFTネットワークに依らないインドルピーによる取引を行うことが可能になりました。

このボストロ口座とは、通貨Aを用いるA国内銀行(通称Correspondent Bank: コルレス銀行)が、例えば、インドにおいて決済通貨としてのインドルピーを保有するためにインド国内銀行に設ける決済口座のことであり、A国の輸入業者が、A国内銀行に通貨Aの振込を行うと、インド国内にあるA国内銀行保有のインドルピー建てボストロ口座から、当該支払に対応するインドルピーが引き落とされ、インド国内の輸出業者に振り込まれることで国際決済が完了するという仕組みです。

2022年11月には、RBIはあらたに12行の銀行に対して、インドにおけるボストロ口座の開設を承認致しました。これにはロシアだけでなくスリランカやモーリシャス向けの口座も含まれています。このボストロ口座開設促進策は、国際的な経済制裁下にある国のみならず、基軸通貨での決済に困難を抱えている小規模国家によってインドルピー建ての請求および決済手段が認知されていくことで、当通貨の信用度と国際競争力の向上による貿易拡大をはかりたい、というインド政府の戦略のひとつであると考えられます。
また上記通達は、各ボストロ口座の余剰残高を、インド外国為替管理法(FEMA)のガイドラインに従った政府系証券や債券への投資等に利用できることも明らかにしており、今後、より汎用性が高まることが期待されます。

2. 所得税申告にかかる認証手続き期限の短縮

2022年7月29日付インド直接税当局 (CBDT) の通達 (Notification No.05/2022) により、2022年8月1日以降に行われる所得税申告にかかる、申告者によるデジタル認証期限および申告者の署名済フォーム (ITR-V) の提出期限が、電子申告日から30日以内(従来は120日以内)に短縮されました。

3. COVID-19にかかる各種現物給与は非課税

2022年8月5日付同局 の通達 (Notification No.90/2022, No.91/2022, No.92/2022) により、雇用主が負担した従業員およびその家族のCOVID-19にかかる医療費、第3者から当該治療のために授受した金銭、およびCOVID-19が原因となって従業員が死亡した際に遺族が雇用者より受けた弔慰金(額の上限なし)、および第3者より受けた弔慰金(合計100万ルピーまで)は、個人所得あるいは従業員の役得 (Perquisite) の対象にはならないことが、明確に規定されました。

4. 電子請求書(e-invoice)の発行義務にかかる年間売上高基準引き下げ

2022年8月1日付GST当局の通達(Notification No.017/2022-CT)により、e-invoiceの発行が義務づけられる法人の対象が年間所得2億ルピー超から1億ルピー超に引き下げられることが定められ、2022年10月1日よりその適用が開始されました。

以上

               

執筆者紹介About the writter

吉盛 真一郎 | Shinichiro Yoshimori
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。