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Vol.36 : ソフトウェアライセンスとロイヤリティにかかる国際課税論点とは?

1. はじめに

「ロイヤリティ」とは一般に知的財産権の使用または使用権に対する対価を指します。
インド非居住者がインド居住者からロイヤリティを受け取る際に、インド国内におけるPE(恒久的施設)の有無(後述3-A及び3-Bのケース)、インドにおける所得申告を行うか否か(3-Cのケース)、使用権ではなく知的財産そのものを譲渡するケース(4のケース)など、それぞれのケースで課税関係に差異が生じるため注意が必要です。

2. 源泉地課税と居住地課税

日本国の居住者であるA社が、インドの居住者であるX社からロイヤリティを受け取る場合、
日本ではA社の全世界所得に対して課税される関係上、X社からA社へ支払われたロイヤリティは、インドでは源泉地課税、日本では居住地課税となり、二重課税の対象となります。
このような二重課税を避けるために、各国は租税条約(DTAA)を締結しています。
租税条約(DTAA)は、居住国と源泉国との間で課税権を配分し、源泉国で納付した税金を居住国において控除できるようにするものです。

3. 源泉税率

A. インドにPE(恒久的施設)を持たない非居住者

インドでは、居住者は非居住者へのロイヤリティ支払いにつき、総額に対して源泉徴収する必要があります(グロスベース)
非居住者がPAN番号を保有している場合、所得税法115条A項に規定される税率(10.4%)またはDTAAに規定される税率(日印租税条約第12条に基づき10%)で非居住者への支払額に対して源泉徴収する必要がありますが、納税者にとってより有利な方を選択することができます。(なお、日印租税条約第12条の適用対象となるのはロイヤリティおよび技術サービス料(FTS)のみ)
非居住者がPAN 番号を保有していない場合であっても、以下の情報を提供すれば、上記の税率を利用することができます。

1. 氏名、E-mail ID、連絡先電話番号
2. 控除対象者が居住している国の住所。
3.日本法に基づく納税者証明書(TRC)、フォーム10F
4. 控除者の納税者番号(TIN)(もしあれば)、または居住国において控除者を特定するための固有の番号。

一方でPAN番号がなく、上記の情報も提供されない場合、ロイヤリティの税率は20%となります(所得税法206条AA項による規定20%と、所得税法195条による規定10%のうち高い方を適用)

B. インドに PE を持つ非居住者

インド国内のPEに関連してロイヤリティが支払われる場合、日印租税条約第7条に基づき、ロイヤリティ収入を事業所得として課税することになります。
この場合、グロスベースではなくネットベース(つまり、事業利益に対する課税)で、外国企業に適用される率すなわち40% + Cess & Surchargeが課税されます。

C. インドにおいて所得申告を行わないケース

2020年財政法(The Finance Act, 2020)において、特定利息、配当、ロイヤリティ、技術サービス料(FTS)の性質を持つ所得で、適切な税金が源泉徴収されている場合、非居住者のインドでの所得申告が免除されることになりましたが、その場合は所得税法第115条A項(10.4%)を下回らない率で控除されている事が必要です。(つまり、日印租税条約の規定に基づく源泉徴収10%を実施する場合には所得申告が必須)

4. ロイヤリティに関する重要な判例

2021年3月インド最高裁判所は、Engineering Analysis Centre of Excellence Pvt. Ltd.(EAC) と Commissioner of Income Tax (CIT)の裁判において、ソフトウェアのエンドユーザーであるインド居住者からソフトウェア製造者又は販売者であるインド非居住者に対する当該ソフトウェアの対価(ソフトウェアがハードウェアに組み込まれている場合を含む)について、納税者側に有利な判決を下しました。

つまり、このソフトウェアの販売が独占的であり譲渡可能なライセンスでないこと、また、他者にサブライセンスを付与したり、リバースエンジニアリング・修正・複製ができないというエンドユーザー側に一定の制限がある限りにおいては、あくまで著作権で保護された物品の購入に対する支払いであり、所得税法上においても租税条約上においてもロイヤリティに当たらない、すなわちインド国内において源泉徴収税の対象とはならないという判決を下しました。

インド非居住者がインド居住者に対してソフトウェアなどの製品そのものを譲渡する場合に対価として支払われた金額について、ロイヤリティ収入としてインド国内において源泉徴収すべきか否かについては納税者側と税務当局側で長年争いがありましたが、本判決において統一的な判断が下されたと言えます。

               

執筆者紹介About the writter

浜野 吉典 | Yoshinori Hamano
京都大学法学部卒。日本の投資顧問会社にて主に商品先物と外国為替のトレーディング業務を10年経験。2013年からマレーシアにて個人投資家として企業分析を行う中で会計の奥深さに触れ、巨大な海外市場で奮闘する日系企業を投資以外の分野においてもサポートしたいと感じ当社に入社。2022年から南インドはチェンナイに常駐をし、インドの経理実務を深く理解する会計・税務コンサルタントとして経験を積むと同時に、より広く深い知識に裏付けられたサービスをご提供出来るようUSCPA学習中。2023年8月に退職。