labor-legal

インドの人事労務・法務アップデート

インド人材採用のポイント!〜失敗しない経理スタッフ採用のカギ〜

経理業務はどの企業にとっても必須となる業務ですが、多くの日系企業がインドでの経理スタッフ採用において苦戦を強いられています。経理は会社の財務情報に触れる役割であることから、単にスキルを有しているだけでなく、高いコンプライアンス意識や誠実な人柄も求められます。インドでも日本でも基本的な経理業務は変わりませんので共通するポイントも多いですが、インド特有の事情により気をつけなければならないことも多々あります。そこで本記事では、インドにおいて経理人材を採用する際に注意すべきポイントについてご紹介します。

【採用前に明確にすべきこと】

(1)求めるポジションと役割を明確にする

求人を出す前に、新入社員にどのような役割を求めているのか整理をしましょう。求める役割によって必要となるスキルは異なります。参考までに、インド経理人材において一般的に期待される役割と給与額について役職別にご紹介します。但し、給与額や役割は業界や会社によっても大きく異なる点にご注意ください。

1.シニアエグゼクティブ (Senior Executive)

期待される役割:一部の仕訳入力作業補佐
一般的な給与:月収25,000から40,000ルピー程度

2.アシスタントマネージャー (Assistant Manager)

期待される役割:サービス企業や貿易企業の会計記帳を1人で行い、月次報告書(MIS)を作成できる、GSTやTDSに関する基本的な理解があり、納税額を計算ができる
一般的な給与:月収40,000から70,000ルピー程度

3. マネージャー (Manager)

期待される役割:製造企業の会計記帳を1人で行い、月次報告書(MIS)を作成できる、所得税やGSTに関する知識・経験がり、税務申告を行うことができ、会計監査等の対応もできる。また、経理部門メンバーの管理ができる。
一般的な給与:月収70,000から100,000ルピー程度

4.シニアマネージャー (Senior Manager)

期待される役割:国際税務や内部統制、原価計算、財務分析など特定の分野で専門的な知識と経験を有し、経理責任者として企業の経理マネジメントや部下の育成、また、課税関係にかかる取引先や監査人、税務調査官との折衝・交渉ができる。
一般的な給与:月収100,000から150,000ルピー程度

(2)会社の文化について明確にする

たとえスキルと報酬が一致していても、会社の文化に馴染めないと様々な問題が生じます。例えば、会社として、個々のスタッフの自主性を尊重して成果中心で評価するのか、それともタイムカードによる勤怠管理をきちんと行う等プロセス中心で評価をするのか?また、スタッフ本人として、ハードワークをしてキャリアアップを目指したいのか、それとも役職や給料以上にワークライフバランスを大切にしたいのか?などです。日本では「インド人は○○だ」と、インド人を一括りにして語られることが多いですが(例えば「インド人は頻繁に転職する」「インド人は自分の業務範囲以外の仕事はやらない」など)、日本人にも色々な人がいるのと同様にインド人も本当に多様なので、自社の文化を明確にして、自社の文化に合う人材を意識的に採用していくことが重要です。

【履歴書(CV: Curriculum Vitae)においてチェックすべきポイント】

(1)関連資格

CA(インド勅許公認会計士)、USCPA(米国公認会計士)、ICWA(インド原価計算士)等の専門資格を持っていれば、会計知識の信頼性は格段に向上します。たとえ資格がなくても、そのような専門資格を勉強中の候補者や、会計や財務の学位など経理業務に関連した学歴を持つ候補者であれば一定の知識は期待できます。ただし、資格や学歴を有しているからと言って即実務に従事できるわけではないため、即戦力を求めている場合には実務経験がより重要となります。

(2)実務経験

候補者の実務経験を評価し、特に前職での経理業務、今回採用するポジションに類似した業務に注意を払って面接を実施しましょう。経験年数に対する業務内容の範囲と理解の奥深さのバランスを確認しましょう。例えば、たとえCVに「経理経験5年」と書かれていても、大企業であれば売掛金の消込ばかり担当していた可能性があり、もし任せたい業務が月次報告書の作成(月次決算業務にかかる幅広い業務経験が必要)であれば、担当業務とスキルのミスマッチが生じます。このようなミスマッチを防ぐためには、現在担当している業務の詳細について確認することが重要です。

(3)関連スキル

Tally、QuickBooks、SAP、その他の会計ソフトなどの自社で導入している会計ソフトの熟練度、およびエクセル、パワーポイントなどのソフトスキルの習熟度も評価しましょう。また、ポジションに応じて、仕訳の入力だけでなく財務分析、予算編成、会計監査に関する専門知識や経験の有無も確認します。

(4)業界経験

会社が特定の業界で事業を展開している場合には、その業界での経理実務経験や業界知識を持つ候補者を採用することをお勧めします。必要となる会計実務の経験や知識は業界によって大きく異なるため、できれば同じ業界・事業ドメインの候補者が望ましいです。当然ではありますが、自動車部品メーカーが経理スタッフを採用する場合は、製造業における経理業務経験者が望ましいですし、さらに、自動車部品メーカーでの経理経験があればなお良し、ということになります。

【面接における注意事項】

一般的に、インドで経理人材を募集すると驚くほど多数の応募がありますが、玉石混交のため、その中から優秀な人材を見つけ出すことは簡単ではありません。面接での注意事項は、基本的に日本で経理スタッフを採用する際と変わりませんが、日本人は「約束を守ることが最も重要」と考えるため、簡単には「できます」と言わないのに対し、インド人は「できるかどうか分からなくても、やる気のある姿勢を持つことが重要」と考えるため、経験のないことに対しても「できます」「やれます」と言い切ってしまう人が多い点には注意が必要です。例えば、履歴書の記載されている職務経歴が単なる部署としての担当業務で、実は自分の部下がやっていただけ、自分の上司がほとんどやっていた(つまり自分ひとりではできない)、というケースが散見されます。候補者自身の担当業務(=現場レベルでの日々の作業)としていったい何をやっていたのかを面接で念入りに確認する必要があります。

(1)会計知識に関する質問

GAAP(一般に公正妥当と認められた会計原則)やIFRS(国際財務報告基準)、所得税やGSTに関する知識を確認します。このとき、できるだけ具体的に質問することが重要です。例えば、「ソフトウェアの開発を業務委託する場合のTDSは何%ですか?」「オペレーティングリースとファイナンスリースの違いを教えてください」などです。個別具体的な質問をすることの価値は、その知識を知っているかどうかだけでなく、候補者の理解が曖昧である場合の対応方法や、知らない場合の回答方法・コミュニケーションの取り方を見て、自分自身の知識レベルを正確に自己認知できているか、また、プロフェッショナル人材としての素直さ・謙虚さを持ち合わせているかどうかを評価する上で大いに役に立ちます。

(2)実務経験に関する質問

履歴書に記載されている実務経験の流れについて詳しく質問をします。具体的に「何を、誰に、いつまでに、どのような形式で」提出しているのか質問することが有効です。会計ソフトを使用している場合は、その使用経験を尋ね、スキルテストや習熟度のデモンストレーションを実施するのも有効です。
候補者に実際の会計実務上の課題を提示し、その解決にどのように取り組むかを尋ねてみましょう。例えば、「購買部門から支払済の前払金の請求書(Advance invoice)が提供され、かつその請求書に紐づいた契約が未締結の場合には、購買部門には何を確認し、どのように会計処理を行い、GSTやTDSをどのように計算し、購買部門にどのような注意を喚起しますか?」といった質問です。これにより、問題解決能力や職業的懐疑心、倫理観やストレス耐性、細部へのこだわりを知ることができます。
自分が行った経理処理について過去に上司や監査人から間違いの指摘を受けたことがあるか、受けた場合には指摘内容と、どのように対処したかも質問するのも効果的です。候補者の過去の経験や、具体的な会計上の課題や状況にどのように対処したかを尋ねことで、彼らの問題解決能力や、組織の文化にどのようにフィットするかを評価するのに役立ちます。
インドで経理を数年に渡り担当していて困難に全く直面しないということは現実的に想定しづらいので、ここで「間違えたことや問題に直面したことは一度もありません」と回答するような候補者については業務理解のレベルや経験値において大きな疑問が生じます。

(3)向上心に関する質問

会計基準や税制は変更されることがあります。特にインドの税制は頻繁に変更されます。今まで、会計制度や法令の変更にキャッチアップする姿勢を持って仕事をしてきたかを確認するため、日頃から具体的にどこのウェブサイトを見て変更をチェックしているか確認しましょう。法令のアップデートに限らず、新しい知識を吸収する意欲があるかどうかを確認することが大切です。

(4)チームワークとコミュニケーションに関する質問

経理スタッフは、組織内の他のスタッフと密接に仕事をすることが多いので、上司や同僚と積極的に協力し、コミュニケーションを行えるかどうかを評価しましょう。例えば、「業務量が多すぎる状況で追加の仕事が依頼された場合、上司や同僚とどのようにコミュニケーションを取りますか?」「監査人からの指摘内容に納得できない場合、どうしますか?」といった質問が効果的です。

(5)長期的に働けるかどうかの確認

前職以前の職場において数か月で転職を繰り返す人は、すぐに辞めてしまう可能性があるので退職理由およびその合理性・一貫性を確認する必要があります。ジョブホッピングが一般的な社会であることは事実ですが、コロナ禍による企業倒産による転職や、家族・親戚の急病等による転職なども比較的多いため、転職にいたった背景を丁寧にヒアリングすることは極めて重要です。また、本人の長期的な目標やキャリアプランを確認し、そのキャリアプランが会社の業務と一致しているかどうかも確認しましょう。

(6)候補者からの質問を受ける

面接のプロセスは双方向であるため、候補者には組織や会計慣行、一緒に働くチームについて質問する機会を与えましょう。そうすることで、候補者が職務と会社について明確に理解することができ、長期的な雇用につながります。また、候補者が会社や業務に対してどのくらい関心があるか、どのくらい業務内容を正しく理解しているかも知ることができます。

以上、インドで経理スタッフを採用するポイントをご紹介しました。もし社内に経理業務に精通した方がいない場合には、本記事でご紹介したような実際の会計実務上の課題を提示して具体的な質問をするのは難しいかも知れません。弊社では経理業務の代行サービスをご提供させて頂いているお客様に、経理人材の採用サポートをご提供することも可能です。弊社は多くのインド人経理人材の採用経験があり、かつ、多くのスタッフが長期的に定着しています。弊社主要メンバーが面接に同席をさせていただき、専門家として候補者の経験・知識・人柄・業務との相性等に対するフィードバックをご提供することで、安心して人材採用を進めていただけると思います。ご有用の際にはご遠慮なくお申し付けください。

               

執筆者紹介About the writter

田中 啓介 | Keisuke Tanaka
京都工芸繊維大学工芸学部卒業。米国公認会計士。税理士法人において中小企業の税務顧問として会計・税務・社会保険等アドバイザリーに約4年半従事、米国ナスダック上場企業において国際税務やERPシステムを活用した経理部門シェアード・サービス導入プロジェクトを約3年経験後、30歳を機に海外勤務を志し、2012年から南インドのチェンナイに移住。2014年10月に会計士仲間とともに当社を共同設立。これまで200社超の在印日系企業や新規進出企業向けに市場調査から会社設立支援、会計・税務・人事労務・法務にかかるバックオフィスアウトソーシングおよびアドバイザリー業務を提供。また、インド人材のリモート活用にかかる方法論および安心・安全なスキームの導入支援を積極的に行っている。