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Vol.50 : インド駐在員給与に対する課税問題へ税務当局から最新通達

インド間接税関税中央局(Central Board of Indirect Taxes and Customs)は2023年12月13日に、出向者給与に対するGST課税問題について、新たな通達(Instruction No.05/2023-GST)を発行しました。

以前よりインド国内では、インドから親会社への出向者の給与コスト関連の払い戻しについてそれが純粋な払い戻し(Reimbursement)に該当するのか、人的役務提供(Man Power Service)に該当するのか、各地域の裁判所レベルで論争が多く行われてきました。2022年5月にはNorthern Operating Systems 社の事例において、インド国外企業(外国法人)の従業員の給与やその他の費用の払い戻しは、人的役務提供の対価としての性質を持ち、納税者であるインド法人側はRCM(リバースチャージ方式)に基づくサービス税を納める義務がある、との判決を言い渡しました。それにともない、GST税務当局から突然調査の通知を受け取ったり、一方的にGST課税通知を受け取るというケースが多発していたという経緯があります。また、日系企業を含む多くの外資系企業が個別に異議申し立てを行う中、インド日本商工会においても2023年1月9日付でインド税務当局に対し課税関係の明確化を求める陳情書の提出も行っていました。今回はこれまでの経緯を受けて、税務当局があらたな通達を発表した形です。

(1)通達の内容

本通達は、日系企業にとって朗報と言えます。つまり、各地のGST税務当局が2022年5月のNorthern Operating Systems社に対する最高裁判例を根拠として、外国企業による出向者給与負担金に対して一律にGSTを課税するのではなく、最高裁判例のケースの適用範囲を見定めたうえで個別具体的に検討することを求めています。また、意図的な虚偽の陳述や隠蔽など意図的かつ悪質な租税回避のケースに対して適用される2017年CGST法第74条(1)はGST不払いの事実だけでは適用されるものではなく、一定の意図的な租税回避の事実が証明されない限り、適用することができないことも明確に言及しました。そのため、GST不払いの事実のみであれば、原則、罰金が課されない第73条が適用されることになります。

(2)税務調査の主な手順

以下に、一般的な税務調査の流れと今回の通達において明確化された罰則に関する適用条文についてご紹介します。

  1. 事前通知書(Notice)に基づき書類ベースでの税務調査が実施される。
  2. GST税務当局が納税者のGST申告においてコンプライアンスの違反があると判断した場合、税務調査官は税務当局として正式に情報開示を求める通知書であるSCN(Show Cause Notice)を発行します。
  3. 納税者がSCNの内容に異議を唱えない場合は、納税を行います。異議がある場合は、納税者は自身の見解をGST税務当局に提出します。
  4. GST当局が納税者の見解を受け入れる場合、更生通知は発行されませんが、受け入れない場合や納税不足がある場合は、GST税務当局が更生通知書(Assessment Order)を発行します。
  5. 更生通知に異議がある場合は、訴訟の場に持ち込まれることになります。

GSTの罰則にかかる規定(2017年CGST法第73条および第74条の比較)

条文 対象 SCN発行から30日以内に納税した場合 SCN発行から30日以内に納税されなかった場合 更生通知書の発行期限
73条 共謀/故意の虚偽記載/脱税のための事実の隠蔽以外のケース。 SCNは更生通知書の発行期限の少なくとも3ヶ月前までに発行される。

利子と共に税金を納付した時点で同通知に関する手続きは終了したものとみなされる。

抗弁を踏まえ、税金、利子、および当該税金の10%に相当する罰金または1万ルピーのいずれか高い方に相当する金額を徴収。 ・未納付/過小納付/仕入税額控除が誤って使用された会計年度の年次申告書の提出期限から3年間。

・誤って還付を受けた日から3年間。

74条 共謀/故意の虚偽記載/脱税のための事実の隠蔽のケース。 SCNは更生通知書の発行期限の少なくとも6ヶ月前までに発行される。

利子、および当該税金の25%に相当する罰金と共に税金を納付した時点で同通知に関する手続きは終了したものとみなされる。

抗弁を踏まえ、納税者 かが納付すべき税額、利子および罰金を決定。 ・未納付/過小納付/仕入税額控除が誤って使用された会計年度の年次申告書の提出期限から5年間。

・誤って還付を受けた日から5年間。

更生通知書の発行から30日以内に税金、利息、および当該税金の50%に相当する罰金を 納付した場合、当該通知に関するすべての手続きは終了したものとみなされる。

 

(3)具体的な影響と対策

もし仮に、本件のような出向者給与等の立替精算がGST課税対象と判断されたとしても、上述のGSTのリバースチャージ方式に基づき(2017年CGST法第16,17,18条等)、自社が支払ったGSTを仕入税額控除として利用することが認められるため、実質的には当該GSTを追加コストとして負担・認識する必要はないケースも想定されます。その一方で、過去の期間に相当するGSTの納付は税金の延滞に該当することになるため、GST課税対象と判断された場合は延滞利息を納付する必要が出てきます。

なお、実際にGST税務当局から納税額不足などコンプライアンス違反を指摘され、それに対して異議申立てする場合は税務訴訟となり、判決が出るまでの期間が長期化する可能性もあります。税務訴訟となった場合は時間も労力も要するため、まずはGST課税対象と判断されないために日頃から当該出向が人的役務提供には該当しないという説得力のある説明が可能となる根拠資料の準備と取引実態の整理をしておくことが重要です。特に昨今はこれまで調査・指摘を受けてなかった企業も新たに調査・指摘対象となる事例が増えているため、まずは出向者とインド子会社間の雇用契約や親子会社間の出向契約等を中心とした文書化を見直すことが推奨されます。

文書化において日系企業が見直すべき主なポイント

  • 出向はインド子会社の申請に応じたものであり、親会社主導で人材を出向させている訳ではない旨を明記(具体的な出向手続きにかかるフォーマットも整備)。
  • 親会社ではなく、インド子会社が出向を終了させる権利を有していることを明記。
  • 出向者はインド子会社の管理監督下にあり、あらゆる目的において雇用主と従業員の関係が存在する旨を明記。
  • 出向者が出向期間中に行った業務により、親会社が直接的に何らかのリスク・責任を負うことはなく、また、直接的に権利や便益を得ることもないことを明記。
  • 出向者は親会社の代理人ではなく、親会社名義で締結されるいかなる種類の契約や合意、取決め、また、それらにかかる交渉や承認等をする権限を有しないことを明記。
  • 出向者の待遇パッケージに関する記載は慎重に実施(特に、日本払い給与や日本本社が負担する現物給与等がある場合は注意)。

(4)さいごに

本件については、これまで通り係争中の事案にかかる最新情報の収集と自社の状況に基づく理論武装が重要になってきます。グローバルジャパンでは、引き続き、最新の情報をご提供していくとともに、御社の状況に基づく最適な対応策をご提案いたします。ご不明な点がありましたら、お気軽にご連絡下さい。

               

執筆者紹介About the writter

田中 啓介 | Keisuke Tanaka
京都工芸繊維大学工芸学部卒業。米国公認会計士。税理士法人において中小企業の税務顧問として会計・税務・社会保険等アドバイザリーに約4年半従事、米国ナスダック上場企業において国際税務やERPシステムを活用した経理部門シェアード・サービス導入プロジェクトを約3年経験後、30歳を機に海外勤務を志し、2012年から南インドのチェンナイに移住。2014年10月に会計士仲間とともに当社を共同設立。これまで200社超の在印日系企業や新規進出企業向けに市場調査から会社設立支援、会計・税務・人事労務・法務にかかるバックオフィスアウトソーシングおよびアドバイザリー業務を提供。また、インド人材のリモート活用にかかる方法論および安心・安全なスキームの導入支援を積極的に行っている。