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インドの会計・税務アップデート

2023年に判決が出た税務訴訟〜インド直接税に関する判例集9選〜

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本記事では、2023年度の直接税に関する判例のうち日系企業に関連する可能性があると思われるものをご紹介します。

1. 租税条約における受取利息にかかる課税関係

項目 内容
判例番号 D/71/128 ITAT Mumbai: ITA 2260/2022
裁判所 ムンバイ税務高等裁判所ITAT (Income Tax Appellate Tribunal)
納税者名 M/s. Cooperative Rabobank
納税者属性 外国法人のインド支店(Branch)
判決日 2023年3月28日
判決結果 納税者側勝訴

 

オランダを拠点とする銀行のインド支店が、インド・オランダ租税条約第11条(2)に基づき、対外商業借入(ECB)によって得た利子所得のTDS税率を10%として申告した。しかし税務当局は、当該ECBローンは当該外国法人のインド国内恒久的施設(PE: Permanent Establishment)に関する貸付であるため、租税条約第7条が適用されると主張した。租税条約第7条が適用される場合にはインド所得税法(Income Tax Act)が適用されるため、税務当局はインド所得税法第4条に基づき40%のTDSを課した。これに対しITAT(Income Tax Appellate Tribunal)は、当該支店がオランダ法人の恒久的施設であることに疑いはないものの、ECBローンの利子に対する源泉税は租税条約第11条(2)にて明記されているため、たとえ当該支店が恒久的施設に該当したとしても租税条約第7条は適用されず、租税条約第11条(2)に基づく10%で課税されると判断し、納税者の判断を支持した。

2. 非居住者に対する税務調査プロセス

項目 内容
判例番号 LD/72/005 Allahabad High Court: W.P. No 590 of 2023
裁判所 アラハバード高等裁判所(Allahabad High Court)
納税者名 Neelima Mahajan
納税者属性 非居住者個人
判決日 2023年5月9日
判決結果 納税者側勝訴

 

税務当局による税務調査プロセスにおいて、非居住者である納税人は税務当局に対して面会する機会を求めたが、税務当局はこれを認めなかった。納税人は税務当局から電子メールによる回答を受け取ったが、納税人による「弁護人を通じて直接話を聞きたい」という要請には応じなかった。

アラハバード高等裁判所は、当該非居住者に対して実施された2019-20年度の再査定手続を、本人が特に要求していたにもかかわらず、納税者に個人的な聴聞の機会が提供されなかったとして、納税者に対して聴聞の機会を与えてから新しい命令(fresh order)を通知するよう税務当局に求めた。但し、所得が非課税であるとの納税者の提出は留保した。

3. 市場調査レポートの購読料(サブスクリプション費用)への課税

項目 内容
判例番号 LD/72/008 ITAT Mumbai: ITA No.666/2022
裁判所 ムンバイ税務高等裁判所ITAT (Income Tax Appellate Tribunal)
納税者名 IQVIA AG
納税者属性 外国法人のインド支店(Branch)
判決日 2023年4月27日
判決結果 納税者側勝訴

 

スイスを拠点とする企業(納税者)は、医薬品分野の市場調査レポートを顧客に提供しており、2018-19年度にインド国内企業(顧客)から4,200万ルピーの購読料(サブスクリプション費用)を受領していた。ITAT(Income Tax Appellate Tribunal)は、オンライン・データベースへのアクセスを提供するために受取った購読料はロイヤルティには該当せず、インド・スイス租税条約の第9条(1)(vi)および第12条(3)に基づき、源泉税の課税対象とはならないと判断した。

サブスクリプション費用はあくまで著作権で保護された著作物の購入に対する支払いであり、所得税法上においても租税条約上においてもロイヤリティに当たらない、すなわちインド国内において源泉税(TDS)の対象とはならないという判断である。2021年には同様の基準でソフトウェアの販売に対する源泉税が課税されないという趣旨の判決も下されている。詳しくは「Vol.36 : ソフトウェアライセンスとロイヤリティにかかる国際課税論点とは?」の「4. ロイヤリティに関する重要な判例」を参照されたい。

 

4. 納税者に不利な税制改正の遡及適用について

項目 内容
判例番号 LD/72/036 ITAT Delhi: ITA No. 2742/2022
裁判所 デリー税務高等裁判所ITAT (Income Tax Appellate Tribunal)
納税者名 Anand Persad Jaiswal
納税者属性 個人
判決日 2023年9月6日
判決結果 納税者側勝訴

2012年7月1日に規定が変更され、税務当局による再審査(Reassessment)の期間が従来の課税期間終了後6年以内から16年以内へ延長された。納税者の2003-2004年度の納税申告については既に6年の再審査期間を過ぎ、2012年7月1日時点で既に納税額が確定していたが、税務当局は2020年3月20日に、2012年7月1日の規定変更を根拠に再審査期間は16年であると主張し、2003-2004年度のインド国外にある銀行への預金から生じた利子所得へ課税する旨の再審査要求(Reassessment Order)を納税者へ送付した。ITAT は、同改正が発効する前に確定した納税申告の再審査を実施することはできないとし、税務当局の要求を棄却した。

5. PANの未取消を理由とする非存続会社への課税

項目 内容
判例番号 LD/72/52 Bombay High Court: Writ Petition No.3034 of 2022
裁判所 ボンベイ高等裁判所 (Bombay High Court)
納税者名 Diversey India Hygiene Pvt Ltd
納税者属性 インド国内法人
判決日 2023年11月8日
判決結果 納税者側勝訴

 

納税者は合併を経て新会社を設立し、この組織再編については税務当局へ正式に通知がなされたにもかかわらず、かなりの期間が経過した後も非存続会社のPANが無効化されておらず、税務当局は非存続会社に対する課税権を主張した。

しかしながら、税務当局が会社の合併を認識していたのであれば、PANが廃止されていなかったことを理由に課税を正当化することはできないとし、ボンベイ高等裁判所は、非存続会社に対する追徴課税の主張を棄却した。

6. 海外の非営利団体のメンバーシップ加入料への課税

項目 内容
判例番号 LD/72/55 Delhi High Court: ITA 399/2022
裁判所 デリー高等裁判所(Delhi High Court)
納税者名 Deloitte Touche Tohmatsu
納税者属性 外国法人
判決日 2023年10月18日
判決結果 納税者側勝訴

 

スイスを拠点とし、世界各地に会員企業を有する協会(Verein)である被控訴人は、2008-09年度から2011-12年度までの課税所得はゼロであるとインドに税務申告書を提出した。つまり、メンバーファームが支払う加入料収入は、相互主義の原則により技術サービスに対する報酬の性格を持たず、非課税として申告したわけだが、税務当局はこの見解を認めず課税を主張した。

デリー高等裁判所は、納税者が非営利団体であり、相互性の存在を検証するための3つの基本的条件、すなわち(i)共通性の要素、(ii)非利益追求の要素、(iii)服従の要素が満たされているため、税務当局の追徴課税の主張を棄却した。

 

7. 税務当局ポータルのシステムエラーによる納税の遅延

項目 内容
判例番号 LD/72/56 Gujarat High Court: ITA 722/2023
裁判所 グジャラート高等裁判所(Gujarat High Court)
納税者名 KGY Glass Industries (P) Ltd
納税者属性 インド内国法人
判決日 2023年10月18日
判決結果 納税者側勝訴


納税者側には一切の過失がなかったにもかかわらず、税務当局ポータルサイトの障害によりFY2019-20(AY2020-21)のForm 10-IC を期日までにアップロードできなかった。税務当局は、納税者が所得税法第139条(1)に基づく所得申告書の提出期限までにForm 10-ICを電子的に提出しなかったため115BAA 条による特例税率を認めなかった。しかし、高等裁判所はこれを税務当局側の技術的なミスであるとみなし、Form 10-IC の提出期限の延長を認め、2020-21 年度の 115BAA 条による特例税率の恩恵が認められた。

8. 確定申告時に知らされていなかった所得税還付の利息の申告

項目 内容
判例番号 LD/72/58 ITAT Mumbai: ITA no.1981/2023
裁判所 ムンバイ税務高等裁判所ITAT (Income Tax Appellate Tribunal)
納税者名 Kavita Jasit Singh
納税者属性 個人
判決日 2023年9月14日
判決結果 納税者側勝訴

 

納税者が確定申告(Income Tax Return)を実施した際に、まだ税務当局から還付金を受け取っておらず、また還付金について知らされてもいなかったため、納税者は所得税還付の利息を所得申告書に記載しなかった。しかし、税務署による所得税申告のアセスメントが行われている期間中に還付金を受領したため、納税者は自主的に所得税還付の利息を申告した。その結果、税務当局は申告時に所得税還付の利息が申告されていなかったことを理由に、所得税法270A条に基づくペナルティを課した。

しかしながら、ITAT(Income Tax Appellate Tribunal)は、納税者の説明は誠実なものであり、所得税還付にかかる利息の申告漏れは所得申告漏れには当たらないと判断し、税務当局のペナルティの主張を棄却した。

9. 外国税額控除にかかるForm 67の提出タイミング

項目 内容
判例番号 LD/72/70 Madras High Court: W.P.No.5834 of 2022
裁判所 マドラス高等裁判所ITAT (Income Tax Appellate Tribunal)
納税者名 Duraisamy Kumarasamy
納税者属性 個人
判決日 2023年10月6日
判決結果 納税者側勝訴


納税者が確定申告時に税務申告書と共に Form-67 を提出しなかったことを理由として、税務当局は外国税額控除の請求を却下した。これに対しマドラス高等裁判所は、Form 67 は 143 条 1 項にかかる通知(税務申告書が提出された課税年度末から9ヶ月以内に発行される略式調査結果)を受ける前に提出されているため問題がないとして、税務当局の修正命令を破棄した。高等裁判所は、全ての規則が義務化されていると考えるべきではなく、その性質上ガイドラインに類する情報として参照すべきであることを示した。

               

執筆者紹介About the writter

田中 啓介 | Keisuke Tanaka
京都工芸繊維大学工芸学部卒業。米国公認会計士。税理士法人において中小企業の税務顧問として会計・税務・社会保険等アドバイザリーに約4年半従事、米国ナスダック上場企業において国際税務やERPシステムを活用した経理部門シェアード・サービス導入プロジェクトを約3年経験後、30歳を機に海外勤務を志し、2012年から南インドのチェンナイに移住。2014年10月に会計士仲間とともに当社を共同設立。これまで200社超の在印日系企業や新規進出企業向けに市場調査から会社設立支援、会計・税務・人事労務・法務にかかるバックオフィスアウトソーシングおよびアドバイザリー業務を提供。また、インド人材のリモート活用にかかる方法論および安心・安全なスキームの導入支援を積極的に行っている。