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インドの会計・税務アップデート

日系企業に関わる間接税の直近判例

本記事では、2024年におけるインドの間接税に関する税務判例のうち、日系企業に関係するものをご紹介します。

判例1 出向者の給与に対するGST課税が論点となった税務訴訟事例

項目 内容
判例番号 W.P. (C) NO. 4834 OF 2024 APRIL 3,2024
裁判所 デリー高等裁判所(HIGH COURT OF DELHI)
納税者名 Sony India (P.) Ltd.
納税者属性 インド国内法人(日系企業の関連者)
判決日 2024年4月3日
判決結果 係争中

【経緯】

  • 親会社からの外国人駐在員の出向にかかるGST納税の不履行を理由に、被控訴人に対してGSTの納税に対する督促が行われた。

【納税者の主張】

・役務提供に関する出向契約はなく、当該駐在員はインド現地法人との独立した雇用契約に基づいて雇用されている。

・税務当局は、親会社が当該駐在員を通じて人的役務サービスを提供していることを証する根拠資料を持ち合わせていない。

・当該案件の他にも下記のとおり同様の案件が係争中である。

  • Metal One Corporation India (P.) Ltd. [2023]157 taxmann.com 689/2024 (81) G.S.T.L. 127 (Delhi)
  • Idemitsu Lube India (P.) Ltd. [WP (C) No. 2039 of 2024]
  • Mitsubishi Electric India (P.) Ltd. [CWP No. 25351 of 2023]
  • Alstom Transport India Ltd.  [WP (C) No. 23915of 2023, dated 2-11-2023]

【判決】

・他に同様案件が係争中であるため、決着がつくまでは税務当局は課税をしてはならない。

【その後の経緯】

2024年10月22日に続報がありましたが、出向者給与にGSTが課税されるかどうかの論点については2024年10月時点では依然として判断が下されていない。

参考URL(https://www.scconline.com/blog/post/2024/10/29/delhi-high-court-gst-show-cause-notices-metal-one-corporation-sony-india-legal-news/

【ポイント】

出向者の給与に対してGSTが課税されるかどうかの論点については、税務当局および司法機関の対応に揺らぎが見られ、現時点で一貫した見解が形成されていない状況です。過去の判例や対応策については、下記の関連記事もご参照ください。

最新判例!出向契約における外国企業への給与やその他経費の払い戻しにかかるサービス税

インド駐在員給与に対する課税問題へ税務当局から最新通達

 

判例2 税務当局が要求したヒアリングへの欠席を理由に、納税者の書面回答が無視された税務訴訟事例

項目 内容
判例番号 W.P. NO. 8817 OF 2024 W.M.P. NOS. 9819 & 9821 OF 2024

APRIL 2,2024

裁判所 マドラス高等裁判所(HIGH COURT OF MADRAS)
納税者名 Tokyo Zairyo (India) (P.) Ltd.
納税者属性 インド国内法人(日系企業の関連者)
判決日 2024年4月2日
判決結果 納税者側勝訴

【経緯】

  • CGST法第65条に基づく報告書に基づき税務当局から発行された通知に対して納税者が書面で回答した。しかし、納税者が予定されたヒアリングに出席していなかったため、当該回答は無効であるとして、税務当局は当該回答を無視して納税命令を発した。

【判決】

・なぜヒアリングに出席できなかっただけで書面の回答が無効とされたのかは不明である。いずれにせよ、税務当局による命令は、納税者の返答を考慮せずに発行されているため不適切。

・従って、当該命令は破棄され、再検討のために差し戻される。税務当局は、納税者に対し、ヒアリングを含む合理的な機会をあらためて提供し、その後、本命令のコピーを受領した日から2ヶ月以内に新たな命令を出すよう指示。

 

判例3 納税者が税務当局からの通知を見逃したことにより発せられた通知を巡る判例

項目 内容
判例番号 W.P.(C) 7753 OF 2024 MAY 27,2024
裁判所 デリー高等裁判所
納税者名 Four E Systems India (P.) Ltd.
納税者属性 インド国内法人(日系企業の関連者)
判決日 2024年9月2日
判決結果 納税者側勝訴

【経緯】

  • 税務当局からの通知はGSTポータルサイトの‘view additional notices and orders’にアップロードされているが、納税者はその通知に気がつかなかったため、期限までに対応できなかった。
  • 税務当局は、納税者へのヒアリングを実施することなく、納税命令を発した。

【税務当局の主張】

・税務当局は所定の通知をGSTポータルサイトへアップロードしたのだから、その判決を見逃した納税者側に落ち度がある。

【判決】

・税務当局が命令を発する前に、納税者に対して本案に関して弁明する機会を与えることは正当かつ必要であるため、当該機会が提供されないまま発行された命令は自然正義の原則に違反している。このような観点から、当裁判所は、税務当局が下した命令を破棄する。

【ポイント】

判例2、判例3ともに、税務当局が納税者側の落ち度を理由として、適切なプロセスを経ずに命令を発しています。税務当局側の自然正義に対する違反という観点から、裁判において最終的には納税者側の主張が認められた形ではありますが、インドの税務訴訟においては多大なコストと労力の負担が伴います。税務当局から落ち度を指摘されないよう、抜かりなく手続きを実施することが重要です。

               

執筆者紹介About the writter

田中 啓介 | Keisuke Tanaka
京都工芸繊維大学工芸学部卒業。米国公認会計士。税理士法人において中小企業の税務顧問として会計・税務・社会保険等アドバイザリーに約4年半従事、米国ナスダック上場企業において国際税務やERPシステムを活用した経理部門シェアード・サービス導入プロジェクトを約3年経験後、30歳を機に海外勤務を志し、2012年から南インドのチェンナイに移住。2014年10月に会計士仲間とともに当社を共同設立。これまで200社超の在印日系企業や新規進出企業向けに市場調査から会社設立支援、会計・税務・人事労務・法務にかかるバックオフィスアウトソーシングおよびアドバイザリー業務を提供。また、インド人材のリモート活用にかかる方法論および安心・安全なスキームの導入支援を積極的に行っている。