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インドの会計・税務アップデート

【2024年最新】日本企業が直面した税務訴訟事例のご紹介

本記事では、2024年に判決が下された会計税務の重要判例をご紹介します。

判例1 外貨建て駐在員給与の損金算入に関する税務訴訟事例

項目 内容
判例番号 W.P. (C) NO. 3675 OF 2023
裁判所 デリー高等裁判所(High court of Delhi)
納税者名 MUFG Bank Ltd.
納税者属性 非居住の外国法人
判決日 2024年7月18日
判決結果 納税者勝訴

【経緯】

  • 納税者は、納税者のインド支店に駐在する従業員の外貨建て給与をインド国外にて支払い、インド支店の所得税申告時に日印租税条約第7条(3)[1]に基づき当該給与を税務上の損金に算入して税務申告を実施した。
  • 税務当局の担当官は、インド所得税法第40条(a)(i)の損金不算入規定※1を適用し、この申請を否認した。
  • なお、過去の同社類似税務訴訟において、税務高等裁判所(ITAT)は税務当局による否認を否定し、納税者を支持する判決を下した事実がある。
  • 税務当局はITATの過去の判決を認めず、損金算入を否認した。

【納税者の主張】

  • 今回の支払はインドにおける恒久的施設(納税者のインド支店)の事業に直接関係する費用であるため、インド所得税法第40条(a)(i)[2]は適用されず、損金算入が認められるべきである。

【判決】

  • ITATが過去に救済措置を認めた以上、税務当局はITATの決定に従う義務があり、ITATの決定を無視して損金算入を否認することはできない。
  • 租税条約の規定はインドの国内法よりも優先されるため、損金算入は認められる。

【ポイント】

• 今回の判決では、インドの国内税法と租税条約の内容との間に矛盾があるとき、インド国内税法よりも租税条約の規定が優先されることがあらためて示されました。
• 今回のケースでは税務当局が税務高等裁判所(ITAT)の決定を無視した通知を発しましたが、税務当局には税務高等裁判所(ITAT)の決定を無視する権限がないことがあらためて示されました。

[1] 日印租税条約第7条(3)

恒久的施設の利得を決定するに当たっては、経営管理費及び一般管理費を含む費用で当該恒久的施設のために生じたものは、当該恒久的施設が存在する締約国内において生じたものであるか他の場所において生じたものであるかを問わず、損金に算入することが認められる。

[2] インド所得税法第40条(a)(i)

インド非居住者に対して利息、ロイヤリティ、技術サービス報酬その他インド所得税法で課税対象となる支払を行った際、源泉徴収をしなかった場合や源泉徴収したものの期日までに申告しなかった場合には、その費用の全額が損金不算入となる。

判例2 非居住者のインド国内における事業活動が恒久的施設に該当するか否かを巡る税務訴訟事例

項目 内容
判例番号 SLP (CIVIL) DIARY NO(S). 11132 OF 2024
裁判所 インド最高裁判所(SUPREME COURT OF INDIA)
納税者名 Mitsui & Co. Ltd.
納税者属性 非居住の外国法人
判決日 2024年4月1日
判決結果 納税者勝訴

【経緯】

  • インドの非居住者である納税者はインド国内で駐在員事務所(Liaison Office)を運営していた。また、同時にインド国内に子会社も有していた。
  • 税務当局は、駐在員事務所とインド国内子会社が恒久的施設に該当すると主張した。

【納税者の主張】

  • 駐在員事務所の業務は準備的もしくは補助的(preparatory or auxiliary)なものであり、ビジネスの最終的な意思決定や取引の実務には従事していないため、日印租税条約第5条※3に規定される恒久的施設に該当する活動には従事していない。
  • インド国内子会社は、代理人PEに分類されるような機能は果たしていない。

【税務当局の主張】

  • 駐在員事務所の業務は準備的もしくは補助的(preparatory or auxiliary)なものであり、ビジネスの最終的な意思決定や取引の実務には従事していないため、日印租税条約第5条[3]に規定される恒久的施設に該当する活動には従事していない。
  • インド国内子会社は納税者の従属的な代理人として活動しており、代理人PEの要件を満たす形でビジネス活動を行っている(代理人PEの定義については「H-43 : インドにおける代理人PEと課税リスク」の記事をご参照ください)。

【判決】

  • 税務当局は、駐在員事務所が支店に該当する活動を行っていることや、インド国内子会社が従属的代理人に該当する活動を行っていることを示すだけの十分な証拠を提出していないため、税務当局の主張は認められない。

【ポイント】

  • 日本本社がインド国内に支店(Branch Office)を有する場合、当該支店が恒久的施設に該当することは日印租税条約第5条第2項で明記されています。しかしながら、インド国内の子会社や駐在員事務所(Liaison Office)については、通常は恒久的施設には該当しません。
  • 今回の判決では、たとえ駐在員事務所や子会社であっても、要件を満たす場合には恒久的施設として認定される可能性があることが示唆されました。しかし一方で、恒久的施設に該当する活動の存在を立証する責任は税務当局側にあることも同時に示されています。
  • 駐在員事務所や子会社が恒久的施設であると見なされることのないよう「E-27-2:インドへの出張者に対するPE認定リスクについて」や「H-43 : インドにおける代理人PEと課税リスク」の記事を参照に対策を講じる必要があります。

[3] 日印租税条約第5条第1項

この条約の適用上、「恒久的施設」とは、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所をいう。

日印租税条約第5条第2項

「恒久的施設」には、特に、次のものを含む。

(a) 事業の管理の場所、(b) 支店、(c) 事務所、(d) 工場、(e) 作業場、(f) 鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他天然資源を採取する場所、(g) 保管のための施設を他の者に提供する者に係る倉庫、(h) 農業、林業、栽培又はこれらに関連した活動を行う農場、栽培場その他の場所、(i) 店舗その他の販売所、(j) 天然資源の探査のために使用する設備又は構築物(六箇月を超える期間使用する場合に限る。)

               

執筆者紹介About the writter

田中 啓介 | Keisuke Tanaka
京都工芸繊維大学工芸学部卒業。米国公認会計士。税理士法人において中小企業の税務顧問として会計・税務・社会保険等アドバイザリーに約4年半従事、米国ナスダック上場企業において国際税務やERPシステムを活用した経理部門シェアード・サービス導入プロジェクトを約3年経験後、30歳を機に海外勤務を志し、2012年から南インドのチェンナイに移住。2014年10月に会計士仲間とともに当社を共同設立。これまで200社超の在印日系企業や新規進出企業向けに市場調査から会社設立支援、会計・税務・人事労務・法務にかかるバックオフィスアウトソーシングおよびアドバイザリー業務を提供。また、インド人材のリモート活用にかかる方法論および安心・安全なスキームの導入支援を積極的に行っている。