H-43 : インドにおける代理人PEと課税リスク
(文責:田中啓介 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)
インド事業に関わっている日系企業が注意すべき重要な税務論点のひとつに「PE課税」があります。
“PE”とはPermanent Establishmentの略で、日本語で“恒久的施設”と呼ばれますが、法人が諸外国で継続的に事業活動を行う一定の場所や代理人やサービス等の存在が認められる場合において当該国においてPEが認定されることとなります。
一般的に「PEなければ課税なし」と言われ、逆にPEが認定されてしまうと当該所得の源泉国の税務当局が課税権を主張してくるため注意が必要です。ここでは、インドにおけるPE課税の中でも特に注意が必要な「代理人PE」にフォーカスをしてご説明したいと思います。
1.代理人PEとは?
「代理人PE」とは、一般的に、駐在員や海外子会社、海外の販売代理点などが外国企業に代わって代理で活動をし、かつ、外国企業の名義において恒常的に顧客との契約締結に従事している場合に当該代理人がPEとして認定されることを言います。
インドの場合には、これらに加えてさらに、外国企業の代わりに商品の保管や受注・販売業務を担っている場合も含まれます。
2.OECDが提案するBEPS行動の取り組み
経済協力開発機構(以下「OECD」)は、税源浸食と利益移転(以下「BEPS」)を防ぐこと目的に多国間条約(MLI : Multilateral Instrument)を導入しており、多国間においてクロスボーダーで行われる租税回避行為の防止に取り組んでいます。
このMLIの中にも代理人PEの定義範囲の拡大が盛り込まれており、従来の代理人PEの定義に加えて、契約の締結に至るまでの交渉等を含む主要な役割(principal role)を担う場合も含まれる、としています。
3.MLIによりインドにおける代理人PEの定義が拡大
OECDがBEPS行動の防止のために導入を進めるMLIは、2019年10月からインドにも適用されることとなり、同月以降は日印租税条約に規定される「代理人PE」の定義が、MLIに基づき改訂・読み替えられることとなっています。つまり、現状インドにおいては以下の要件を満たす個人や法人は、代理人PEと認定されることとなるため注意が必要です。
- 外国企業のために日常的(habitually)に契約締結を行なっている
- 外国企業による重大な契約変更がなされず、日常的に(habitually)契約の締結に関わる主要な役割を担っている(play the principal role)
特に、外国企業とインド企業との間で締結された基本契約をベースに、インド国内の代理人が継続的に業務を受注している場合や、当該代理人が専属で(wholly)、もしくはほとんど専属で(almost wholly)業務を担っている場合などは代理人PEに認定される可能性が高いことになります。ただし、当該代理人が「独立代理人(Independent Agent)」の場合にはPEと認定されることはありません。
4.独立代理人とは?
租税条約やMLI等に規定される「独立代理人(Independent Agent)」とは、「法的にも、実質的にも独立」している代理人のことを指すものと理解されます。
ただし、上述のとおり外国企業の専属で、もしくはほとんど専属で事業を行う代理人は独立しているとは見なされません。
「法的に独立」しているとは認められないケース例
- 代理人により提供された業務の責任が外国企業側にある場合
- 外国企業側が管理・監督権限や指揮・命令権限を有している場合
- 外国企業が代理人の勤務場所や休日の決定権を有している場合
「実質的に独立」しているとは認められないケース例
- 代理人のパソコンやその他業務遂行に必要な備品関係を買い与えている場合
- 代理人自らが業務を自己の責任で遂行・完結できない場合(新卒エンジニアなど)
また、外国企業の「専属、もしくはほとんど専属(wholly, almost wholly)」であるかどうかについては、2005年の英国企業へのニューデリーAAR(事前審査機関)の回答結果がひとつの参考になります。
当該事前審査において検討された事例では、英国企業がコミッション契約に基づき一定の業務を依頼していた代理人において、当代理人の収益100%のうち当該英国企業からの収益が全体の約75%を占めるケースについては「ほとんど専属」とは見なされないとの回答結果が出ています。
つまり、ニューデリーAARの見解としては「ほとんど専属(almost wholly)」とは90%を超える場合のことを指す、と言及しています。AARの回答結果はあくまで事前審査の申請企業に対してのみ法的拘束力を持つものであるため、これを我々が判断する際の法的根拠とすることはできませんが、独立代理人として認められるための判断基準のひとつとして参考にしていただければと思います。
5.代理人PE課税の指摘を受ける可能性がある典型的な取引スキーム
上記を踏まえると、代理人PEとして認定される可能性があるのは、基本契約に基づき継続的に業務を受注する委託先や、外国企業の商品やサービスの販売、価格交渉、契約締結等に関与する販売代理店や海外子会社(駐在員を含む)、また、外国企業を代表して代理で契約の交渉や締結を行うフランチャイズ店舗などは注意が必要です。
特に、コミッション取引やマーケティング、販売プロモーションなどの役割を日常的に担っているインド現地法人が比較的に多く散見されるため、代理人PEの認定を受けないように業務上の明確な役割分担と、それを証する契約書や合意書の作成などの文書化が求められます。
取引スキームや進出事例
H-41 : インドにおけるサービスおよび物品の輸入取引
H-42 : インドにおけるサービスの輸出取引
H-43 : インドにおける代理人PEと課税リスク
H-44 : 単一ブランドによる小売取引(ユニクロの進出事例)
H-45 : フランチャイズ契約による小売取引(セブンイレブンの進出事例)
H-46 : NBFCライセンス取得に基づく金融取引(クレディセゾンの進出事例)
H-47 : インド国内外における物品販売スキーム事例
H-48 : インドの保税施設および保税制度について