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週刊インドトピックス

Vol.0132  インドで需要増のキャリアカウンセリング。話題の『CareerNaksha』とは?

インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2022年9月23日付けの報道で、キャリアカウンセリングプラットフォームである『CareerNaksha』を取り上げています。

 

2018年にNimish Gopal氏によって設立されたCareerNakshaは、高校生だけでなく大学生、卒業生、就業したばかりの人を対象に、パーソナライズされたデータ駆動型の心理測定ベースのキャリアカウンセリングと開発プラットフォームを提供しています。

 

『CareerNaksha』とは

Gopal氏は、約15年前に自分の進路がすべて外部の力によって決められていたことに気づきました。成績優秀者は理系を選び、選んだ組み合わせから、医学や工学のキャリアを選ぶという、目に見えない法則が存在していたようです。

この経験から、Gopal氏はシリコンバレーの仕事を辞め、2018年にCareerNakshaを設立しました。現在、同社はデータ駆動型の心理測定に基づくパーソナルなキャリアカウンセリングを、必要とする人に提供できるようになっています。Tier III都市(※1)とそれ以降の都市に特化してサービス展開をしています。

ヴァドーダラーを拠点とする同社は、ジャムナガル、アーメダバード、スラート、ジャイプール、バンガロール、デリー、ファリーダバード、パンチクラ、チャンディーガル、ムンバイ、インドール、ボパールなどの都市にオフラインセンターを持っています。これらは、フランチャイズパートナーによって運営されています。

創業から4年間で5,000人以上の学生に対応し、ユーザーの95%近くがメトロ郊外の地域とグジャラート州の公立学校に位置しています。

『組織として規模を拡大し、市場を獲得するために必要なことは、市場、デリバリー、キャリアカウンセリングの能力を理解した適切な人材と提携することです』とGopal氏は言います。
同社が2020年にMaulin Shah氏を共同創業者に迎えることになったのは、おそらくこのような理由からでしょう。2018年に採用されたカウンセラーは2名のみだったのが、現在ではCounsellors Council of India(CCI)のトレーニングを受け認定された3500名のキャリアカウンセラーが働いています。現在、CareerNakshaは、ユーザー数が前月比10%増で推移していると主張しています。

小規模都市への賭け

CareerNakshaのターゲットはTier III以降の都市ですが、なぜこのような戦略をとったのでしょうか?

Gopal氏は、大都市の親と国内の他の地域の親の行動が異なることに気づきました。『大都市では、親はカウンセリングのことをよく知っていて、選り好みする傾向があります。一方で公立学校やTier III、Tier IVの都市に行くと、大きなチャンスがあるのです。だから、私たちはビジネスモデルを細分化しているのです』とGopal氏は言います。

同社は、このような観点から、テストを各地域の現地の言語で提供しています。このテストは、職業情報ネットワーク(O*NET)と呼ばれる無料のデータベースに基づいており、学生、求職者、企業、人材開発の専門家が、どのような仕事があるのかを理解するのに役立つ、何百もの仕事の定義が含まれています。

学生は結果を受け取った後、カウンセラーに自分のスキルや興味に合ったキャリアの可能性について相談することが可能です。また、同社は、NGOや公立学校とのパートナーシップを維持し、これらのスペースを利用してセミナーを開催し、さまざまなキャリアの選択肢についての認識を高めています。

 

CareerNakshaの仕組み

『CareerNakshaはO*NETフレームワークとインド国内の状況を考慮して心理測定テストを開発しました。我々は研究発表をして、学校の標準から専門家の標準にまで合うように心理測定テストを商業化しました』とGopal氏は説明しています。

また、人工知能、機械学習、UI・UXデザイン、デジタルマーケティング、コミュニケーションスキル、社会的感情学習など、スキルアップやプロファイル構築のためのコースも提供しています。

Gopal氏によると、学生は自分が何をしたいのかが明確になれば、それに応じてキャリア設計をし、これらのスキルアップコースを受講することができるようになると言います。さらに、適切な業界経験を積むために、インターンシップ・プログラムへの参加も可能です。
また、キャリアカウンセラーになりたい人には、CCIやナショナルキャリアサービスとの提携により、カウンセラーになるための研修も行っています。

 

インド人材の大難問と闘う

キャリアカウンセリングは、インドではほとんど未組織の領域です。 iDreamcareerのレポートによると、インドはGreat Indian Talent Conundrum (GITC:インド人材の大難問 ※2)に立ち向かい、世界で最も競争力のある知識ベースの経済社会を構築するためにキャリアガイダンスを必要としている、とあります。

このような切実な組織化の必要性を受けて、インドではいくつかのスタートアップ企業が適切な解決策を模索しています。CareerNakshaの競合は、Expertrons(※3)、Career Guide(※4)、ProBano(※5)、Mindler(※6)などです。

このキャリアカウンセリングの領域で突破口を見つけることは、最難関という訳ではありません。同レポートによれば、この領域は参入障壁が低いので、最近スタートアップが急増している理由でもあるといいます。

しかし、CareerNakshaは、物事を軌道に乗せることに集中しているようです。『短期的には、1ヶ月の売上高を1,000万ルピー(約1,760万円)にしたいと考えています。また、カウンセラーのコミュニティも拡大し、10倍の3万5,000人を超えることを目指します。そして、収益性を20%向上させたいと考えています。これまで売上は順調に伸びており、昨年の同月に比べ売上が50%増になりました』とGopal氏は言います。

 

キャリアカウンセリング産業における日本との比較

本記事を執筆していて、キャリアカウンセリング産業においては日本の方が進んでいると感じました。

日本では古くから転職活動において、人材紹介企業に登録をし、キャリアカウンセラーのアドバイスやサポートを元に自分に合った企業を探すということが一般的です。また、多くの人材会社や派遣会社でスキルアップを目的にしたコースを受講することも可能です。これは、日本の「新卒一括採用制度」が大きく影響しているように思います。
新卒一括採用を設けているため、大学卒業後、それまで学んだ学問とは別の業界や部署に就くことが可能です。そのため、大学の学部選択時には将来の就職先に関して熟考していない学生が多いでしょう。就職前に深い知識や経験を身に付けていないため、働くにつれて自分に合っていないと感じ転職をする人が多いのだと思います。

一方インドでは、高校、あるいはそれ以前の時点で自分の将来の進路を明確に決め、それに向けて進学先を決めるということが一般的なため、就職先の業界に悩むことは滅多にありません。しかし、 iDreamcareerのレポートにもあるようにインドはGreat Indian Talent Conundrumに直面しています。優秀な学生を毎年輩出しているにもかかわらず、有意義な仕事に就けていると感じる人が少ないのです。このことがインドでのキャリアカウンセリングの需要を生み出したのでしょう。

面白いことに、日本では人材紹介会社は今でも需要があるものの、以前に比べるとその勢いは少なくなってきているように感じます。LinkedInやWantedlyといったサービスが普及し、自分で調べ、直接応募をする人が若い世代を中心に増えてきたためです。

今後、インドと日本のキャリアカウンセリング市場がどのような道をたどっていくのか、とても興味深いです。

Source:https://yourstory.com/2022/09/careernaksha-wants-to-make-career-counselling-tier3-edtech/amp

※1 Tier III:人口が20,000人〜49,999人の地域
※2 Great Indian Talent Conundrum:インド人材の大難問。インドでは毎年100万人以上のエンジニアや管理職の卒業生を輩出しているが、能力開発不足のため、有意義な仕事に就けるのはその3分の1以下と言われている。

※3 Expertrons:https://www.expertrons.com/
※4 Career Guide: https://www.careerguide.com/
※5 ProBano:https://www.probano.com/
※6 Mindler:https://www.mindler.com/