India Weekly Topics

週刊インドトピックス

Vol.0151 日差しの贈り物:インド家庭の屋根上革命

インド政府は、2024年2月に「PM Surya Ghar Muft Bijli Yojana」という名称の太陽光発電を利用した屋根設置型ソーラーパネル計画を正式に発表しました。この計画により、1000万世帯に対して7502億ルピーの予算が割り当てられています。この取り組みは、家庭における太陽光発電の普及を目的としており、成功すればインド全体の気候変動対策への意識を高めるきっかけとなる可能性があります。

この計画では、参加する家庭には300ユニットの無料電力が提供され、1kWのシステムに対して最低3万ルピー、3kWのシステムに対しては最高7万8,000ルピーの補助金が支給されます。さらに、製品の設置に関する低利のローン(現在の利率は7%)も提供され、これにより家庭は年間15,000から18,000ルピーを節約できるとされています。

インドは世界で最も大気汚染が深刻な国の一つであり、2030年までに炭素強度⁽*1⁾を45%削減し、10億トンの排出量削減を目指しています。さらに2070年までに、温室効果ガスが大気中に排出される量と除去される量が均衡している状態を表す、ネットゼロを達成するという挑戦的な目標を掲げています。

太陽光発電は新しいアイデアではありませんが、家庭レベルでの普及には様々な障壁がありました。初期費用の高さ、銀行ローンのリスク、インフラ整備の遅れなどが主な問題点として挙げられます。しかし、「PM Surya Ghar Muft Bijli Yojana」のような計画によって、これらの問題に対処し、太陽光発電を家庭レベルで実現可能な選択肢とすることが目指されています。
この計画により、インドの銀行は太陽光発電への融資を促進し、供給業者は製品の提供範囲を拡大する機会を得ることができます。また、特に低所得層の消費者には、無料の電力を保証する経済モデルを背景に、太陽光発電への関心が高まると期待されています。これにより、製造、物流、販売、設置、運用管理など、約170万の雇用機会が生まれる見込みです。

「PM Surya Ghar Muft Bijli Yojana」は、単に環境に優しい選択肢を提供するだけではありません。インドを世界で2番目に大きな太陽光発電市場に押し上げる可能性を秘め、分散型ソーラー・ソリューション⁽*²⁾によって電力需要のピークにかかる送電網の負担を軽減し、25年間で約7億2000万トンのCO2削減を目指す野心的な計画です。この取り組みにより、手ごろな価格で信頼できる電力を一般家庭に保証することで、彼らが自立し経済的自信を持つことが期待されています。
300ユニットまでの無料電力⁽*³⁾は、低所得家庭でも、エネルギー効率の良い調理器具を使った食事の準備、快適な照明や扇風機の利用、電動二輪車の簡単な充電など、生活の質の向上が見込まれます。さらに、余剰電力を電力会社に販売することで収入を得ることも可能になるかもしれません。


*1 経済活動によって生じる二酸化炭素の排出量を、GDPなどの経済指標で割った値。この指標は、経済成長を続けながらも二酸化炭素排出量をどの程度効率的に抑制しているのかを示す。

*2 中央集権的な電力供給システムとは異なり、個別の建物や地域に直接設置される太陽光システム。これらは小規模ながらその場で直接電力を生成するため、長距離電力輸送に伴う損失を減少させることができる。

*3 インドで最も電力消費の多いデリーでは、家庭の平均電力消費量は約260ユニット。

 

Source:インドの太陽光発電の野望

 

インド政府のこの取り組みは、とても思い切ったものだと感じます。
また、14憶を超える世界で最も人口の多いインドでのこの計画は、環境だけでなく経済的にも大きな利益をもたらすことになるだろうと想像できます。
再生エネルギーのために、自費で多額の資金を前払いして太陽光パネルを設置しようと思う意欲のある人は、なかなかいないと思います。太陽光パネルの設置に多額の補助金を提供する中国や、固定価格買取制度(FIT:Feed-in Tariff)を導入するドイツや日本のように、インドでのこの計画が環境問題解決の一助となることを期待したいです。

 

(文責:大森太郎)