India Weekly Topics

週刊インドトピックス

Vol.0094 インド初の全国展開コンビニエンスストアを目指すThe New Shop

インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年4月15日付けの報道で、24時間営業のインドのコンビニエンスストアを目指す小売業スタートアップThe New Shopを取り上げています。

デリーを拠点とするThe New Shopは、日用必需品を販売する24時間営業のコンビニエンスストアブランドで、連続起業家であるAastha Almast氏とCharak Almast氏の兄妹と、共通の友人であるMani Dev Gyawali氏によって2019年3月に設立されました。「誰もが歩いて行ける距離にあるコンビニエンスストアブランド」になることを目指しており、インド全土の鉄道駅、バスステーション、メトロ、ガソリンスタンド、観光地などで見かけることができます。

店内では日用必需品を販売しており、食料品、スナック、飲料品、乳製品、菓子類、パーソナルケア用品や衛生用品などがあるようです。本質的にはリテールテック(※1)企業であり、グローバル・チェーンのセブンイレブンのようなコンビニエンスストアをインドで展開することで、資産価値を高めています。

 

インドのコンビニ「The New Shop」が生まれた背景

共同設立者の3人にとって、The New Shopは3番目のベンチャー企業です。The New Shopの前のスタートアップは小売業者に特化したオンライン上の評判プラットフォームで、2017年にクライアントの1社に買収されています。その後、3人はMade in Indiaの製品調達を共同で行っています。Almast氏によると、彼らは『Patel Brothers、Walmart、Costco、Sam’s Club、Qnet、Vestige、Amway、Haldiram、Bikanerwalaなど一流のFMCG(※2)小売業者や直接販売をしていた会社にMade in Indiaの製品を供給し、2年半で5,000万ドルのGMV(※3)を達成した』ようです。この経験から、彼らは世界最大級の小売企業におけるサプライチェーン、オペレーション、商品の価格設定、パッケージングの仕組みを学び、小売業にはテクノロジーとビジネスモデルの革新が必要であることを学んだと言います。そして、この学びからThe New Shopのアイデアが生まれたようです。

 

コロナ禍前の戦略およびコロナ禍での成功の秘訣

同社は、2019年3月にエンジェル投資家から22万ドルを調達し、それによってコンセプトが正しいかどうかテストすることができました。彼らは教育機関、オフィス、コワーキングスペース、ホテル、ジム、集合住宅、ホステル、鉄道駅の7か所で、小型(10平方フィート)、中型(50平方フィート)、大型(100~150平方フィート)のそれぞれのサイズの店舗をテストし、また、商品構成を実験的に変え、商品がそれぞれの環境で受け入れられるかどうかを調べました。それが功を奏し、『2020年1月までに、小型、中型、大型合わせて100以上の店舗を展開し、さらにインド鉄道とのパートナーシップも獲得した』ようです。そしてこれをきっかけに、高速道路やガソリンスタンド、バスステーションなど、他の場所にも展開していきました。

Aastha Almast氏によると、2020年3月までに、各ロケーションのワーキングモデルとユニットエコノミクス(※4)およびスケーラビリティ(※5)の可能性について十分なデータが得られ、18〜20%の純粗利を記録していたようです。しかし、成長の頂点にあったときに、パンデミックが直撃し、ロックダウンが発令され、実店舗のすべてを閉めざるを得ませんでした。

一時的な成功を収めた後、New Shopの事業はしばらく停止していましたが、現在は再び成長曲線に乗っています。救いとなったのは、『オムニチャネル・リテール(※6)の技術をすでに構築していたこと』でした。同社はこのオムニチャネル・リテール技術を、規模が拡大してから使う予定でしたが、コロナ禍で同技術ソリューションを加速させ、エンドツーエンドの在庫管理ポータルを可能にし、オムニチャネルでの運営を実現しました。同社は運営を再開した10店舗のすべてをECからの注文に対応するダークストアにして、コロナ禍を生き延びると同時に繁栄しました。

Charak Almast氏は『内蔵されたテクノロジーを利用して店舗をオンライン化することで、店舗ごとの収益を10倍にすることができた』と述べています。同時に、ロックダウン期間中のニーズに応え、必需品を届けるために24時間体制での営業を開始しました。

 

ビジネスモデルと今後の計画

現在The New Shopは15人のチームで10店舗を運営しており、Dunzo、Swiggy、Zomato、Paytm、そして独自のオンライン配送プラットフォームを通じたオムニチャネル展開を行っています。Aastha Almast氏によると、『不動産会社、インド鉄道、ガソリンポンプ協会などと提携し、毎月7~10店舗の新規出店を目指している』とのことです。

 

The New Shopはインドブランドを代表しており、Narendra Modi首相が提唱するAtmanirbhar Bharat(※7)Vocal for Local(※8)を支持しています。『現在75〜80のブランドを取り扱っており、2,000以上の商品を販売しているが、商品の80%はインド製で、多国籍企業や外国ブランドはわずか20%』のようです。同社は、店舗での商品販売から収益を得ていますが、変動費モデル(※9)を採用しており、ブランドからも高いマージンを得ているようです。

現在、全10店舗の平均売上高は、月150万ルピーから300万ルピー(約215万~430万円)で、ユニットエコノミクスレベルで利益を上げています。

The New Shopは、9unicorns FundのパートナーであるAbhijeet Pai氏、HustleのジェネラルパートナーであるSreeram Reddy Vanga氏、American SharkのKevin Harrington氏、Huddle Accelerator、Anthill ventures、AngelList India、Let’s Venture、そして様々な個人投資家から、2回のラウンドで92万ドルの資金を調達しました。拡大計画をサポートするために、今後6カ月以内に別ラウンドの資金調達を目指しており、また、今後12ヵ月間で5都市で100店舗をオープンし、チーム拡大、テクノロジーの構築を計画しているようです。

 

インドトランジットリテール産業の可能性

世界経済フォーラムの報告書によると、インドの小売市場は1.3兆ドル規模で、世界第3位の消費市場であり、2030年には消費者需要の規模が6兆ドルに達すると推定されています。コンサルティング会社のKnight Frankによると、The New Shopが注力するセグメントはトランジットリテール(※10)で、2030年には220億ドルになると推定されています。同社は24Sevenや7-Elevenなどと競合していますが、Aastha Almast氏によると、インド全土で展開しているチェーン店はないとのことです。

現在はパンデミックの影響で、夜間の外出制限や、鉄道やバスなどの本数制限などが出され、インド国内を移動する人口は以前に比べ格段に減っていますが、それ以前は鉄道やバスを利用した夜間の移動は頻繁に行われていました。しかし、夜中に店を開けている小売店はほとんどなく、鉄道駅やバスステーションで食料を売っている個人商人から購入するしか方法はありません。その他の日用品の購入手段はなく、翌朝まで待たなければいけないのが現状です。

インドの生活に慣れた今となっては日本では当たり前の24時間営業のコンビニエンスストアがなくても特に困ることはありませんが、インドに来た当初は不便に感じたこともありました。パンデミックが落ち着き、以前のような生活が戻った時に、24時間営業のトランジットリテールがあると、インド国民による夜間の移動はますます快適になるでしょう。また、The New Shopがすでに提携しているDunzo(※11)によって、24時間いつでも家に居ながらにして欲しいものを入手することが出来ます。この変化は今後主流になり、人々の生活に欠かせない存在になると思いました。

 

 

※1 リテールテック:小売業×IT。小売事業にITやIoTなどのテクノロジーを取り入れた企業やサービスのこと。

※2  FMCG:Fast Moving Consumer Goodsの略。消費者向けの低価格製品(日用消費財)のこと。

※3 GMV:Gross Merchandise Valueの略。そのマーケットやプラットフォームで消費者が購入した商品の売上の合計額、流通取引総額のこと。

※4 ユニットエコノミクス:ビジネスの最小単位1個あたりの収益性のこと。

※5 スケーラビリティ:システムの規模の変化に柔軟に対応できる度合いのこと。

※6 オムニチャネル・リテール:小売企業がデジタルと実店舗の複数の顧客接点を通じて顧客とつながる戦略

※7  Atmanirbhar Bharat:モディ首相とインド政府が発表した、ウィズコロナおよびアフターコロナのインド経済成長計画。

※8  Vocal for Local:インド産の製品に力を入れる動き。

※9 変動費モデル:一定の生産能力や販売能力の下で、生産量や販売量などの操業度に応じて変動するモデル

※10 トランジットリテール:バス停やメトロ、鉄道駅など人々が公共機関を利用する場での小売店のこと

※11 Dunzo:直接店舗に足を運ばなくても、代わりに商品を購入してくれ、指定の場所に届けてくれるサービスを提供しているスタートアップ。https://www.dunzo.com/bangalore

Source:インドの24時間営業コンビニエンスストア「The New Shop」

The New Shop:https://thenewshop.in/