India Weekly Topics

週刊インドトピックス

Vol.0095 農村部をターゲットにしたオンライン医師相談ポータル「BigOHealth」

インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年4 月28日付けの報道で、北インドの農村部でコロナウイルスの診察を無料で提供するヘルステック・スタートアップBigOHealthを取り上げています。

 

大学の授業の課題からスタートしたBigOHealth

当時学生だったGaurav Rajput氏は2018年に、授業のプロジェクトの一環としてオンライン医師相談ポータル「BigOHealth」の制作を開始しました。Rajput氏は『当時、教授に何かを見せるためにウェブサイトの候補を作っていただけで、本気でベンチャー企業を立ち上げるつもりはなかった。』と説明しています。

コンピュータサイエンス学部を卒業した現在24歳のRajput氏は、2019年にデリーを拠点とするこのプラットフォームを、クラスメイトのShubham Shreyas氏と正式に共同設立しました。学生時代に始めたプロジェクトが、3年後には人々の生活に大きな影響を与えることになるとは、彼は知る由もありませんでした。大学での点数稼ぎのために作られたこのウェブサイトは、現在ビハール州のパトナ地区、モチハリ地区、ゴパルガンジ地区などで多くの人の命を救おうとしています。

 

BigOHealthのこれまでの歩み

BigOHealthは、2019年にNexus Startup Incubatorのインキュベーション(※1)を受けています。『私たちは、バレイリーなどの地区の人々が治療を求めてデリーのAIIMs(※2:All India Institute of Medical Science)まで来ているにもかかわらず、治療を受けるまでに何日も待たされている事実を目の当たりにした。そこで私たちは、インドの農村部を対象としたオンライン診療を考えた。』とRajput氏は述べています。

実際に農村部の人たち向けのビジネスを提供し始めたのは2020年4月、コロナウイルスのパンデミック第一波の最中でした。当時は、モチハリ地区とパトナ地区で同プラットフォームに登録している医師は数人しかいなかったようです。現在では、パトナ、デリー、スワン、モチハリ、ムザファルプル、ゴパルガンジなどの地域で、150人近くの医師が同プラットフォームに登録しており、オンライン診断に応じています。BigOHealthのサービスとして、コロナウイルスの診断は無料で提供していますが、婦人科医、歯科医、皮膚科医、小児科医、一般医などの専門家を利用する場合は、199~1,500ルピー(約290円~2200円)の料金がかかるようです。

 

コロナウイルス第二波で需要がピークのBigOHealth

BigOHealthは、現在限られた地域でしか運用されていませんが、インド全国各地から相談の電話が寄せられているとのことです。同社のマーケティングチームは継続的に病院や医師に連絡してアプリのデモンストレーションを行い、導入を進めています。アプリの主要言語はヒンディー語で、地方の英語が話せない人たちにとっても簡単に扱えるようになっています。

同社のヘルプラインには毎日100~200件の電話がかかってきており、2021年2月までに12,500人の患者を治療したとのデータがありますが、最新の情報はまだ出ていません。第2波の影響で毎日電話が鳴り続けており、BigOHealthのチームはできるだけ多くの患者に治療を提供することを最優先に動いているようです。

 

一時期は収束傾向にあったパンデミックも3月中旬より徐々に増え始め、4月に入ってからその勢いは加速し、今日では毎日新規感染者数の記録を塗り替えています。4月28日には約38万人の新規感染者が記録されていますが、実際のデータは報道されている数字の5~10倍ほどの可能性もあると、Your Story社、The Times of India社をはじめとする多くのメディアで取り上げられています。

今まさに起こっている第二波で懸念されているのは、2020年の第一波とは異なり、ウイルスが農村部にまで影響を及ぼすようになってきていることです。今回取り上げたBigOHealthなど、地方をターゲットにしたヘルステック・スタートアップが増えているのは確かですが、都市部と地方の情報格差、医療格差は簡単に埋めることができるものではありません。地方に住んでいる人たちにとって、アクセスできる医療がある、その情報を知っているだけで、精神的な安心感は大きく変わってくると思います。BigOHealthのようなスタートアップが今後地方の医療システムを変えてくれるであろうことを期待しています。

 

 

※1 インキュベーション:事業の創出や創業を支援するサービス・活動のこと

※2  AIIMs:All India Institute of Medical Scienceの略。国際的に重要な研究所とされている公立医科大学のグループ。

 

Source:地方をターゲットにしたヘルステック・スタートアップ「BigOHealth」

BigOHealth:https://www.bigohealth.com/