India Weekly Topics

週刊インドトピックス

Vol.0103 コロナ禍で需要拡大、救急車マッチングサービスを提供する『Medulance』

インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年5月22日付けの報道で、OlaやUberのような救急車サービスを提供するヘルステック・スタートアップMedulanceを取り上げています。

 

Medulanceが設立された背景

Medulanceは2017年にデリーを拠点にRavjot Arora氏と友人のPranav Bajaj氏によって設立されました。2010年に祖父を亡くしたArora氏は悲しみに暮れましたが、その後も彼を苦しませたのは祖父の死だけではなく、「当時、様態が悪化した祖父に適切な救急サービスをすぐに受けさせることができなかった」という事実でした。祖父の体調が急変してしまった時、家族はどの救急車を、どのように呼べばいいのか分からず、自分たちの車で病院に連れて行った時にはすでに手遅れだったようです。

実際にインドでは救急車を呼んでもすぐに来ない、連絡が上手く取れないなどの問題があり、深刻な状況でも家族や親戚の車を使うことが普通のようです。

Arora氏はこの悲しみを忘れてはいけないとインドの医療用救急サービスについて詳しく調べ始めました。そして約7年後にMedulanceを立ち上げるに至ったようです。

 

Medulanceの提供するサービスとは

Medulanceは、インドにおける救急車サービスの信頼性とアクセス向上をミッションに掲げ、救急車および救急医療サービスのアグリゲーション企業としてその規模を拡大しています。

同社のビジネスモデルはタクシー配車アプリを運営するOlaやUberの技術と同じようです。ユーザーがモバイルアプリを使って救急車を予約することで、近くにいる利用可能な救急車がユーザーに割り当てられ、緊急治療の所要時間を最小限に抑えることができるという仕組みです。『当時、OlaやUberといった配車マッチングアプリがすでに存在していたが、我々もスマートフォンに搭載されているジオロケーション(※1)などの新しい技術を活用して、緊急時の対応にかかる時間をあと数分でも短縮したいと考えていた。』と、Bajaj氏は語っています。

 

同社は、コンプライアンス、救急隊員、ドライバー、医療インフラなどをチェックした上で、政府や病院、民間の救急車をプラットフォームに登録しています。そうすることで、ユーザーと救急車のドライバーを直接結びつけることを可能にしています。また、同社のGPS(※2)ベースの技術プラットフォームは、ユーザーに最も近い救急車を確実に送り、タイムリーな救急サービスを提供することを可能にしています。

現在Medulanceは、B2BB2C、そしてB2G(※3)モデルで事業を展開しています。B2Bモデルでは、Manipal、Columbia Asia、Fortisなどの病院や、HCL、Schneider Electricなどの企業と提携し、提携先企業の従業員への緊急サービスの提供を支援しています。

 

コロナ第2波の中での活躍

インドではコロナウイルスの変異株が流行し、第2波が猛威を振るっています。5月上旬には1日の新規感染者数が40万人を超えた日もありました。現在は多くの州でロックダウンや外出制限などの規制が施行されているため、新規感染者数は落ち着いてはきているものの、決して安心できる状態ではありません。そんな中での救急サービスの非効率な使用は状況をさらに悪化させてしまいます。

この危機的状況の中、Medulanceはデリー政府とパートナーシップモデルを締結し、約100台の救急車を導入しました。また、第2波による医療機器の不足に対して活動しているDonate Oxygen India、Quase、Harmony House Indiaと協力し、救急車に酸素ボンベ、人工呼吸器、Bi-PAPマシン(※4)を装備しました。さらに、比較的症状が軽い人向けには、救急隊員のサポートを受けられるBLS(Basic Life Support)救急車を、重症の人向けには人工呼吸器が装備されていて、かつ医師が搭乗するACLS(Advanced Cardiac Life Support)救急車を配車することで効率性を高めています。

 

Medulanceの今後の目標

長期的には、各都市の救急インフラを整備し、2025年までに40都市で1万台の救急車を配備することを目指しているようです。Medulanceは現在、22都市でサービスを提供しており、約5,000台の救急車を保有しています。

『最終的には、組織向けのヘルスケアスーパーアプリを立ち上げて、従業員が救急サービスを利用できるだけでなく、救急隊員、在宅医療、救急医薬品などの支援を受けられるようにしたいと考えている』とBajaj氏は語っています。

 

インドコロナ第2波での救急サービスの現状

インドでのコロナウイルス第2波は第1波が比にならないほどで、酸素マスクや病床の不足が毎日ニュースに取り上げられています。そんな中、私営の救急車が通常以上の価格を患者に請求するという問題も起こっています。ラジャスタン州やグジャラート州では救急車のチャージ料を必要以上に課さないように、州政府が政策を出しましたが思うように機能していないようです。またグルガオンでも政府が同じように、救急者の利用料金をコントロールしようとしましたが、それによってストライキが起こりました。

このような悲しいニュースも多いですが、少しでも早く、そして少しでも多くの患者を病院に搬送するために奮闘している政府や企業も多くあります。デリー政府は5月6日に、コロナ患者が交通手段や費用に悩むことなく病院に行けるように、酸素ボンベや衛生用品を備え付けたオートリキシャ(※5)の無料提供を開始しました。その他カルナタカ州やグジャラート州でもコロナウイルス感染者のために無料で活躍するオートリキシャが多くあるようです。

Medulanceのようにテクノロジーを活用し効率のよい救急サービスを提供しているスタートアップやサービスが周知され、サービスの規模が拡大し、少しでも多くの命が救われることを願うばかりです。

 

 

※1 ジオロケーション:ユーザーの位置情報を扱う技術を指す
※2  GPS:Global Positioning Systemの略で、人工衛星を利用した測位システムのこと
※3 B2G:Business to Governmentの略で、政府や自治体との間で行う電子商取引のこと
※4 BiPAPマシン:Bilevel Positive Airway Pressureの略。呼吸をしやすくするための機器。
※5 オートリキシャ:インドの自動三輪車。東南アジアのトゥクトゥクと同じ。

Medulance:https://medulance.com/

 

Source:ユーザーと救急車をマッチングさせるヘルステックスタートアップ『Medulance』
コロナウイルス新規感染者急増で自動三輪車のリキシャが救急車に