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週刊インドトピックス

Vol.0129 ウクライナ紛争により深刻化する世界の小麦不足、インドの小麦が解決策になるか。

ウクライナ紛争で不足する小麦をインドが補うか

ウクライナとロシア間の紛争は世界の安全保障上の問題だけではなく、世界の食糧問題にも発展しています。

ウクライナとロシアの二か国で世界の小麦輸出の約25%を占めていますが、ロシアによるウクライナ侵攻とそれに続く欧米による対露経済制裁により、両国の小麦供給は大幅に制限された状況に陥っています。

その結果、この2カ国を中心に小麦を調達していた多くの小麦輸入国が、代わりの輸入元が必要とされるようになりました。

そこで関心が集まっているのが、中国に次ぐ最大の小麦生産国であるインド産小麦です。

小麦供給量の減少により、国際市場での小麦の価格は上昇しています。新たなる小麦の輸入ルートが求められる中、インド政府は輸出の増加を認める方針です。

一方で、食糧安全保障運動家は、輸出量を決定する前に、国内価格を優先し、国内消費に十分な供給を確保することが必要であると強く訴えています。

世界の小麦輸出事情

2017年から2021年の期間中にウクライナとロシアがそれぞれ9100万トン、1億8300万トンの小麦を輸出、他には、以下の国々が主に世界の小麦輸出を占めています。

  • EU諸国:1億5700万トン
  • 米国:1億2500万トン
  • カナダ:1億1200万トン
  • オーストラリア:8300万トン

この期間の小麦供給量(生産・既存在庫・輸入を含む)が2番目に多かったインドは、このうち輸出量はわずか2%で、1260万トンとなっています。

約80%は国内消費に使われ、残りは貯蔵されていました。

一方で、米国は供給量4億400万トンの31%、カナダは供給量1億8600万トンの60.5%、オーストラリアは供給量1億4600万トンの57%を輸出するなど、他の主要輸出国は供給量の大部分を輸出することができています。

渦中の二ヵ国に依存する世界の小麦市場

現在の世界の小麦市場は、アフリカ、西アジア、東南アジアの多くの国が、ウクライナとロシアの小麦輸入に大きく依存している状況です。

例としては、小麦の最大の輸入国であるエジプトは、必要量の93%を東欧諸国から調達、第2位の輸入国であるインドネシアは、この2カ国への依存度が30%に達しています。

他にも以下のような多くの国々がウクライナ・ロシアの二ヵ国からの輸入に大きく依存しています。

  • スーダン(80%)
  • タンザニア(64%)
  • リビア(53%)
  • チュニジア(52%)などのアフリカ諸国
  • レバノン(77%)
  • イエメン(50%)
  • アラブ首長国連邦(42%)などの西アジア諸国

農産物・加工食品輸出振興公社(APEDA)の会長であるMadhaiyaan Angamuthu博士は、インドは現在、これらの国の多くへの小麦の輸出に注力しており、「エジプト、トルコ、ナイジェリア、アルジェリア、中東、インドネシア、ベトナム、スリランカ、バングラデシュ、タイ、フィリピン、モロッコ、タンザニアが重点市場です」と述べています。

「小麦の輸出促進に弾みをつけるため、また、生産と輸出において直面する課題やボトルネックに焦点を当てるため、APEDAはタスクグループを立ち上げました」とAngamuthu博士は述べました。

インドの小麦の収穫期である3月から5月は世界の供給不足の時期と重なります。

また、インドの小麦は今年、豊作が予想されており、かなりの量の緩衝在庫があることから、食糧安全保障運動家は、インドが世界各国に小麦を供給する態勢は十分に整っているという意見に同意しています。

しかし、余剰小麦を輸出する一方で、対外輸出に注力しすぎることで、国内の需要に目を向けなくなることがあってはならないと、彼らは警告しています。

小麦輸出拡大にあたってのいくつかの問題点

デリーのアンベードカル大学自由学部のDipa Sinha助教授は、農民への十分な補償を確保しつつ、インド国内の価格の安定させ、国内消費用の穀物の確保することは、インド政府にとって最も優先されるべきことであると述べています。

Sinha博士は「食料への権利」キャンペーンに携わっており、「インド人全員の食料安全保障の要求を満たすことが、政府の最優先事項であるべきです。」「そのためには、PDS(公的配給制度)やPMGKAY(インド政府がCOVID-19の大流行中に発表した食糧安全保障福祉)を継続するとともに、現在保障の対象から外れてしまっている人々をさらに取り込むために網を拡大する必要があります。

市場価格がさらに上昇することが予想されることを考慮すると、これは不可欠なことです。

一方で、より高い価格が得られるのであれば、政府はこれらの食料安全保障に必要な小麦をインドの農家から現在のMSP(最低支持価格)よりも良い価格で購入することを検討すべきです」とも述べています。

補足:PDSについて

現在、PDSは政府が米や小麦等の必需品を買い上げて市場価格よりも低い価格で貧困層に提供する制度です。

主に貧困層に対する食料の安全供給、生産者に対する買い上げ価格の保証、政府が緩衝在庫を保有して不測の事態に備え、食料の供給と市場価格を安定化させることを目的としています。

PDSの流れとしては、まず政府が最低支持価格(MSP)を設定し、インド食料公社(FCI)が生産者から穀物を買い上げます。

生産者は市場価格と政府の買い上げ価格を比べて販売先を決め、FCIに無制限に穀物を買い取ってもらうことが可能です。

「政府は、この動きが国内消費に影響を与えないように計画する必要があります。小麦の豊作が予想されるので、政府は流通と緩衝のために十分な量を調達することができるはずです。

さらに、現時点では輸出規制がないため、余剰分を民間業者に売却して輸出すれば、農家は価格上昇の恩恵を受けることができます」とSinha博士は意見を述べました。

またさらに新たな局面として、インド食料公社(FCI)の在庫から小麦を輸出するという争点が新たな問題として生まれています。

ある貿易関係者によると、3月にはインドが在庫の米を輸出しているとして非難されており、インドが小麦の輸出を決定した場合、一部の先進国が世界貿易機関(WTO)で異議を唱える可能性があるとのことです。

国内需要への食糧供給の保障、そして他国との貿易上での軋轢、現在これらの点がインドの輸出拡大の課題となっています。

農家の収入を増やすために

インド最高裁の食糧への権利訴訟委員会の元主席顧問であるBiraj Patnaik氏は、2014年のWTOのバリ閣僚会議で採択された平和条項は、インドの食糧穀物の輸出を妨げるものではないとの見解です。

Patnaik氏は、「手元にある緩衝在庫で、インドは世界価格をできる限り安定させるために小麦の輸出を増やすべきです。」「また、ウクライナやロシアに小麦を依存していた国々が、代替の供給源を求めていることも重要です。この機会に、政府は最低支持価格で栽培された小麦をすべて調達すべきであり、それはインドの農民の利益にもつながります」と述べました。

ただし、特に最近では、PMGKAYプログラムが拡大されている状況であり、国内消費を犠牲にしてまで輸出を行うべきではないとも、併せて彼は注意を促しました。

ウクライナ紛争は世界的な関心事であり、悲劇です。早期の解決を願うと同時に、そこから生じた様々な問題に我々は対処していかなければなりません。

食糧問題はその中の大きな一つであり、世界の食糧供給網にも大きな変化の訪れが予想されます。激動の時代にのまれぬよう、注視を続けたいところです。

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