Indian Market "Insight"

インド市場の”今”を知る

Vol.002 : 急成長を遂げるインド国内ゲーム市場と世界から見たインドの潮流

 

1.世界のゲーム市場が見ている“ニューノーマル”

現在、世界のゲーム市場の規模は、映画と音楽(ストリーミングおよび録音を含む)を合算した市場規模よりも大きく、世界最大のエンターテインメント市場となっています[1]。Newzoo社によると、2019年の世界のゲーム市場収益は約1,457億USドル、2023年には2,000億ドルを超えると推測されており、また、次世代モバイルネットワーク規格である5Gを見据え、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)の技術がもたらす新しいゲーム市場にも期待が集まっています。[2]特にスタンドアローンで動作するVR端末として日本でも人気を集める「Oculus Quest」を開発したFacebook傘下のOculus社は、2019年11月にVRゲーム制作会社であるBeat Games社を買収、さらに2020年2月にSanzaru Games社を買収し、FacebookはVRゲームコンテンツを拡充するためのエコシステム構築とともに、コロナ後の“ニューノーマル”な世界における非接触型の新しいゲーム体験にも期待が集まります。

 

2.コロナ禍におけるインド国内ゲーム市場と最新動向

インド国内のエンターテインメント市場においてゲーム産業が占める割合は世界の比率と比べるとそれほど高くないものの、インド国内ゲーム市場はここ数年で急成長を遂げています。インドのIT業界団体NASSCOMによると、ゲーム市場規模は2020年に10億ドルを超え、ゲームユーザーはインド国民の約半数にあたる6億2,800万人に達すると推測されています[3]。アプリの分析やマーケティングを実施しているAppsFlyer社の調査レポートによると、特に3月下旬から新型コロナウイルスの感染拡大に伴う厳しいロックダウンがインド国内で始まって以来、多数の産業において厳しい経営環境が続いている中、5月の地点でインド国内のコアゲームアプリの収益が当初より倍増したと報告しています。(同調査結果によると日本でのゲームアプリ収益は減少)[4]

さて、インド国内のゲーム産業は1990年代初頭から注目を浴びるものの、その当時インド国民にとってはまだゲームは高価で贅沢なものと考えられていたため、インドのゲーム産業は2010年頃まであまり成長しませんでした。そんな状況の中、安価なスマートフォンが普及し始め、モバイルゲーム業界が爆発的に成長し始めたのは2010年代に入ってからです。2010年にたった25社しかなかったインド国内ゲーム開発企業が2019年に275社まで増加し、また、現在インド国民の40%近くがスマートフォンを持っており、その数は毎年約12%ずつ増加していると言われています。

 

(1)インド国内モバイルゲーム

まずは急成長をしているインド国内モバイルゲームについて見ていきたいと思います。インド国内メディアDataquestによると、インドには2億2,200万人以上のモバイルゲーマーがおり、1日平均42分をモバイルゲームに費やしているそうです[5]。インド国内で人気のモバイルゲームは主にアクションやスポーツ、パズル、クイズ等が多く、例えば、一部の州や学校で禁止されるほどの人気を誇るバトルロイヤルゲーム「Player Unknown’s Battlegrounds (PUBG)」や世界大会まで開催される「Fortnite」、世界中で人気を博したパズルゲーム「Candy Crush」、インド式ポーカー「Teen Patti and Rummy」、ボードゲーム「Ludo King」、クリケットやサッカー等のゲームが挙げられます。なお、「バトルロイヤル」とは昨今人気を集めているゲームジャンルの一種で、生存や探索、採集要素を持つサバイバルゲームをベースとしており、敵を全員倒すことで勝者として勝ち残ることを目的としたゲームのことを指します。

(2)インド国内家庭用ゲーム機

次に、家庭用ゲーム機では、マイクロソフトの「Xbox」シリーズとソニーの「プレイステーション」シリーズがインド都市部の上流中産階級に人気があります。ジャンルとしては、アクション、アドベンチャー、ロールプレイングゲーム(RPG)、スポーツゲームなどが人気です。一方で、インドのゲームファンの間で度々語られているのが任天堂です。実は、任天堂は80年代に一度だけインドで「SAMURAI」という名前で家庭用ゲーム機を販売していますが、以降撤退しています。現在インドで購入できる任天堂のゲーム機もゲームタイトルも輸入品であり、保証もサービスもなく、価格は公式の倍以上することがほとんどです。任天堂はインドでも「ニンテンドーeショップ」のサービスを提供しておらず、ゲームのオンライン機能をさらに制限しています。それにもかかわらず、インドでは公式に販売されていない任天堂ゲーム機「Switch」の新しいゲームタイトルの発売がTimes Of India(インドの最大英字新聞)の記事[6]になったり、「任天堂はインドへ進出するべき」という趣旨のオンライン署名活動[7]まであり(残念ながら署名はあまり集まっていないようですが)、オンラインで活発に議論されている状況を鑑みるに、少ないながらも一定のファン層がいる事が伺えます。また、AR技術を活用したゲームとして世界でも人気を博した「ポケモンGO」は、2019年インド国内インストール数は世界で第三位でした。「ポケモンGO」の開発・販売会社は米系ゲーム会社Niantic社ではありますが、ポケモンを通じて認知されたインド国内におけるこれからの任天堂のプレゼンスやその動向には興味深いものがあります[8]

(3)インド国内PCゲーム

最後に、インド国内のPCゲームについてご紹介します。主にアクション、アドベンチャーなどが人気があり、シューティングゲーム「Counter Strike(CS)」や、マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ(MOBA)のジャンルで大人気の「League of Legends(LoL)」や「Defense of the Ancients(DotA)」、「Assassin’s Creed」などが一般的にプレイされています。上述のとおり現在、「バトルロイヤル」のゲームジャンルは非常に人気があり、特に「PUBG」はモバイルに限らずPCでも国内で広く成功を収めています。なお、高価格なハイエンドPCが必要となる大規模多人数同時参加型オンラインRPG(MMORPG)は、恐らくそのコストが障壁となってインドではあまり成功していません。そいういった背景もあり、世界最多登録者数でギネスブックにも載った米系ゲームメーカーActivision-Blizzard社の「World of Warcraft」や、スクウェア・エニックス社の「ファイナルファンタジー14」はインド国内で大きな存在感を示すには至っていません。また、攻略に時間が掛かる「Warcraft」、「Starcraft」等のリアルタイムストラテジー(RTS)ゲームやクラシックRPGもあまり人気がありません。というのも、インドのオンラインPCゲーマーの若者の殆どは、自宅でなくゲーミングカフェ[9]でプレイしているようです。

 

3.インド国内ゲーム業界の発展を支えるインド財閥と外資の参入

近年、オンラインゲームの人気が急上昇している主な理由の一つとして、インド通信大手であるリライアンス・ジオが2016年にインド通信業界に参入して以来、インターネットデータ料金が大幅に低下したことが挙げられます。これにより、携帯電話のモバイルデータと固定ブロードバンドインターネット両方の料金が急速に値下がりし、インドのデータ料金は世界でも最低水準となりました。これに加えて、スマートフォンの急速な普及とその機能の認知度が高まったことにより、インドではオンラインゲームが一大ブームとなっています。インド最大財閥リライアンス・インダストリーズを率いるインド人大富豪ムケシュ・アンバニ氏は、娘の結婚式にビヨンセやヒラリー・クリントンを招待して日本でも話題になりましたが、最終的にゲーム産業の市場規模は音楽や映画、TVのそれを合算しても超えてくるであろうと発言しています[10]

 

 また、2000年代以降、バンガロールやハイデラバードを中心にIT産業のハブとして発展してきたインドでは、ゲーム開発も一大産業に成長しつつあります。フランスの大手ゲーム開発会社Ubisoft社は、インド国内のプネに2つの開発スタジオを持っています[11]。大人気アクションゲーム「Grand Theft Auto」シリーズの制作を手がける米系企業Rockstar Games社は、2019年にインドのゲーム開発会社Dhruva Interactive社を買収しました。後にRockstar India Studioに吸収合併され、現在はインドに約500人の従業員を抱えています[12]。 中国系巨大企業もインドのゲーム業界へ積極的に投資しており、アリババはそのグループ会社、Paytm社と合弁でPaytm First Games社を設立[13]、テンセントはインドのゲーム業界で初めてユニコーン企業となったDream11社に出資しています[14]

 

 インドの多くの家庭では未だにオンラインゲームを子供の勉強から興味を逸らす有害な娯楽として捉えている人が多いように思えます(実際にそうかもしれません)。しかしながら、30代に突入する年齢層が少しずつ増えていることから、今後は徐々にこのような社会の風潮が変わっていくことが想定されます。また、ゲームユーザーの男女格差について、KPMG社とGoogle社の共同調査によると、インドのPCゲームおよび家庭用ゲーム機ユーザーの80%以上が男性であるという調査結果が報告されています。一方で、モバイルゲーム市場では、男女のバランスがより均等になっている傾向にあるようです[15]。これまでの考察を踏まえると、インドのゲーム業界はすでに初期段階から成長段階へと移行しており、また、コロナ禍に端を発したオンラインエンターテインメントへの需要が高まっている現状において、これから大きな成長が期待できる時代に突入すると言えそうです。世界的にも注目を集めるインドのITエンジニアですが、インドだけでなく世界のゲーム業界を牽引していくことが期待されていると同時に、人口の半分が25歳未満である若い国インドがこれからのゲーム業界にとってますます重要な市場となるでしょう。

       

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執筆者紹介About the writter

安本 理恵
安本 理恵 | Rie Yasumoto
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。