Indian Market "Insight"

インド市場の”今”を知る

Vo.010 インドは世界の生産拠点になれるのか!?インドの半導体市場動向!

1. 半導体とは

半導体は、コンピュータやその他の電子機器の基盤となる電気を良く通す金属などの「導体」と電気をほとんど通さないゴムなどの「絶縁体」との、中間の性質を持つシリコンなどの物質や材料を指し、このような半導体を材料に用いたトランジスタや集積回路(多数のトランジスタなどを作り込み配線接続した回路)も、慣用的に”半導体”と呼ばれます。半導体は、情報の記憶、数値計算や論理演算などの知的な情報処理機能を持っており、電子機器や装置の頭脳部分として中心的役割を果たしており(一般社団法人 日本半導体製造装置協会定義による) 、コンピューターや家電製品、携帯電話やウェアラブル製品、産業機械、自動車、通信、航空宇宙・防衛技術など、現代のあらゆる電子機器や情報通信技術製品に使用されています。
半導体の需要が、世界中で急速に拡大していることはよく知られているところですが、同時に、世界的なコロナ禍、世界各地の天災、政情不安等、複数の要因が世界的な需要拡大に対する供給不足に大きな影響を与えていると言われています。

2. インドの半導体部品市場

インド エレクトロニクス及び半導体協会(以下、IESA)と香港に本社を置く調査会社、カウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチ社(以下、カウンターポイント社)の共同調査によると、インドにおける半導体部品の市場規模は、2021年には収益だけで約1,190億米ドルであると見積もられました。更に、同市場は年平均成長率19%で成長し、2026年には累計収益が約3,000億米ドルに達すると予想されています。そして、2021年時点では、このうち約9%が現地生産されており、その規模は約107億米ドルと推定されていますが、2026年には現地生産率が約17%に達し、510億ドルに達すると予想されています。2021年時点で自給率が高いのは産業機械、自動車、航空宇宙および防衛産業産業でそれぞれ38%、33%、24%とされていますが、2026年では44%、38%、28%に上がることが予想されています。さらに、情報通信業では、2021年の5%から、2026年には26%への自給率急成長が予想されています。
同調査では、カウンターポイント社 Vice PresidentのNeil Shah氏が下記のコメントを出しています。
(和訳)「半導体部品の次の大きなブームは、産業・分野に関係なく予想されますが、その中でも情報通信業が、5Gとファイバーネットワークの展開により、半導体部品消費を押し上げるでしょう。2026年の半導体総消費量の14%以上を占めると思われる、先進的な半導体を多用する5GおよびFTTH (fiber to the home)通信インフラ設備からだけでなく、スマートフォン、タブレット、PC、コネクテッドカー、産業用ロボットからプライベートネットワークまで、AI装備5G端末でも消費が予想されます。また、よりクリーンで環境に優しい自動車(電気自動車)を取り入れるための継続的な取り組みが、自動車産業が先進技術を導入する原動力となり、インドの半導体部品の需要を押し上げると考えられます。また、家電、産業、モバイル・ウエアラブル端末も、インドの半導体市場成長の鍵を握る産業となるでしょう。」
インドの主要な半導体部品製造企業としては、Bharat Electronics Limited、CDIL、Applied Materials、TSMC India、Micron Technology、Solex Energy Limited、Masamb Electronics、Semtronics Micro Systems、 Samsung Semiconductor India、Broadcom、Tata Elxsi、Moschip Technologies、ASM Technologies、Saankhya Labs、Chiplogic Technologies 等の名前が挙げられます。

3. インド政府による投資誘致の取り組み

前述の調査から分かるように、インドでは拡大する一方の需要に対して自国での半導体部品生産量は少なく、多数を輸入に頼っていますが、インド政府は国内生産拡大を目指す取り組みも行っています。
2022年4月~5月にバンガロールで行われた半導体国際会議「セミコン・インディア2022」では、ナレンドラ・モディ首相が直々に演説を行い、半導体製造投資先としてのインドの魅力をアピールしました。
インド政府は、かねてから製造業振興策スローガン「Make in India」を掲げており、半導体製造においては、生産高に応じて補助金支給を行う生産連動型インセンティブ(PLI:production-linked incentive)制度 、半導体を含む特定の電子部品製造の資本支出に対してインセンティブを支給する措置電子部品・半導体製造促進政策(SPECS :Scheme for Promotion of Manufacturing of Electronic Components and Semiconductors) 等の現地生産促進策を設けていますが、今年度の上半期だけでも、以下のような投資案件の発表がされています。
カルナタカ州:2022年5月、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国の投資ファインドネクスト・オービット・ベンチャーズ、イスラエルのタワー・セミコンダクター社(米インテルが買収予定)等によるコンソーシアム(企業連合)ISMCが、インド国内初の半導体工場を設立すると発表。65nm(ナノメートル)のアナログ半導体拠点をカルナタカ州マイソールに設立予定で、30億ドルの投資を行う覚書(MOU)をカルナタカ州と締結。
マハラシュトラ州 :2022年7月、台湾フォックスコンとインド大手ヴェーダーンタが半導体製造合弁会社を設立、220億ドルの投資計画を発表。
タミル・ナドゥ州:2022年7月、シンガポール系投資ファンドIGSSベンチャーズが32億ドルを投資、同州に半導体ハイテクパークを設立予定の覚書(MOU)をタミル・ナドゥ州と締結 。
タミル・ナドゥ州:2022年8月、タミルナドゥ州の半導体製造会社ポリマテック社は、10億ドルを投じて同州のチップセット(※)製造・包装工場を拡張する。創業者ナンダム・エスワラ・ラーオ氏は、同生産拠点の第一フェーズでは年間2億5000万チップを生産する能力を持つことになるとコメント。

また、台湾フォックスコンの主要納入先である米アップルは、2022年9月26日に新型スマートフォン「iPhone14」をインドで生産すると発表しました。
※チップセット:「複数の半導体チップを組み合わせて製品として販売したり、サブシステムを構成したりすることを意味します。現状のチップセットは、ほとんどが2個または3個の半導体チップで構成されています」(EDN Japan記事より)。

4. インドは世界の半導体生産拠点になれるのか!?

インドは半導体部品製造において、革新期を迎えようとしています。Business Standardの記事によると、米国で、米国政府による補助金提供を受けて半導体や先端技術の工場を米国内に設立する企業が、今後10年間、中国にそのような工場を設立することを禁止するCHIPS法(CHIPS and Science Act)が2022年8月に成立 し、インドがその恩恵を受けるのではないかと言われています。 インド政府のPLI(前述)による補助金は約100億米ドル と、米国の補助金総額約530億ドルの5分の1程度で、米国と比較をすると決して規模が大きいわけではありませんが、半導体製造企業が世界的な事業拡大を見据え、中国がその投資先の選択肢ではなくなりつつあることによって、インドがより良い選択肢になる可能性も充分に考えられます。今後、人材プールと資源が正しく活用されれば、インドは世界の主要な半導体部品サプライヤーとなりうる可能性を秘めているといえるでしょう。

       

参照元データを見る

一般社団法人 日本半導体製造装置協会(Semiconductor Equipment Association of Japan : 略称SEAJ) 半導体とは
https://www.seaj.or.jp/semi/about_semi.html

Consumption of Indian Semiconductor Components to Climb to $300-Billion Cumulative Revenue During 2021-2026
https://www.counterpointresearch.com/indian-semiconductor-components-market-300bn-2021-2026/

Top 10 Leading Semiconductor Manufacturing Companies in India
https://startuptalky.com/top-semiconductor-companies-india/

Top 10 Semiconductor Manufacturing Companies in India
http://www.electronicsandyou.com/blog/top-10-semiconductor-manufacturing-companies-in-india.html

Top Semiconductor Companies in India: Factors affecting them
https://www.indmoney.com/articles/stocks/top-semiconductor-companies-In-india

Semicon India Conference-2022: Full text of PM Modi’s speech
https://www.moneycontrol.com/news/business/semicon-india-conference-2022-full-text-of-pm-modis-speech-8430641.html

Production Linked Incentive Scheme (PLI) for Large Scale Electronics Manufacturing
https://www.meity.gov.in/esdm/pli

Scheme for Promotion of Manufacturing of Electronic Components and Semiconductors (SPECS)
https://www.meity.gov.in/esdm/SPECS

ISMC to invest Rs 22,900 cr in Karnataka on semiconductor fabrication plant
https://www.business-standard.com/article/companies/ismc-to-invest-rs-22-900-cr-in-karnataka-on-semiconductor-fabrication-plant-122050100717_1.html

Vedanta Group Foxconn to invest ₹1.6 lakh cr in Maharashtra, likely to generate over 2 lakh jobs
https://www.livemint.com/news/india/vedanta-group-foxconn-to-invest-rs-1-6-lakh-crore-in-maharashtra-11658852054164.html

Tamil Nadu bags IGSS ventures’ Rs 25,000 cr semiconductor park
https://economictimes.indiatimes.com/industry/cons-products/electronics/singapore-firm-to-set-up-rs-25600-crore-hi-tech-semiconductor-park-in-tamil-nadu/articleshow/92599723.cms?from=mdr

Indian co invests $1bn for semiconductor manufacturing facility in Tamil Nadu
https://www.livemint.com/technology/tech-news/indian-co-invests-1bn-for-semiconductor-manufacturing-facility-in-tamil-nadu-11659525906870.html

チップセットとコアロジック
https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/1208/24/news016.html

米「CHIPS法」成立、半導体の国内製造支援に約7兆円投入へ

https://japan.zdnet.com/article/35191687/

Indian semiconductor industry may benefit from the proposed US CHIPS Act
https://www.business-standard.com/article/current-affairs/indian-semiconductor-industry-may-benefit-from-the-proposed-us-chips-act-122090900695_1.html

With Rs 76,000 crore PLI scheme, India set to action its semiconductor fab vision
https://economictimes.indiatimes.com/small-biz/sme-sector/with-rs-76000-crore-pli-scheme-india-set-to-action-its-semiconductor-fab-vision/articleshow/88848107.cms

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執筆者紹介About the writter

安本 理恵 | Rie Yasumoto
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。2023年3月に退職。