Indian Market "Insight"

インド市場の”今”を知る

Vo.012 インドにおける恋活・婚活マッチングサービス市場

1. 米マッチグループ社と印Shaadi.com社による戦略的協議

2023年2月23日、米系大手マッチグループ社(日本のマッチングアプリPairs(ペアーズ)を運営するエウレカ社や米Tinder(ティンダー)の株主としても有名)が、インドの婚活プラットフォーム大手Shaadi.comへの戦略的投資に関する継続的協議について現在最終段階にあることをインドの経済紙The Economic Timesが報じました。 Shaadi.comは非常に業績が良く、2023年下半期に上場を目指していると創業者が発言したことが昨年報じられましたが、その直後の今回のニュースは大きな話題を呼ぶこととなりました。

2. インドの婚活・恋活マッチングサービス市場規模

インドの婚活マッチングサービス市場は、2023年に2億9,210万米ドルの売上規模に達するまでに成長を果たし、今後も2027年まで年間0.91%の率で成長し続け、3億290万米ドルになるものと予想されています。また、ユーザー数においては2027年には2,942万人に達すると予測されています。
更に、恋活マッチングサービスを含むインドの出会い系サービス市場全体は、2027年にその市場規模が4億310万米ドルになると予測されており 、インドのオンラインマッチングサービス登録者数は世界第二位で、全世界の23%を占めているという調査もあります。
インドでは何世紀にもわたって、お見合い結婚が主流ですが、日本と違い、一般的に婚活と恋活は全く別物として捉えられているようです。

3. インドの婚活・恋活事情

インドにおける恋愛結婚は現代でもまだ珍しく、いまだに伝統的な親族の社会的・経済的なステイタスを維持するためのお見合い結婚が主流です。カースト制度が根強く残る社会において、結婚で重要視されるポイントとして相手も自身と同じカーストに属することが挙げられます(インドの憲法においてカーストを理由とする差別行為が禁止されていますが、カースト制度そのものは引き続きインド社会の中で脈々と受け継がれています)。BBCの記事によると、7万人以上を対象とした 2014 年の調査では、所属カースト外の配偶者がいると回答したインド人は 10% 未満でした。更に、16万世帯以上を対象とした2018年の調査では、既婚のインド人の93%が、お見合い結婚であり、恋愛結婚をしたと回答した人はわずか3%でした。
インドでは、親が自分の子どもにふさわしい相手を見つけるために、結婚相談所、婚活Webサイト、新聞のお見合い相手募集広告、親族の伝手や所属コミュニティ・カースト内のサービスを利用して婚活をするのが一般的です。インドで人気のサービスは、前述のShaadi.com、Jeevansaathi、Bharat Matrimony等で、どのサイトでも年齢や職業のほか、言語や宗教、カースト等のフィルターでプロフィールの検索ができます。Bharat matrimonyにおいては、再婚者専用のDivorce Matrimony、海外在住者専用NRI Matrimony等のサービスも用意しています。このような婚活サイトは両親が登録して使う事も一般的で、本人が知らない間にプロフィールが登録されていたという話もよくあります。また、Netflixのリアリティショーで話題になった、富裕層向けの個人による仲人サービス 等も健在です。

また、海外指向が強く、海外に移住しているインド人であっても、同じバックグラウンドを持つ伴侶を求めて、お見合い結婚をする人も少なくありません。地域や所属コミュニティ・カーストによって異なる結婚式やしきたりを重視する家庭も多く、例えば、ダウリー(新婦による持参金)は、1961年以降法律で禁止されており 、刑事罰が課されるのにもかかわらず、ダウリーの額が低いことによる新婦へのいじめ、酷い場合は殺人事件のニュースが後を絶ちません。 また、表には見えなくても、新婦側親族による贈答品や結婚式費用負担等の方法で、習慣として今も根強く残っています。
一方、恋活・出会い系サービス市場は、急速な変化を遂げており、前述の通り、婚活市場よりも規模が大きいものと推測されています。性別や宗教を超えた関係が社会的に認められていないこの国で、結婚を目的としない若者たちも、スマートフォンの普及により、マッチングアプリを利用して交際相手を探すようになっているようです。インドでよく使われているマッチングアプリは国際的に大手のTinder、Bumble、Okcupid、Happenあたりですが、インド発のアプリも続々と登場しています。
インドのスタートアップメディアYOURSTORYのパネルディスカッションイベントで、後述Aisle創業者Able Joseph氏が語ったところによると、同社は2021年に現地語毎にマッチングアプリをローンチし始めたことにより、ティア1(人口400万人以上)の大都市に比べ、ティア2(人口100万人~400万人未満)、ティア3(人口50万~100万人未満)の都市は、より保守的で、恋愛がタブー視されている傾向があるにもかかわらず、売上、ユーザー数共に成長率が非常に良いことが分かっています。
(注)ティア:人口規模毎のインド国内都市の分類。ティア1はデリー、ムンバイ、ベンガルール等の大都市、ティア2以降は中小規模となり、英語以外の現地語の需要・使用頻度が高まる傾向にあります。

4. インド発のマッチングアプリ

最後に、インド発マッチングアプリを手掛ける2社を紹介します。

1. Aisle

https://www.aisle.co/
Aisleは、インド・ベンガルールで2014年に創業されました。
現在、Aisleは2021年以降、現地語、地域に特化したマッチングアプリ、Arike(ケララ州マリヤラム語)、Anbe(タミルナドゥ州タミル語)、Neetho(アンドラ・プラデーシュ州テルグ語)、HeyDil(北インド)に留まらず、2023年1月、先進的なZ世代に特化したJalebiをローンチしています。 また、2023年3月、フードデリバリー大手Zomatoの初期インベスターでもあるInfoEdge社が、Aisleの株式76%を9億1千万ルピーで取得しています。

2. TrulyMadly

https://trulymadly.com/
TrulyMadlyは、AIによるニセプロフィールやフィッシングアカウントの排除を行っており、「安心・安全の真剣交際プラットフォーム」であることを売りとするマッチングアプリです。同社によると、2022年9月時点で、ユーザー数は1千100万人を超え年間成長率90% で成長しており、2026 年までに 1 億ドルの収益を目標としています。また興味深いのは、同社の新規ユーザーの 54% 以上と収益の 42% がティア 2 およびティア 3 の都市によるものであることです。同社も、複数のベンチャーキャピタルより合計約300万ドルの投資を受けています。

5. まとめ

こうしたマッチングアプリの普及は、スマートフォン、インターネットへのアクセス向上、若年層の急増により加速しているインドの急速な発展を裏付けており、変わりゆくインドの社会規範を、新世代とテクノロジーが後押ししてゆくことが予想されます。

       

参照元データを見る

Exclusive: Nasdaq-listed Match group explores investment in Indian matrimonial site Shaadi – https://ecoti.in/VCma3Z25

Shaadi.com Looking For A Take Two At IPO In Next 12 Months: Report
https://inc42.com/buzz/shaadi-com-looking-take-two-ipo-next-12-months-report/

Matchmaking – India
https://www.statista.com/outlook/dmo/eservices/dating-services/matchmaking/india

Dating Services – India
https://www.statista.com/outlook/dmo/eservices/dating-services/india#revenue

Online dating: how markets and demographics differ Online dating: how markets and demographics differ

Online dating: how markets and demographics differ

What the data tells us about love and marriage in India
https://www.bbc.com/news/world-asia-india-59530706

Indian Matchmaking
https://www.netflix.com/in/title/80244565

The Dowry Prohibition Act, 1961
https://wcd.nic.in/act/dowry-prohibition-act-1961

Woman complains of harassment for dowry
https://www.thehindu.com/news/national/karnataka/woman-complains-of-harassment-for-dowry/article66463541.ece
HERE’S HOW THE DATING INDUSTRY IN INDIA IS EVOLVING WITH CHANGING TIMES
https://yourstory.com/2021/11/dating-industry-india-aisle-truly-madly

India’s Tier 2 and Tier 3 Cities: Are They Right for Your Business?
https://www.india-briefing.com/news/india-tier-2-tier-3-cities-15932.html/

Aisle launches Jalebi, a dating app for generation Z
https://timesofindia.indiatimes.com/gadgets-news/aisle-launches-jalebi-a-dating-app-for-generation-z/articleshow/96887686.cms

InfoEdge acquires 76% stake in Aisle
https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/infoedge-acquires-76-in-aisle-for-rs-91-crore/articleshow/90079812.cms

How TrulyMadly Onboarded 11 Mn+ Users By Building A Safe Online Dating Experience
https://inc42.com/startups/how-trulymadly-onboarded-11-mn-users-by-building-a-safe-online-dating-experience/

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執筆者紹介About the writter

安本 理恵 | Rie Yasumoto
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。2023年3月に退職。