Vol.018 :インドの税務調査が変わる?コロナ禍で進む非接触型スキームの導入
- Faceless Penalty Scheme, 2021の導入
- 非対面型税務調査スキームに導入されたユニット制とは?
- 非対面型罰則スキーム(FPS)に導入されるユニット制とは?
- インドの税務調査プロセスの今後の行方
1.Faceless Penalty Scheme, 2021の導入
インド直接税委員会は、2021年1月12日、税務調査における追徴課税について非対面型の手続きを可能とする新たなスキームを発表しました。非対面型罰則スキーム(FPS :Faceless Penalty Scheme)と呼ばれるこのスキームは、インド政府が打ち出した課税制度改革案の1つであり、2020年8月に発表された非対面型税務調査スキーム(Faceless Assessment Scheme)及び非対面型不服申し立てスキーム(Faceless Appeals Scheme)に対応しています。
2020年8月に発表された課税制度改革案では、納税者保護の観点から課税手続きを抜本的に見直し、手続きの非対面化・自動化を進めることで効率性や透明性、説明責任の向上を図っています。当局による追徴課税のプロセスを大まかに分けると、①担当官による税務調査②納税者による不服申し立て③更生通知となりますが、今回発表された非対面型罰則スキームは、この3番目のプロセスに適用されるものです。
2.非対面型税務調査スキームに導入されたユニット制とは?
非対面型税務調査スキームにおいては、納税者はすべてのコミュニケーションが電子メールや税務当局のポータル等を通じて実施されることになっています。また、以下4つのユニットで構成される地域電子調査センター(ReACs : Regional e-assessment centers)を通じて税務調査が実施され、自動割り当てシステムによって、各ユニットに対して調査事案の担当業務が割り振られる仕組みになっています。
- 調査ユニット(Assessment Units):通知書(Assessment Order)の作成・修正を担当
- 検証ユニット(Verification Units):根拠証憑や証言等に基づく税務調査の実施を担当
- 専門ユニット(Technical Units):専門知識に基づく調査支援およびアドバイスを担当
- レビューユニット(Review Units):調査ユニットが作成した通知書のレビューを担当
3.非対面型罰則スキーム(FPS)に導入されるユニット制とは?
このスキームが画期的なのは、非対面型税務調査スキームと同様、更生手続きにおいてもユニット制による職務分掌が導入された点です。1つの課税事案の検討を行う際に、更生請求の起案を担う「罰則ユニット(Penalty Unit)」と更生案をレビューする「罰則レビューユニット(Penalty Review Unit)」のそれぞれ独立した部署が検討するため、検討手続きの効率性や各ユニットの専門官の説明責任が向上することが見込まれます。
また、ユニット制では担当官の恣意的な判断が入る余地がなく、納税者への更生通知においてもレビュー内容が明示されるため、透明性のある客観的な課税判断が期待されます。
4.インドの税務調査プロセスの今後の行方
これまでの直接税における調査プロセスにおいても、電子手続き(e-Proceeding)の導入により比較的スムーズに税務調査が行われていましたが、税務調査の担当官によっては引き続き対面による聴取や根拠証憑の原本確認を求めるケースが散見され、納税者の大きな負担となっていました。
また、税務調査の担当官によって見解が異なるケースや、賄賂など汚職の可能性もあるため、今回導入された包括的な非対面型のスキームは、担当官の恣意性が排除と納税者の保護という観点から、税務調査プロセスおよび更生手続きの改善が期待できるといえます。
日系企業においても理不尽な税務調査、長期にわたる税務訴訟、調査官からの賄賂の要求に悩まされるケースがあることから、この非対面型スキームの導入により、少しでも日系企業の税務紛争に対する負担が軽減されることを願っています。