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Vol.33 : 仲裁について契約書に明確に定めておくことの重要性

(文責:Rianna Lobo, 奥晋之介/Global Japan AAP Consulting Private Limited)

今回は、契約当事者間における紛争を解決する手段として、インドでも特に重要な仲裁(Arbitration)について、契約書に明確に定めておくことの重要性についてご説明をしたいと思います。なお、仲裁についての概要はVol.27の冒頭をご参照ください。

2021年7月29日、デリー高等裁判所は、条項の見出しに仲裁という言葉を使用してたとしても、仲裁に係る詳細な記載が条項本文にない場合は、仲裁について契約者当事者間で合意があったとは見做されないとの判決を下しています。

判例内容

2021年7月29日,MyFojoという料理レシピアプリを開発・運営するFoomill Pvt. Ltd. (以下「原告」)とレコメンド広告などのプラットフォームを開発・導入を事業としているAffle (India) Ltd. (以下「被告」)は,ソフトウェア開発に関するマスターサービス契約を締結しました。原告は、被告に当該プロジェクトが遅延していることに対する懸念を伝えましたが、被告は「要求内容の不一致」があったため、当該プロジェクトを保留にしたと原告に通知しました。被告が友好的に解決する意思を示さないため、原告はマスターサービス契約の第 11 条に基づく仲裁を求める法的通知を送付しました。
なお、マスターサービス契約の第11条の内容は次のとおりです。

“11.Jurisdiction, Arbitration & Dispute Resolution
This Agreement and any dispute or claim relating to it, its enforceability or its termination shall be governed and interpreted according to the laws of India subject to this Clause 11, the Courts at Delhi, shall have exclusive jurisdiction over any disputes under this Agreement.”

“11. 裁判管轄、仲裁および紛争解決
本契約および本契約の遂行または終了に関連する紛争は、本第11条に従い、インドの法律に準拠し、同国法律に基づいて解釈されるものとし、デリーの裁判所が本契約に基づくあらゆる紛争について専属的管轄権を有するものとします。”

しかし、条項の見出しに「仲裁(Arbitration)」という言葉を使用していたとしても、被告は当該通知に対して、両者間には仲裁合意も仲裁条項さえも存在しないと主張しました。これに対するデリー高等裁判所の判決は次のとおりです。

デリー高等裁判所は、Bernhard consultancy Pvt ltdの判例を引用し、マスターサービス契約の第11条で効力のある仲裁合意が締結されたとは見做されないとの判決を下しました。Bernhard consultancy Pvt ltdの判例(2001年6月29日)では、アンドラプラデシュ州高等裁判所が、条項の見出しに「仲裁」と記載されていたとしても、本文では仲裁地をハイデラバードと定めているだけであり、仲裁合意について詳細な記載がないため、仲裁合意にはあたらないとの判決を下しています。

なお、デリー高等裁判所は、Trimex International FZE Limitedの判例(2010年1月22日)で、契約書において当事者が係争を仲裁に委ねることを望んでいたことを意図として汲み取れることを理由に、最高裁判所があいまいで不明確な仲裁条項の有効性を支持したことにも言及し、仲裁契約を締結する当事者の意図は、契約書の条項からくみ取る必要があると前置きしています。

その上で、デリー高等裁判所は、マスターサービス契約書の第11条で使用されている文言は、当該契約において生じた紛争はデリー高等裁判所の専属管轄権に服すべきであると記載されているのみであり、仲裁に係る詳細が記載されていないため、紛争解決を特定の仲裁機関に委ね、その決定に従うという契約当事者の意図を示すものであるとは言えないとし、マスターサービス契約書の第11条は仲裁合意として不適格であると判断しました。

まとめ

仲裁法(Arbitration and Conciliation Act, 1996)によると、契約から生じる紛争を仲裁に付託するためには、当事者間に有効かつ拘束力のある仲裁合意がなければなりません。仲裁合意は、法的関係から生じる紛争を仲裁に委ねるという当事者間の合意であるか、契約内の条項である可能性があります。ついては、仲裁を紛争解決の手段として考慮している場合は、契約書に条項本文に仲裁に係る詳細について記載し、当該契約を締結する当事者間で仲裁について明確な意図と合意があることを示す必要があります。いざという時に仲裁という紛争解決手段が使えないといったような状況に陥らないためにも、下記の例のように契約書に紛争解決を仲裁に委ねる旨について明確に定めておくことが重要です。

” If a dispute arises out of or relates to this Agreement, or the breach thereof, the Parties shall refer the dispute to arbitration conducted by a sole arbitrator [or a tribunal] appointed by the parties mutually. The arbitration shall be conducted in English and the venue shall be [any place in India]. The decision of the arbitrator shall be final and binding on the parties and each party shall bear its own costs for the arbitration proceedings.”

“紛争が本契約またはその違反に起因または関連して生じた場合、両当事者は、紛争を、両当事者が相互に指名する唯一の仲裁人[または審判所]によって行われる仲裁に付託するものとします。仲裁は英語で行われるものとし、裁判地は[インドの任意の場所]とします。仲裁人の決定は、当事者に対して最終的かつ拘束力を有するものとし、各当事者は、仲裁手続きに要する費用を自己負担するものとします。”

*上記はあくまで一例になりますが、契約内容や契約当事者によって適した条項を明確に設ける必要がございますので、契約締結に際してはぜひこのような点も考慮した上で契約書のレビューを実施されることをおすすめいたします。

               

執筆者紹介About the writter

奥 晋之介 | Shinnosuke Oku
学生時代に2015年~2018年の3年間、在ベンガルール日本国総領事館にて在外公館派遣員として勤務。その後、インド大手ITサービス企業の日本法人に入社し、製造実行システム導入の構想策定プロジェクトへの参画や提案活動に従事。インド進出日系企業の支援に関わりたいとの想いから、2022年に当社に参画し、再びベンガルールへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や労務、インド市場調査業務を担当。